「子供は投資。時間とお金かけて育ててやったんだからリターンは当然。仕送りするのは当たり前」搾取する毒親

根っこの力

『根っこの力』

庭に佇む美樹（みき）は、古い桜の木を眺めていた。小さな庭には、祖父が植えたという桜の木があり、毎年、見事な花を咲かせている。幼いころからこの木が大好きだった美樹は、桜の花が咲くとそれだけで嬉しくなるような気がしていた。

その木は特に何も手をかけられず、庭の片隅にずっと生えていた。なのに春になると毎年欠かさず花を咲かせ、庭を明るくしてくれる。「どうしてこんなに強く、きれいに咲けるんだろう？」と、美樹は不思議に思っていた。

ある日、美樹は母にその疑問をぶつけてみた。すると、母は少し微笑みながら答えた。

「この桜の木の根っこがとても丈夫だからよ。見えないところでね、この木はしっかり根を張って土を支えてくれているの」

その言葉に美樹は驚きながらも、何となく感心して頷いた。見えない場所にこそ木の本当の力がある——それはまるで、家族を支えてくれる両親のようなものだと感じた。

美樹の家は決して裕福ではなかった。父は夜遅くまで働き、母もパートをして家計を支えていた。家族全員が工夫しながら生活をしており、美樹自身もあまり物欲はなく、友人が持っているものを羨ましがることも少なかった。

ただ、時折学校で友人たちが自分の親のことを愚痴っているのを聞くと、不思議な気持ちになった。彼女にとって、親は大切で支えになってくれる存在だったからだ。もちろん、厳しい面もあったが、それは彼女がよく知っている「見えないところで支えてくれる桜の根っこ」のようなもので、いつもそこにある安心感があった。

時が経ち、美樹も高校生になった。彼女はますます将来について考えるようになり、将来は大学に進学したいと夢を持つようになった。しかし、それを実現するための資金が問題だった。奨学金のことも調べてはみたが、それでも不安が残る。

そんな時、母が家計簿を見つめている姿を偶然目にした。どこか疲れたような母の表情を見て、美樹は心の中で謝りたい気持ちになった。自分のために家族が無理をしてしまうのではないかという思いが、胸にわだかまっていた。

「お母さん、無理しないでね」

美樹がそう言うと、母は驚いたような顔をした後、優しく笑った。

「美樹、あなたのためならお母さんもお父さんもどれだけでも頑張れるわよ」

母の言葉に、いつか桜の木について話してくれたことを思い出した美樹は、何も言えず頷くだけだった。彼女は、自分が知らないところで家族が自分を支えてくれていることに改めて気づかされていた。

高校卒業が近づき、美樹はどうしても大学に進みたいという夢を両親に伝える決心をした。家族が苦労しているのは知っているが、それでも自分の夢を叶えたいと思ったからだ。両親は静かに話を聞き、少し考えた後、父がぽつりと「よし、応援するぞ」と言ってくれた。

その一言がどれだけ嬉しかったか、美樹には言葉にできなかった。自分が知らないところで両親がどれだけ努力してくれていたのか、そしてそれでもなお自分の夢を支えてくれるその姿が、あの桜の木の根っこと重なって見えたのだ。

やがて、美樹は無事に大学に進学した。勉強とバイトに追われる日々の中で、ふとした瞬間にあの桜の木のことを思い出すことがあった。その桜の木は、見えない根っこで大地をしっかりと掴み、たくましく育っていたように、彼女の両親もまた見えないところで彼女を支えてくれていた。

ある春の日、久しぶりに帰省した美樹は、庭に咲き誇る桜の木を見つめながら、家族への感謝の気持ちを噛みしめた。自分がここにいるのは、両親という「根っこ」があるからこそなのだと実感したのだ。美樹は自分もまた、家族にとっての支えとなるような「根っこ」になりたいと思うようになった。

彼女が咲かせる花は、両親が育んでくれた根の力によって支えられているのだ。