目もかれず 見つつ暮らさむ 白菊の 花よりのちの 花しなければ

目もかれず 見つつ暮らさむ 白菊の 花よりのちの 花しなければ

目もかれず　見つつ暮らさむ　白菊の　花よりのちの　花しなければ

伊勢大輔


目もかれず見つつ暮らさむ　白菊の　花よりのちの　花しなければ
晩秋のある日、彩香は小さな庭の片隅にある白菊の花を見つめていた。白菊は、彼女が生まれる前からそこに咲いていた。季節ごとにその姿を変え、春には新しい芽を出し、夏には一斉に花開く。秋には、最後の力を振り絞るように、白い花弁を広げている。

「白菊、まだ頑張っているね。」彩香は、白菊に向かってつぶやいた。彼女は、自分自身と同じように、この花もさまざまな困難を乗り越えているのだと感じていた。

彩香は、17歳の高校生。ADHD（注意欠陥多動性障害）とRSD（拒絶感受性障害）を抱えながら、日々を送っていた。学校生活は彼女にとって常に困難であり、友人たちとの関係も時折難しさを感じさせるものだった。しかし、白菊の存在は彼女にとっての支えでもあった。どうしても見つめ続けたくなる、その純白の花は、彼女の心に安らぎを与えてくれた。

「見つつ暮らさむ」とは、目を細めてでも見続けること。彼女はこの白菊の花を通じて、様々な出来事を乗り越えられるようになりたいと願っていた。

そんなある日、学校でのことだった。友人の一人が、彩香の特性について話しているのを耳にしてしまった。「やっぱり、あの子はちょっと変だよね。」その言葉が彼女の心に突き刺さった。彩香は、何も言えずにその場を離れた。心の中で自分を責めながら、ただひたすら白菊のことを思い浮かべていた。

「私だって、頑張っているのに。」涙が頬を伝い落ちた。白菊のように自分も頑張りたいのに、他人の目がそれを許してくれないように感じた。

帰宅後、彩香は自分の部屋に閉じこもった。机の上には、白菊の写真が飾られている。彼女はその写真をじっと見つめていた。「どうして私だけが、こんなに苦しむのだろう」と、自問自答していた。

その時、ふと部屋の窓から外を見ると、白菊が月明かりに照らされて輝いているのが見えた。彼女は思わずその光景に心を奪われた。目をかれさせないように、彼女はその光景を見続けた。白菊は、霜が降りる寒さの中でも、自分の美しさを保ち続けている。

「私は、この白菊のようになりたい。」彩香は心の中で決意した。自分自身を受け入れ、他人の言葉に左右されず、強く生きることが必要だと。

翌朝、彼女は学校に行く準備をしながら、自分の気持ちを整理していた。友人たちに自分の特性を説明することを決めた。「私のことを知ってほしい。そして、私もあなたたちのことをもっと知りたい。」

学校に着くと、彼女は友人たちに声をかけた。「私には、少し変わったところがある。時々、君たちに迷惑をかけてしまうかもしれないけれど、私を理解してくれたら嬉しい。」

その言葉に、友人たちは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに優しい笑顔を返してくれた。「そうだったんだ。もっと話を聞かせてほしい。」

その日から、彩香は少しずつ自分を開放していった。友人たちも彼女のことを理解し、サポートしてくれるようになった。彼女は白菊のように、周りの人々とともに成長していくことができるようになった。

日々が過ぎる中で、彩香は自分の特性が彼女自身の一部であることを受け入れ、前向きに生きていく決意を持った。彼女は今、白菊の花のように、自分を誇りに思い、周りの人々との関係を大切にしている。

「花よりのちの花しなければ」— それは、今の自分を大切にし、未来の自分を信じて生きることを意味していた。彩香は白菊のように、どんな環境でも美しく、力強く咲いていくことを決意したのだった。