蛙の唄が聞こえてくるよ

春秋花壇

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はじらい

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実家に帰った茜はゆっくり眠りました。

母が作ってくれた大好きなハムサンドを嬉しそうに頬張りながら

時折思い出したかのように下をむいて、深いため息をついています。

口の中は、ハムときゅうりとマヨネーズがまろやかなこくを奏でて

喉を通り過ぎていきます。

お皿に添えられている半熟卵の山吹色と

ブロッコリーの緑と赤いプチトマトがあでやかさを添えます。

両親は、何時声をかけようかとタイミングを計っているようでした。

「おかあさん、わたしはもうだめかもしれない」

茜からの最後のLineに今すぐにでも飛んで行って、抱きしめてあげたい。

何があったかよーく聞いてあげたい。

胸が押しつぶされそうでした。


でも、夫の満(みつる)茜の父は、

「茜は今、良太君とよい関係を築くために

コミュニケーションの練習をしているのだから、

茜から連絡が来ない限り、口を出さない方がいい」

と、くぎを刺されているのでちゃんとご飯食べれてるんだろうか。

眠れているんだろうか。

寂しくないのか。

元気で暮らしてくれていればいいのだが……。

と、毎日祈るような気持で暮らしていたのです。

食事が終わった茜は、ゆっくりとシナモンミルクを飲み干し、

「あのね、良太さんに見られてしまったの」

そうしゃべると、またぼろぼろと泣き出してしまいました。

「何を見られたの?」

待ってましたとばかりに声をかける母の妙(たえ)

満は目を瞑って黙って聞いています。

「女の子の日の汚れたショーツを洗面器に入れて洗剤につけておいたんだけど」

「うんうん」

「良太さんがお風呂に入るのに、そのままにしてあって」

「お風呂にお湯を張った時には気が付かなかったの?」

「うん、全く気が付かなかったの」

やっとの思いで吐きだしたのか、一段と大きな声で

「もうだめかもしれない。きっと、汚い女。だらしない女と思われたわ」

「そう……」

(わたしにもきっと、こんなうら若き乙女の頃があったんだろうな)

長い年月をかけて、反応しない塗り壁のような心になってしまった。

妙は、自分の変化がちょっと寂しかった。

父である満は、腕組みをしてまだ目を瞑っている。

なんと声をかけていいのか解らないのです。

今の満なら、

「ちゃんと生活できているんだね、洗濯も丁寧にしているんだね」

と、むしろ褒めてあげたいくらいなのだが、

良太さんがどう思ったかを気にして泣いているのだから、

良太さんに聞くしかないと頭の中で答えを探しています。

こんな時、女はきっと聞いてもらえるだけでいいのです。

答えが欲しい訳じゃないのです。

だから、本当は、良太さんに気持ちを打ち明けられたら

例え、答えが与えられなくても茜の気持ちは一段落するのです。

『畳と女は新しい方がいい』

この初々しい反応を良太君はどうとらえているんだろう。

どう対処するんだろう。

良太君自身が、女性の汚れた下着を見るのが初めてだったら

多少ショックを受けるかもしれない。

今の男の人は、女を買ったりしない。

初音ミクのようなバーチャルな女性を頭に浮かべて、

実際に女性を抱いたら、太ももの毛に驚いて、

「永久脱毛どうしてしてしないの?」

と、聞いて蛙化現象した男さえいるという。

それぞれの考え方、それぞれの感じ方。

こればかりは、代弁できるものではないと思うのでした。

「茜はとっても変な事を自分がしてしまったと思うの?」


格言 20:5

人の心の考えは深い所にある水のようだ。

識別力のある人はそれをくみ上げる。


「お耳は二つ、お口は一つでしょう」

と、小さなころから茜に教える母は聞き上手。

井戸水をくみ上げるように茜に話す時間を与える。

「下着をつけ置きしたのは悪い事ではないけど、

良太さんの目に留まるところに置くべきではなかったと思うの」

うんうんと頷いて聞いている。

「じゃあ、どうしようか。これからも女の子の日は毎月あるでしょう?」

「ここにいたときはー」

「うん、ここにいたときは?」

「ふたのあるバケツに入れていた」

「そうね、後で一緒にお買い物に行きましょうか?」

「はい、洗濯物はそれで大丈夫そうだけど、

良太さんはわたしを嫌いになったりしてないかしら?」

また、思い出したように下を向いて涙がこみあげてくる。

大好きな良太さんに嫌われたら、わたし生きていけない。

「良太さんに直接聞いてみることができるかしら?」

茜は、もじもじしながら赤くなりながら

「私がきくの?」

ここで、満ははっきりと

「そう、これは茜と良太君の問題だ」

「そして、かりに良太君がこのことで君に距離を取りたいと思ったとしても

それは、良太君の問題だ」

「え?」

理路整然とAIのように話す父に戸惑うのでした。

全く男というものは、すぐに答えを出したがる……。



消しゴムが あったら消して しまいたい

洗面器の中 汚れた下着


見えている 事実受け入れ 新たなる

関係修復 あなたを信じ


頬染めて おしたい申して おりますと

上目遣いで 乙女の祈り


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