神・悪魔・人間・罪

悪魔のプレゼント

悪魔のプレゼント

冬の寒さが身に染みる二月の朝、田中慎也はポケットの中で冷たい硬貨を数えながら、コンビニの前で立ち尽くしていた。所持金はたったの120円。それはタバコ1本買うには到底足りない金額だった。慎也は二日前からお金が尽き、やむを得ず禁煙を始めていた。

禁煙の最初の夜は特に辛かった。手持ち無沙汰な時間に、いつもタバコを吸っていた習慣が体に刻まれていたため、どうしても何かを口に運びたくなった。だが、彼は耐えた。二日目には少し慣れてきたものの、タバコの誘惑は依然として強かった。

「あと一日だけ耐えれば、なんとかなるかもしれない…」

慎也は自分にそう言い聞かせていた。彼はかつて働いていた会社でのストレスや生活のプレッシャーからタバコに逃げていた。だが、今は仕事を失い、毎日の生活費すらままならない状況に追い込まれていた。

その日の午後、慎也は古い友人の佐藤から突然の電話を受けた。佐藤は慎也の状況を知っており、何かと気にかけてくれていた。

「慎也、元気か？ちょっと会おうかと思って」

佐藤の提案に慎也は少し驚いたが、嬉しさも感じた。友人との再会は心の支えになるだろうと期待した。

数時間後、慎也は約束の場所で佐藤と再会した。佐藤は笑顔で迎えてくれたが、その手には大きな袋が握られていた。

「慎也、これ、君にあげるよ」

袋の中身を見て、慎也は言葉を失った。それは1カートンのタバコだった。慎也はしばらく呆然とし、その後、混乱と喜びが入り混じった表情で佐藤を見た。

「お前、これ…本当にくれるのか？」

佐藤はうなずき、慎也の手に袋を渡した。

「禁煙してたって聞いたけど、少しは気分転換になるだろう。無理しないで、たまにはリラックスしろよ」

慎也は複雑な気持ちでタバコを見つめた。この二日間の禁煙の苦しみを思い出し、再び手にすることへの誘惑と罪悪感が交錯していた。しかし、同時にこのプレゼントは彼にとって救いでもあった。

「ありがとう、佐藤。本当に助かるよ…」

慎也はそう言いながらも、心の中では葛藤が続いていた。タバコを手にした瞬間、彼は自分が再びその依存に囚われることを恐れた。しかし、同時にそれが今の自分を救う唯一の手段だとも思った。

帰宅後、慎也は一人でタバコのカートンを見つめていた。1本取り出し、火をつけると、長い間味わっていなかった煙の香りが部屋中に広がった。その瞬間、彼は再びタバコの虜になっていた。

数週間が過ぎ、慎也の生活は再びタバコに支配されていた。彼は何度も禁煙を試みたが、その度に失敗し、自分の意志の弱さに苛立っていた。タバコのカートンが減っていくたびに、彼の心の中には後悔と自己嫌悪が募っていった。

ある日、慎也は鏡の前で自分の姿を見つめた。疲れ果てた顔と黄ばんだ指先。彼は深く息を吸い込み、心の中で決意を固めた。

「もう一度、禁煙を試みよう。今度こそ、絶対にやめてやる…」

彼は残っていた最後のタバコを取り出し、窓の外に投げ捨てた。その瞬間、彼の中に新たな決意と希望が芽生えた。

慎也は佐藤に連絡を取り、感謝の気持ちを伝えると同時に、自分の決意を語った。佐藤は慎也の決意に賛同し、再び彼をサポートすることを約束した。

それから数ヶ月後、慎也は禁煙に成功し、新たな仕事を見つけることができた。彼の生活は徐々に改善し、再び前向きな気持ちで未来を見据えることができるようになった。

慎也にとって、あの1カートンのタバコは一時的な救いであり、同時に最大の試練でもあった。しかし、それを乗り越えたことで、彼は自分の強さを再確認し、真の意味での再出発を果たすことができたのだった。