神・悪魔・人間・罪

結局悪魔には、人間を幸せにする力なんてない

結局悪魔には、人間を幸せにする力なんてない

深い闇の中で、悪魔のカリオはひとり、黒い翼をたたんで静かに佇んでいた。彼の目の前には、少しだけ明るさが漏れ出る小さな部屋が広がっていた。部屋の中では、かつての栄光を誇った家族が悲しみに暮れていた。彼らの生活は、取り返しのつかない破壊によって一変してしまっていた。

「また来たのか？」カリオの耳に届いたのは、悲しみに満ちた母親の声だった。「何度も言わせないでくれ。もう願い事などない。」

彼女の声には、絶望と疲れが混じっていた。カリオは心の中でため息をついた。彼は長い間、人間界に干渉してきたが、どうしてもその結果が思い通りにならないことが多かった。

「お前の願いを叶えるためにここにいる。」カリオは冷静に言った。「私にはその力がある。」

部屋の中にいた家族は、彼の言葉を耳にしても、半信半疑な表情を浮かべていた。父親は手にしていた新聞を広げ、母親は静かに子供を抱きしめていた。状況が好転する気配はなく、彼らの希望もすっかり打ち砕かれてしまっていた。

「お願いだから、もう諦めてくれ。」父親が声を震わせながら言った。「もう何も信じられないんだ。」

カリオは、その言葉に胸が締めつけられる思いがした。彼の使命は、人間の願いをかなえることだったが、その結果が常に不幸を招いていた。願いをかなえるための代償が大きすぎて、その幸福の代償に耐えられる者はいなかった。カリオは、そんな自分の無力さを痛感していた。

「本当に私にはできないことなのか？」カリオは心の中で呟いた。彼は人間の苦しみを見続けながら、自らの使命を果たすことに対する疑念を抱くようになっていた。願いをかなえるための力を持っているはずの自分が、実際には何もできないのではないかという疑問が彼の心を支配していた。

「私の力があれば、家族を救うことができるはずだ。」カリオは再び決意を固めようとした。「だが、それでも結局、私の力には限界があるのかもしれない。」

カリオは再び部屋に向かい、静かに家族の前に現れた。彼の瞳は、冷たくも温かい光を湛えていた。「お前たちが望むなら、私は再び全力を尽くそう。どんなに辛い代償が待っていようと。」

しかし、その言葉を聞いた家族の顔には、ただの疲れと悲しみが浮かんでいた。彼らはすでに多くの痛みを経験しており、もはや希望を持つことすら難しくなっていた。

「どうせ、私たちの幸せを実現する力など、悪魔にはない。」母親が呟いた。

その言葉に、カリオは深い痛みを感じた。彼の使命は、人間の願いをかなえることだったが、その結果が常に人間の悲劇を招いてしまうことに彼は耐えられなかった。彼の力が、実際には人間の幸せを実現するどころか、むしろその幸せを遠ざけてしまうことに、彼自身も気づいていた。

カリオは、最後の一度だけ、家族のために願いをかなえる準備を整えた。だが、心の中で、彼は自分の力が本当に人間の幸せをもたらすものなのか、確信を持つことはできなかった。彼ができることは、ただ希望を抱き続けることだけだった。

結局、カリオは自分の力の限界を認めざるを得なかった。彼の使命が人間の幸せを実現するためのものであったとしても、実際にはその力が人間の苦しみを増す結果となってしまうことが多かった。彼はその無力感と向き合いながら、再び闇の中へと消えていった。