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始まり
新たな出会い
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「よし!いくぞ!」
気合いを入れて準備をする。
「雫。」
「はい!」
「準備はいいか?」
「はい!」
こうやって隆元様について歩くのを見た家臣さんや女中さんたちは私のことを“雛”と呼んで可愛がってくれている。あだ名みたいな?隆元様が“殿”と呼ばれるみたいに、私が“雛”と呼ばれているみたいだ。そもそも私の存在をどう説明したのか詳しくは分からないが、戦で負傷し記憶を失った縁戚の少年を小姓にしたということになっているらしい。
城に着き、元就公に挨拶をした後、元春様がまだ城に着いていないことや、隆元様が忙しくしているため城内を歩いていた。
「本当に…いい景色…。」
山城である郡山城は城下がよく見える。私が住んでいた所も山の中腹にあって、川と街がよく見えていた。
ふわっと風が吹き、目を思わず閉じた。ゆっくりと目を開けると視界の端に人影を見つけた。
世界の全てを見ているような深い色を帯びた目と、そこから向けられる視線がすごく痛いくらい私を貫いている。まるですべてを見透かされたようで、私も目を離せなかった。美少年とはこういう人のことを言うのだろう。息を呑むようなその人との沈黙の時間は永遠に感じてしまい、息をするのさえ重かった。
「貴方は…。」
決して低すぎない凛とした声にすぐ声が出なかった。しっかり息を吸い、口を開こうとした時、遠くからドタドタという音が聞こえた。
「景!」
「春兄上。」
振り返ると、
「元春様!」
「雫!お主元気じゃったか?」
「はい!」
「春兄上、お知り合いですか?」
「初対面か?」
肩をがしっと捕まれ、
「雫殿じゃ!儂らの妹みたいなもんじゃな!」
「岡田雫と申します。」
もしかして…この方は…。
「小早川隆景です。」
美少年だったと言われているが、本当にこんなに美少年なんて誰が想像できるか。
「雫殿は兄上の元におるからな!同い年じゃし、景も仲良くしてやってな!」
「分かりました。春兄上は兄上の元に行かれましたか?」
「行ったぞ!まだしばらく父上と兄上が話すみたいだから、約束を果たしに来たんじゃけど、景も来るか?」
「兄上、何をなさるつもりですか?」
ふぅと息を吐き3つ違いの兄を眺める目はしょうがないなと楽しそうな目をしていた。
「雫殿を鍛えるぞ!」
「よし!来い!」
「よろしくお願いします!」
木刀を構え元春様に向ける。野獣のような挑戦的な目…あぁ鬼吉川かぁ…。
「やぁっ!」
全然何回もかかっても掠りもしない。
「いいぞ!腕をこの短い間で上げてきたな!!!」
「はぁっ…ありがとうございます。」
息が上がる。
「春兄上、そろそろ…。」
「こい!雫殿!」
「はあっ!…うぐっ。」
あれ、私、地面で、あれ?視界が暗くなっていき、声が遠く聞こえる。
「何回も言いますが、春兄上は手加減というものを知らないのですか?男装しているとはいえ女子ですよ?」
「いや、あまりにも強くなっていたから、つい…反省してます。」
「本当に…はぁ…。」
遠くから聞こえる声…。うっすら目を開けると部屋にいる。なんでだ?しかも暗いし…。
「痛っ…。」
体を動かそうとすると痛みが走り、起き上がれない。だけど、起きなきゃ。
「うっ…。」
その声に閉められていた襖がバーンと高めの音を立てて開かれる。
「雫殿!」
「元春様…。」
話すだけで体が痛い。
「痛くないか?いや、痛いよな…えっと!すまん!手加減出来なくて!」
「春兄上、もう少し静かに話せませんか?」
「えっと…私、どうしたんですか?」
「うちの手加減が出来なかった兄上が、貴方を木刀で打ってしまい、貴方を吐血して気絶させてしまったんですが、覚えてませんか?」
「えっと…そうなんですか?」
元春様を見ると今にも泣きそうな子犬みたいになっている。あの鬼吉川が、子(犬)吉川みたいになってる…。か、可愛い…!そうじゃなくて、えっと…。
「元春様大丈夫ですよ。また稽古お願い出来ますか?」
「いいのか?」
「お願いします。」
「ありがとう!雫殿!次はちゃんと手加減するから!」
「兄上当たり前です。雫殿は大丈夫ですか?体には異常はないようですが…。」
「多分大丈夫です。すみません、なんだか迷惑かけてしまって…。」
「大丈夫ですよ。悪いのは春兄上ですから。」
「すまんな…。雫殿…。」
「そんな顔しないでください!今度は吹っ飛ばされないくらい強くなっておくので!」
しょぼーんとした元春様と、くすっと笑った隆景様は少し話をした後に部屋に戻っていった。打たれた所は赤くなっており、痛々しい…。
元春様の顔を思い出し、腹部を擦りながら強くなろうと決めた。
気合いを入れて準備をする。
「雫。」
「はい!」
「準備はいいか?」
「はい!」
こうやって隆元様について歩くのを見た家臣さんや女中さんたちは私のことを“雛”と呼んで可愛がってくれている。あだ名みたいな?隆元様が“殿”と呼ばれるみたいに、私が“雛”と呼ばれているみたいだ。そもそも私の存在をどう説明したのか詳しくは分からないが、戦で負傷し記憶を失った縁戚の少年を小姓にしたということになっているらしい。
城に着き、元就公に挨拶をした後、元春様がまだ城に着いていないことや、隆元様が忙しくしているため城内を歩いていた。
「本当に…いい景色…。」
山城である郡山城は城下がよく見える。私が住んでいた所も山の中腹にあって、川と街がよく見えていた。
ふわっと風が吹き、目を思わず閉じた。ゆっくりと目を開けると視界の端に人影を見つけた。
世界の全てを見ているような深い色を帯びた目と、そこから向けられる視線がすごく痛いくらい私を貫いている。まるですべてを見透かされたようで、私も目を離せなかった。美少年とはこういう人のことを言うのだろう。息を呑むようなその人との沈黙の時間は永遠に感じてしまい、息をするのさえ重かった。
「貴方は…。」
決して低すぎない凛とした声にすぐ声が出なかった。しっかり息を吸い、口を開こうとした時、遠くからドタドタという音が聞こえた。
「景!」
「春兄上。」
振り返ると、
「元春様!」
「雫!お主元気じゃったか?」
「はい!」
「春兄上、お知り合いですか?」
「初対面か?」
肩をがしっと捕まれ、
「雫殿じゃ!儂らの妹みたいなもんじゃな!」
「岡田雫と申します。」
もしかして…この方は…。
「小早川隆景です。」
美少年だったと言われているが、本当にこんなに美少年なんて誰が想像できるか。
「雫殿は兄上の元におるからな!同い年じゃし、景も仲良くしてやってな!」
「分かりました。春兄上は兄上の元に行かれましたか?」
「行ったぞ!まだしばらく父上と兄上が話すみたいだから、約束を果たしに来たんじゃけど、景も来るか?」
「兄上、何をなさるつもりですか?」
ふぅと息を吐き3つ違いの兄を眺める目はしょうがないなと楽しそうな目をしていた。
「雫殿を鍛えるぞ!」
「よし!来い!」
「よろしくお願いします!」
木刀を構え元春様に向ける。野獣のような挑戦的な目…あぁ鬼吉川かぁ…。
「やぁっ!」
全然何回もかかっても掠りもしない。
「いいぞ!腕をこの短い間で上げてきたな!!!」
「はぁっ…ありがとうございます。」
息が上がる。
「春兄上、そろそろ…。」
「こい!雫殿!」
「はあっ!…うぐっ。」
あれ、私、地面で、あれ?視界が暗くなっていき、声が遠く聞こえる。
「何回も言いますが、春兄上は手加減というものを知らないのですか?男装しているとはいえ女子ですよ?」
「いや、あまりにも強くなっていたから、つい…反省してます。」
「本当に…はぁ…。」
遠くから聞こえる声…。うっすら目を開けると部屋にいる。なんでだ?しかも暗いし…。
「痛っ…。」
体を動かそうとすると痛みが走り、起き上がれない。だけど、起きなきゃ。
「うっ…。」
その声に閉められていた襖がバーンと高めの音を立てて開かれる。
「雫殿!」
「元春様…。」
話すだけで体が痛い。
「痛くないか?いや、痛いよな…えっと!すまん!手加減出来なくて!」
「春兄上、もう少し静かに話せませんか?」
「えっと…私、どうしたんですか?」
「うちの手加減が出来なかった兄上が、貴方を木刀で打ってしまい、貴方を吐血して気絶させてしまったんですが、覚えてませんか?」
「えっと…そうなんですか?」
元春様を見ると今にも泣きそうな子犬みたいになっている。あの鬼吉川が、子(犬)吉川みたいになってる…。か、可愛い…!そうじゃなくて、えっと…。
「元春様大丈夫ですよ。また稽古お願い出来ますか?」
「いいのか?」
「お願いします。」
「ありがとう!雫殿!次はちゃんと手加減するから!」
「兄上当たり前です。雫殿は大丈夫ですか?体には異常はないようですが…。」
「多分大丈夫です。すみません、なんだか迷惑かけてしまって…。」
「大丈夫ですよ。悪いのは春兄上ですから。」
「すまんな…。雫殿…。」
「そんな顔しないでください!今度は吹っ飛ばされないくらい強くなっておくので!」
しょぼーんとした元春様と、くすっと笑った隆景様は少し話をした後に部屋に戻っていった。打たれた所は赤くなっており、痛々しい…。
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