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命あっての物種

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命あっての物種

「うっ、さむ…」アランが再び肩をすくめ、寒さに震えながら呟いた。

「軽装だからなぁ、仕方ないよ」フィオナも不満そうに言う。周りの仲間たちも同じように震えている。寒冷地帯のダンジョン深部に足を踏み入れた時、彼らはすぐにその異常な寒さに気付いた。異世界の魔法で冷気を操る力を持ったモンスターに遭遇したとき、寒さの攻撃が彼らの体力を急速に奪っていった。

「異常だよ、ここは」ユリシアが言うと、魔法使いのオスカーが頷いた。

「確かに、普通のダンジョンと比べて温度差が激しすぎますね。こんなに寒いところで戦うのは無理だ」オスカーの言葉に、他のメンバーも同意の顔をしている。

ユリシアは、仲間たちの表情を見渡しながら考えた。このまま無理に進んでも全員が凍え死んでしまう。だからこそ、冷静に撤退を決意したのだ。

「そうだよね、これじゃ進めない。みんな、すぐに帰ろう」ユリシアが言うと、他の仲間たちも一斉に頷いた。

しかし、進行方向にはまだ遠くの出口が見える。帰るにはかなりの距離がある。それを考えると、早急に対策を考えなければならない。ユリシアはふと、背中にかけている魔法のバッグを思い出した。

「そうだ、バッグがあった!」ユリシアは顔を上げ、リアに向かって言った。「このバッグに、体幹装備や防寒具を詰め込んでおけば、少しは楽になるんじゃない?」

リアは眉をひそめた。「防寒具を? あのバッグに?」

ユリシアは頷いた。「うん、あのバッグなら、重いものでもコンパクトにできるし、使えそうだと思う。とにかく、この寒さをなんとかしないと、私たち全員が凍えてしまうよ」

「それもそうだな」リアは少し考え、バッグを開けると、ユリシアが指示した通り、温かい体幹装備や暖かいコート、毛皮、そして乾燥した薪を詰め込んでいった。

その間も、アランやエリス、フィオナたちは、寒さで体が動きづらくなり、ただじっとしていることしかできない。それぞれがどうにか体を温めようと、肩をすくめたり、手をこすったりしている。

「さあ、これで準備は整った」ユリシアがバッグを肩にかけ直し、グッと引き締める。「これで少しは温かくなるはずだ。さあ、みんな行こう!」

仲間たちもやっと、冷え切った体に少しだけ希望の光を感じ取ったのか、一斉に立ち上がる。だが、寒さの中でどれだけ心を奮い立たせても、体力を消耗することには変わりない。ユリシアは後ろを振り返り、ダンジョンの冷たい空気が再び押し寄せてくるのを感じた。

「これ、ほんとうに進めるの?」フィオナが不安そうに口にする。

「今は無理だ、また戻らないと」ユリシアはしっかりと答える。「無理に進んだところで、命あっての物種だよ」

「ま、確かにね」アランも苦笑いを浮かべながら言う。「でも、あのバッグがあれば少しは違うかもな」

「うん、これで少しでも温かくなれば、帰り道は楽になるかも」エリスも頷きながら、バッグの中に収められた毛皮を引っ張り出す。

ユリシアはそのまま、歩きながら周囲に注意を払った。進むべき道を見定め、冷気が容赦なく襲いかかってくる中で、仲間たちと協力して行動していくしかない。

道中、何度も足が止まりそうになるが、ユリシアは冷静に歩みを進めていく。全員が無事に帰るために、無理をせず、できるだけ温かい装備を整えておくのが最も賢明だった。

「火が必要だ」オスカーが突然言った。「帰り道で何かできれば、最初の一歩が楽になるかも」

ユリシアはバッグを開け、温かい薪を取り出してみた。「火を育てろ…って言うけど、これでも十分に役立ちそうだよね」ユリシアは薪を手に持ち、冷気の中で少しずつ手を動かしながら、その場で小さな火を灯し始めた。

「おお、これなら少しは温まるかも」リアが言う。

しばらくして、皆がその小さな火にあたって少しずつ温まり、再び歩き出す気力を得た。そのまま慎重に進みながら、無事にダンジョンの出口にたどり着くことができた。

夜空の下、星がきらめく寒空の中で、ユリシアは仲間たちと共に無事に帰路に着く。命あっての物種――それはただの言葉ではなく、現実に命を守るために必要なものだった。

「とりあえず、無事に戻れてよかった」ユリシアは少し安堵の息をついた。

「まあ、明日からまた頑張ればいいさ」アランも少し笑いながら答えた。

そうして、彼らの冬の冒険は、また一つの教訓を得て終わりを迎えた。







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