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春秋花壇

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老障介護

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老障介護

67歳の美代子は、老母の介護を始めてから10年が経過していた。母親、恵子は80歳を過ぎ、認知症を患っており、介護が欠かせない状態だった。美代子は、かつての自分の夢を諦め、母親のために全力を尽くしてきた。彼女の家は、古びたアパートの一室で、狭いながらも温かみのある空間であった。美代子は朝から晩まで、母親の世話に追われる日々を送っていた。

ある日の朝、美代子は目覚まし時計の音で目を覚ました。母親がいつもより早く目を覚ました様子で、ベッドの中で動き回っていた。美代子は急いで起き上がり、母親のもとへ駆け寄った。

「お母さん、もう起きる時間だよ」と優しく声をかけながら、母親の寝具を整える。

恵子は混乱した様子で美代子を見上げ、「あなたは誰?」と尋ねた。美代子は少し心が痛んだが、穏やかに微笑んで「私は美代子です、お母さんの娘ですよ」と答えた。

日々の介護は、予測不可能な事態の連続であった。恵子の認知症は進行し、時折昔の話を繰り返したり、まったく別の人の名前を呼んだりすることがあった。美代子はその度に辛抱強く対応し、母親の要求に応えることを心がけていた。

ある日、母親の様子が急に変わった。昼食の準備をしていた美代子のもとに、恵子が突然「ここに誰かいるの?助けて!」と叫びながら、キッチンに飛び込んできた。美代子は驚きながらも落ち着いて、「お母さん、大丈夫ですよ。何も心配いりません」と言い、母親をなだめる。

その日の午後、美代子は介護サービスの専門家である高田さんを訪ねることに決めた。高田さんは、介護に関する知識と経験が豊富で、恵子の状態に合ったアドバイスをくれるかもしれないと考えたからだ。

高田さんは、美代子と恵子の話をじっくり聞いた後、「お母さんの状態が進行していることは理解しました。しかし、少しずつ介護の方法を見直す必要があるかもしれません」と話した。美代子は頷き、「はい、どうすればいいでしょうか?」と尋ねた。

高田さんは、認知症の患者に対して適切な環境を整えることが重要だと説明し、例えば、家の中のサインを分かりやすくしたり、生活リズムを安定させたりする方法を提案した。また、短時間でもリフレッシュできる方法として、介護支援を受けることも勧められた。

美代子はそのアドバイスを胸に、帰宅後に家の環境を見直し始めた。部屋に目立つサインを掲げ、日常生活のリズムを整えるためのスケジュールを作成した。さらに、介護支援サービスを利用するための手続きを進めることに決めた。

数週間後、介護支援サービスが開始され、美代子は少しずつ楽になることを感じた。支援スタッフが訪れることで、美代子は日常の介護から少しだけ解放される時間を持てるようになり、心の余裕ができた。

ある日、支援スタッフが帰った後、美代子は恵子と一緒に散歩に出かけた。気持ちの良い風が吹く公園で、二人はゆっくりと歩いた。恵子は穏やかな表情を浮かべ、「ここはいいところね」とつぶやいた。美代子もまた、母親が少しでも幸せであることを感じて、心から嬉しかった。

「お母さんが喜んでくれるのが、私の一番の幸せです」と美代子は心の中で呟いた。彼女はこれからも、愛と優しさを持って母親を支え続ける決意を新たにした。介護という厳しい現実の中でも、美代子の心には希望と温かさが灯っていた。








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