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築61年の再建築不可物件をキャッシュで買ってみた

築61年の再建築不可物件

薄暗い路地裏にひっそりと佇む、築61年の木造二階建て。古びた瓦屋根、色あせた外壁、蔦が絡みつく窓枠。一見すると、廃墟かのように見えるその家は、私の新しい住処だった。

不動産屋曰く、「再建築不可物件」とのこと。つまり、この家を解体して新しく建てることはできない。土地の価値のみでしか評価されない、いわば"負動産"だ。

それでも、私はこの家を買った。現金で。

周囲からは、「なぜそんな古い家を？」と呆れられた。確かに、最新設備もなければ、広々としたリビングもない。しかし、私にはこの家にしかない魅力があった。

それは、時間の重みだった。

一歩足を踏み入れると、懐かしい木の香りが鼻腔をくすぐる。壁や床には、年月を重ねた傷跡が無数に刻まれている。かつてここで暮らした人々の笑い声や、涙声、静かな息遣いまでが聞こえてくるような気がした。

私は、この家で一人暮らしを始めた。

朝は、小鳥のさえずりで目覚める。古びた窓から差し込む朝日が、部屋全体を優しく照らす。夜は、レコードプレイヤーで古いジャズを聴きながら、一人ゆっくりと時間を過ごす。

ある日、二階の奥の部屋で埃まみれの古いアルバムを見つけた。そこには、見知らぬ家族の写真が収められていた。子供たちの笑顔、夫婦の仲睦まじい姿、老夫婦の穏やかな表情。

私は、この家の過去に触れたような気がした。かつてここで暮らした人々の温もりを感じることができた。

この家は、単なる建物ではない。

それは、誰かの思い出、人生の証なのだ。

私は、この家をただ住むだけの場所ではなく、過去の記憶と未来の夢が交差する場所にしたいと思った。

少しずつ、この家を改装していく。古材を生かした温かみのある空間を作りたい。そして、いつかこの家に人を招き、語り合い、共に時間を過ごしたい。

築61年の再建築不可物件。

それは、私にとってかけがえのない宝物だ。

この家で、私は自分の人生を築いていきたい。

この家で、私の物語が始まる。