生きる

春秋花壇

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にんげん生きているうちは、終わりということはないんだな

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にんげん生きているうちは、終わりということはないんだな

冬の冷たい風が吹く中、佐藤幸一は窓の外を眺めていた。彼は七十歳を迎えたばかりで、退職してからもう十年が経っていた。時間の流れは早いもので、彼の周りからは少しずつ友人や知人が姿を消していった。最近は特に孤独を感じることが多かった。

「人間、生きているうちは終わりということはないんだな…」

そう呟いた彼の耳に届いたのは、孫の健太の声だった。健太は大学生になり、忙しい日々を送っているが、時々祖父の家に遊びに来ることがあった。

「おじいちゃん、何してるの?」
「いや、ちょっと考え事をしていたんだよ」

健太は祖父の隣に座り、窓の外を一緒に見つめた。冬の庭は静かで、木々の枝には雪が積もっていた。

「おじいちゃん、今日は一緒に何か作ろうよ。僕が手伝うからさ」

幸一は孫の提案に少し驚いたが、同時に嬉しさも感じた。最近は料理をする気力もなくなっていたが、健太と一緒ならば楽しめるかもしれない。

「それもいいな。じゃあ、今日は昔作ったおでんでも作ろうか」

二人はキッチンに向かい、早速準備を始めた。幸一は昔ながらのレシピを思い出しながら、材料を切り始めた。健太も手際よく手伝い、二人の作業はスムーズに進んだ。

「おじいちゃん、この大根の切り方、なんだか特別だね」
「これはな、昔おばあちゃんが教えてくれたんだ。大根をこうやって切ると、味が染み込みやすくなるんだよ」

幸一は懐かしそうに語りながら、丁寧に大根を切り分けた。健太はその話に興味津々で、さらに質問を重ねた。

「おばあちゃんとおじいちゃん、どんな風に出会ったの?」
「それはな…」

幸一は微笑みながら、若かりし頃の思い出を語り始めた。戦後の混乱の中、彼は一生懸命働き、未来を築くために頑張っていた。その中で出会った妻との思い出は、彼にとってかけがえのない宝物だった。

話に花が咲く中で、二人はおでんの具材を次々と鍋に入れ、ゆっくりと煮込んでいった。家中に広がる美味しそうな匂いが、幸一の心を温めた。

やがて、おでんが完成した。幸一と健太はテーブルに座り、熱々のおでんを前にして手を合わせた。

「いただきます」
「いただきます、おじいちゃん」

おでんを口に運ぶと、幸一は懐かしい味に胸が熱くなった。健太もまた、美味しそうにおでんを頬張りながら、祖父と過ごす時間を楽しんでいた。

「おじいちゃん、このおでん、本当に美味しいよ。おばあちゃんもきっと喜んでるね」
「ああ、そうだな。お前と一緒にこうやって過ごせることが、何よりの幸せだよ」

二人は笑顔で食事を続け、会話も弾んだ。そのひとときが、幸一にとってどれだけ大切なものであるか、彼自身も再認識した。

夜が更けると、健太は帰り支度を始めた。幸一は玄関まで見送り、孫に手を振った。

「また来るからね、おじいちゃん」
「ああ、待ってるよ」

健太が去った後、幸一は一人で静かなリビングに戻った。しかし、心の中には温かな感情が残っていた。

「人間、生きているうちは終わりということはないんだな」

再び呟いたその言葉は、今度は確信を伴っていた。たとえ歳を重ねても、新しい思い出を作り続けることができる。生きている限り、人生には終わりなどないのだと。

幸一は微笑みながら、暖かい布団に包まれて眠りに就いた。未来に向けて、心の中に新たな希望を抱きながら。
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