ラスト・クリスマス

ラスト・クリスマス

「ラスト・クリスマス」

去年のクリスマス、ユキは恋人のタカシに特別なプレゼントを贈った。それは、彼女が数週間かけて選び、彼の名前を彫った銀の腕時計だった。包装紙に包み、丁寧にリボンをかけて、手書きのカードも添えた。そこには「メリークリスマス、愛してる」と短く記されていた。ユキにとって、それは彼女の愛を形にしたものだった。

だが、その次の日、ユキはタカシが別の女性と腕を組んで歩いているのを見た。クリスマスイブの温かな思い出は、一瞬で氷のように冷たく砕け散った。タカシが彼女に送り返した腕時計は、まるで彼の裏切りを象徴するかのように、彼女の手元に戻ってきた。

それ以来、ユキは人を愛することを恐れるようになった。一度裏切られると、もう二度と同じ痛みを味わいたくないと心に決めた。翌年のクリスマスが近づいても、街中のイルミネーションや恋人たちの笑顔を見るたびに、胸の中にわずかな痛みが蘇った。

その年のクリスマスイブ、ユキは一人で静かなカフェにいた。お気に入りのテーブルに座り、手元には温かいカフェラテと本があった。彼女は自分に言い聞かせた。「今年は泣かない。誰かに期待しない。」

そのとき、彼女の前に一人の男性が現れた。トモヤと名乗るその男性は、同じカフェの常連だった。彼はふとした瞬間に見せる優しい微笑みと穏やかな声で、ユキの心に小さな火を灯した。

「こんな日に一人なんて珍しいですね。」トモヤが席につきながら声をかけた。

ユキは少し驚いたが、微笑みを返した。「特に予定がなくて。あなたも一人ですか？」

「そうです。クリスマスは特別な日だと思うけど、必ずしも誰かと過ごさなきゃいけないわけじゃないですよね。」トモヤの言葉には、どこか共感できる温かさがあった。

それから二人は、カフェの温かな光に包まれながら話し込んだ。ユキは自分の過去の傷を少しずつ語り始め、トモヤも自分の失恋について語った。互いの言葉に頷き合いながら、二人は気づかぬうちにお互いの心を癒していった。

「去年のクリスマス、私は自分の心を誰かに渡したけれど、それを無惨に返されたんです。」ユキが言った。

トモヤはしばらく黙ってから答えた。「僕も似たような経験があります。でも、だからといって、心を閉ざしてしまうのはもったいないと思うんです。きっと、本当に大切にしてくれる人が現れるはずです。」

その夜、ユキは久しぶりに穏やかな気持ちで眠りについた。彼女の心に芽生えた新たな希望は、まだ小さく、か弱いものだったが、それでも確かな暖かさを持っていた。

翌年のクリスマス、ユキは再びカフェにいた。しかし今度は一人ではなかった。隣にはトモヤが座っていた。二人の間には小さなクリスマスツリーと、プレゼントの包みがあった。

「今年は、ちゃんと大切にする人に心を渡せたみたいですね。」トモヤが微笑んで言った。

ユキは静かに頷き、彼に手を差し出した。「あなたになら、もう一度信じてもいい気がします。」

その言葉に、トモヤはしっかりとユキの手を握り返した。そして、二人の間には新たな愛の物語が始まろうとしていた。