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春秋花壇

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桜色の思い出

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桜色の思い出

陽だまりのような笑顔が溢れる老人ホーム「花水木」。今日は春爛漫の季節にちなんだレクレーションの日。入居者たちは、色とりどりの花柄の服を身にまとい、ワクワクしながら集まっていました。

レクリエーションリーダーの陽子さんは、大きな紙芝居を広げ、語り始めます。

「昔々、桜の花が咲き誇る美しい村がありました。村には、仲良しの少女サクラと少年アキラがいました。二人は毎日のように桜並木を散歩し、花びらを拾っては将来の夢を語り合っていました。」

紙芝居に映し出される美しい桜の絵に、入居者たちは目を輝かせます。中には、懐かしそうに目を閉じる人もいました。

陽子さんは、サクラとアキラの物語を生き生きと演じます。二人が初めて出会った日、桜の下で誓った約束、そして、大人になってそれぞれの道を歩みながらも、変わらぬ友情を育んでいく様子。

物語に引き込まれた入居者たちは、自然と笑顔になり、時折感嘆の声を漏らします。中には、自身の青春時代を思い出して、涙を浮かべる人もいました。

物語のクライマックス、サクラとアキラは、再び桜並木で再会します。長い年月を経ても変わらぬ二人の友情に、入居者たちは温かい拍手喝采を送ります。

陽子さんは、紙芝居を閉じ、入居者たちに語りかけます。

「桜は、春を告げる美しい花です。そして、桜の花のように、私たちの人生にもたくさんの出会いがあります。今日は、皆様の心に咲く桜の思い出を、ぜひ語り合ってください。」

入居者たちは、思い思いに桜の思い出を語り始めます。

「私はね、幼い頃、家族で桜の名所に行ったんだ。満開の桜の下で食べたお弁当は、今でも忘れられない味だよ。」

「私はね、学生時代に、好きな人と桜並木を歩いたんだ。あの時のドキドキ感は、今でも鮮明に覚えているよ。」

「私はね、戦争が終わった後、焼け野原となった街に、一輪の桜が咲いたのを目にしたんだ。あの桜は、希望の象徴だったよ。」

それぞれの言葉には、桜と共に歩んだ人生の喜びや悲しみ、そして希望が込められています。

陽子さんは、入居者たちの話を聞きながら、桜の花のように儚くも美しい人生の物語に心を動かされます。

レクレーションの最後、入居者たちは全員で「さくらさくら」を合唱しました。歌声は、春の陽光に包まれて、高く響き渡ります。

桜の思い出を共有することで、入居者たちは互いの絆を深め、新たな友情を育んでいました。

陽子さんは、今日のレクレーションが、入居者たちにとって心の栄養となり、明日への活力となることを願いました。

桜の花びらが舞い散る中、花水木は、温かい笑顔と歌声に包まれていました。
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