上手に愛せる日

周囲の人々との関係性

周囲の人々との関係性

君が生まれた頃、私の周りには多くの人々がいた。けれども、彼らとの関係は決して円滑なものではなかった。私がシングルマザーとして生きていく決断をした時、多くの人が反対した。「子供が子供を育てられるわけがない」と、母親は私を責め立てた。父親も「お前にはまだ早すぎる」と言った。彼らの言葉は冷たく、私の未熟さをさらに突きつけるだけだった。私は一人で君を育てる覚悟を決めたものの、心の奥底で彼らの言葉がずっと胸に刺さっていた。

母親との関係は、特に複雑だった。私自身、彼女から十分な愛情を受けたと感じたことは一度もなかった。厳格で感情表現が乏しい人だった母は、私がどんなに頑張っても認めてくれなかった。それでも、私は母としての役割を学ぶために彼女の助けを求めたかったが、彼女に頼ることはできなかった。彼女が私に対して見せる冷たさは、まるで自分が失敗作だと告げられているようだった。

それでも、君が生まれてから数ヶ月後、母は何度か家を訪れるようになった。最初は口うるさく「これではダメだ」と育児に関してダメ出しをするだけだった。しかし、ある日、君が母に初めて笑いかけた時、彼女の顔がほころんだ。それを見て、私の心に少しだけ変化が生まれた。彼女もまた、自分なりの不器用な愛を持っていたのかもしれないと。その日を境に、彼女との関係は少しずつ柔らかくなっていった。完璧な親子関係ではなかったけれど、少なくとも母として私が苦しんでいることを彼女も理解しているのだと感じられる瞬間が増えた。

一方で、父親との関係はより淡白なものだった。彼は私たちをほとんど訪ねることもなく、距離を置いていた。育児に口を出すこともなく、ただ静かに見守るだけだった。父に期待を持っていなかったとはいえ、その無関心さは私の孤独感をさらに強めた。彼は私が幼い頃から仕事に没頭し、家族に関心を持つことはほとんどなかった。君が生まれても、彼の態度は変わらなかった。それでも、何かを求める気持ちはどこかで消えずに残っていた。

そんな中、私を支えてくれたのは、近所に住むアパートの管理人の佐藤さんだった。彼女は私の母親よりも少し年上の女性で、いつも優しい微笑みを浮かべていた。私が育児に疲れているのを察すると、ふらりと訪ねてきて、何も言わずに家事を手伝ってくれたり、君を抱いてくれたりした。最初はその親切が戸惑いでもあり、彼女に依存してしまうことへの恐れも感じていた。しかし、彼女は一切の見返りを求めず、ただ「無理をしないで」と言うだけだった。

佐藤さんとは、次第に育児の悩みを話せる関係になった。彼女は自分の息子もすでに独立していることを話し、「子供ってのはね、意外と自分の足でちゃんと歩くもんよ」と笑った。彼女の言葉には不思議な安心感があった。君が夜泣きして眠れない日々が続いた時、彼女がふと「たまには休みなさい」と君を預かってくれた日、私は久しぶりにぐっすりと眠ることができた。それは私にとって、孤独な戦いから少し解放された瞬間だった。

さらに、私の職場でも一人、頼れる存在がいた。それは同僚の真美さんだ。彼女は私よりも少し年上で、既に二人の子供を持つ母親だった。彼女は私がシングルマザーとして育児と仕事の両立に苦しんでいることを理解してくれ、時にはランチの時間に私を励ましてくれた。「子供がいると、何があっても頑張れるものよ」と、彼女は自分の体験談を交えながらアドバイスをくれた。彼女の言葉には、私が一人で抱えている悩みが他の母親たちとも共有されているのだという安心感を与えてくれた。

しかし、私と彼女たちとの関係も一筋縄ではいかなかった。佐藤さんや真美さんのような親切な人々がいれば、逆に私の育児や生活を批判する人々もいた。職場でも、「シングルマザーは大変だろうけど、仕事のペースが落ちるのは困る」と陰口を叩かれることもあった。そんな時、真美さんは私に「気にしなくていい」と励ましてくれたが、私は時折その言葉すら重く感じることがあった。

君が成長するにつれて、周囲の人々との関係も少しずつ変化していった。母親との距離は依然として縮まりきらないままだが、時折君を預けることができる関係にはなった。父は相変わらず無関心だったが、君が中学校に進むと、運動会や発表会には顔を見せるようになった。そんな時、私は彼の不器用な愛情を少しだけ理解できるようになった。彼もまた、自分なりの形で私たちを気にかけてくれていたのだ。

佐藤さんは今でも時折立ち寄り、君の成長を喜んでくれている。真美さんも仕事を続けながら、時折ランチに誘ってくれる。そのたびに、私は少しずつ心を開けるようになっていった。人との関係を築くのは、愛を学ぶのと同じくらい難しいことだった。しかし、彼らが私の人生にいてくれたからこそ、私は君を育て続けることができたのだと思う。

君が大人になり、独り立ちする日、私は自分が周囲の人々に支えられてここまで来たことに気づいた。愛することも、人とのつながりも、決して一人で学べるものではないのだと。

「ありがとう、君も、そして周りの皆さんも」

私はそう呟きながら、君を育て上げたことに小さな誇りを感じていた。

完