言の葉でつづるあなたへの想ひ

いま来むといひしばかりに長月の 有明の月を待ちいでつるかな

茶屋の外には、静かな竹林が広がっています。竹の葉は微風に揺れ、月の光がその緑に淡い光を差し込んでいます。茶屋の前には小さな石畳の道があり、そこを時折、風になびく着物をまとった女性が通り過ぎます。その横を、一筋の薄明かりが茶屋の入り口を照らしています。

茶屋の内部は暖かな灯りに包まれています。木の香りが漂い、床に敷かれた畳は柔らかく足を包みます。座敷の一角には、静かに炉が燃えており、その火の光が室内にほのかな暖かみを与えます。

壁には風雅な絵や古い書物が飾られており、その中には月や竹をモチーフにしたものもあります。部屋の隅には、一輪の花が生けられた花瓶があり、その淡い香りが漂っています。

窓からは外の竹林が見え、月の光がその緑を照らし出しています。静かな夜の中、茶屋の内外には神秘的な雰囲気が漂っています。


いま来（こ）むといひしばかりに長月の有明の月を待ちいでつるかな（古今集 恋 691）
　　　　素性法師（そせいほうし 生没年不詳 平安前期 遍照の子 三十六歌仙 書家としても知られる）


あるところに、古都の端に佇む小さな茶店がありました。その茶店の名前は「有明茶屋」と呼ばれていました。茶屋の周りには青々とした竹林が立ち並び、夜になるとその静けさが月の光と共に幻想的な雰囲気を醸し出していました。

ある晩、有明茶屋には一人の旅人が訪れました。その旅人は素性を隠すような佇まいで、どこか寂しげな表情をしていました。茶店の主人は、その旅人にお茶を差し出し、静かなる夜のひとときを共にしました。

旅人は静かにお茶を啜りながら、茶店の窓から外を眺めました。遠くには月が輝き、その光が竹林に差し込んできました。すると、旅人はふと口を開きました。

「いま来（こ）むといひしばかりに、長月の有明の月を待ちいでつるかな」

その言葉に茶店の主人も思わず息をのみました。そして、茶店の中にはしばしの間、静寂が広がりました。

茶屋の主人は旅人に尋ねました。「その言葉は、どういう意味ですか？」

旅人は微笑みながら答えました。「これは私の心情を表す句です。私は長い旅をしてきましたが、今、この茶屋に辿り着いたことで、まるで待ちわびていた月のように心が安らぎました」

茶屋の主人は旅人の言葉を静かに受け止めました。彼らは月の光を浴びながら、深い静寂の中でお互いの存在を感じていました。

そして、その夜は旅人が茶屋で過ごす最初の夜となりました。その後も旅人は何度か有明茶屋を訪れ、茶屋の主人との交流を深めていきました。

彼の素性や旅の目的は茶屋の主人には明かされることはありませんでしたが、その静かなる姿勢と詩のような言葉遣いは、茶屋の人々に多くの感動を与えました。そして、有明茶屋はその後も多くの旅人の心の寄り場となり、長月の有明のように、人々の心を照らし続けました。


茶屋の中には、静寂が漂っています。旅人と茶屋の主人が向かい合って座り、お互いの存在を感じながら、深い静けさの中で会話を交わしています。茶屋の主人の目には、興味と共に旅人の言葉に対する理解が宿っております。

旅人の表情は穏やかでありながらも、どこか寂しげな影が漂っています。彼の目には遠い記憶や切なる想いが宿っているかのように見えます。しかし、その寂しげな表情の奥には、茶屋の温かな雰囲気に安らぎを見出している様子も窺えます。

茶屋の内外から聞こえるのは、竹林のそよ風や虫のささやき、そして遠くから聞こえる夜の鳥の囀りです。これらの自然の音が、茶屋の中に幻想的な雰囲気を醸し出しています。

そして、その静かな夜の中で、言葉よりも深く、心の奥底で交わされる感情が存在しています。茶屋の主人と旅人の間には、言葉に表せないほどの共感や理解が生まれており、その絆が二人の心を繋ぎ合わせています。