神・悪魔・人間・罪

彼女は白より黒がお好き

彼女は白より黒がお好き

夜が更けるにつれて、東京の街は静まり返り、星が瞬く夜空がその上に広がっていた。しかし、ミユキのアパートメントの中は異なる世界だった。彼女の部屋は全てが黒で統一されており、壁、家具、カーテン、さらにはベッドカバーまでもが漆黒の色に染まっていた。白は一切存在せず、彼女の世界にはただの黒が支配していた。

ミユキは幼い頃から色の選択にこだわりを持っていた。彼女の家族は明るい色を好み、家の中も色とりどりの装飾品で溢れていた。しかし、彼女はそんな環境から一歩も出ず、黒という色に魅了され続けた。それは彼女にとって、何よりも心を落ち着ける色だった。黒の中で彼女は自分自身を見つけることができた。

彼女の仕事場もまた、彼女の美意識を反映していた。高級アパレルブランドのデザイナーとして、彼女のデザインには常に黒が基盤にされていた。新作コレクションの発表会が近づき、彼女は一心不乱に作業を進めていた。その夜も、彼女のデスクの上には黒い布地が広げられ、次第に形になっていくドレスが静かに完成に近づいていた。

そのとき、アパートメントのドアがノックされた。ミユキは一瞬驚いたが、すぐに誰かが訪ねてきたことを思い出した。彼女の長年の友人であり、また時折モデルとして彼女のデザインを着こなすエリカが訪れたのだ。エリカは以前から、ミユキの黒に対する愛着を理解しており、そのデザインに深い感銘を受けていた。

「こんにちは、ミユキ！」エリカは明るい声で言った。「新作の試着がしたくて来たんだけど。」

ミユキは微笑みながら、エリカを迎え入れた。「おかえりなさい、エリカ。ちょうど新しいドレスが仕上がったところよ。試着してみて。」

エリカは驚くほど美しい黒いドレスに目を奪われた。そのドレスは、シルクのような艶やかな素材で、複雑な刺繍が施されていた。彼女はそのドレスを身に着けると、自分が別世界に迷い込んだような感覚に襲われた。ミユキはじっとエリカの姿を見つめながら、彼女がそのドレスをどれだけ気に入るかを楽しみにしていた。

「このドレス、まるで私のために作られたみたい。」エリカは鏡の前でくるくると回りながら言った。「本当に美しいわ。」

「ありがとう、エリカ。」ミユキは感謝の気持ちを込めて言った。「あなたがそのドレスを着ていると、まるで黒いキャンバスに生命が吹き込まれるような気がするの。」

その瞬間、エリカはミユキのこだわりと情熱を深く理解した。彼女がなぜ黒を選び続けてきたのか、その理由が肌で感じられた。ミユキにとって、黒は単なる色ではなく、彼女の人生と思想を表す重要な要素だった。

「ミユキ、あなたがこの色を愛する理由がわかったわ。」エリカは優しく言った。「このドレスには、ただのデザイン以上のものが込められている。あなたの感情や思いがすべて反映されているわ。」

その言葉に、ミユキは深い感動を覚えた。彼女が自分の好みを貫いてきた道が、誰かによって理解されることほど嬉しいことはなかった。彼女は黒という色が持つ神秘と力を信じ続け、その美しさを世に伝えるために働いていた。そして、今その努力が実を結びつつあることを感じていた。

「ありがとう、エリカ。」ミユキは微笑みながら言った。「これからもこの色にこだわり続けて、自分らしいデザインを作り続けるつもりよ。」

エリカはその言葉を聞きながら、ミユキの黒い世界がいかに美しく、力強いものであるかを改めて実感した。そして、彼女もまた、ミユキの作品を通じて新たな感覚と美しさを発見することができた。

夜が深まり、東京の街は再び静寂に包まれる中で、ミユキとエリカはそれぞれの思いを胸に、新しい未来に向けて歩み出していた。ミユキの黒い世界は、ただの暗闇ではなく、彼女自身の美しさと情熱を映し出す鏡だった。