【R18/完結】没落オメガと溺愛アルファのパーフェクト子づくりっ!

ナイトウ

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9(終)

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遠くにお豆腐屋さんが道を売り歩く掛け声がして、空腹を覚えてふと目が覚めた。
日が傾いて少し薄暗く、障子がオレンジ色に光っている。

身じろごうとして、麒臣君に抱きしめられていてうまく体を動かせないことに気付いた。

「まだ寝ててもいいよ。」

後ろから声がして、ぎゅっと更に抱き込まれる。
首筋に麒臣君の顔が埋まった。

「体拭きたい。お腹空いたし……」

そう言うと拘束が緩んだので、もそもそ抜け出して立ち上がる。
庭の井戸で水を汲もうとシャツだけさっと身につけて廊下に出ると、ピカピカに磨かれた床に手ぬぐいと大きめの桶に入った水が置かれていた。

タエさんの仕業だとすぐに分かって気恥ずかしくなりながらも、桶を部屋に持ち込んで体を拭く。僕の様子をしばらくベッドから眺めていた麒臣君ものっそり起きだしてきて一緒に身支度を整えた。

台所にはおかずが盛られたお膳が用意してあったので、それを二人で居間に運んで食べる。
食べていると日がすっかり落ちて夜になった。

「そうだ、麒臣君、七夕の飾り一緒につけよう?」

お膳を片付けている最中に、やっと今日が七夕であることを思い出した。

「七夕?……ああ。今日だっけ。」

外国暮らしが長かったからか麒臣君はピンときていないみたいだったけど、気にせず自分の部屋に戻ってこの日のために作っておいた飾りを用意する。
ふと机に見慣れない箱が置いてあるのに気付いた。
開けてみると、変わった形の服みたいだ。

津田川さんが用意した七夕の衣装だと察して着てみようかと広げる。
淡い水色や桃色が混じった幻想的な染めと、古代の国の装束みたいなデザインの羽織だった。
なにより生地が薄くて天女の羽衣ってこんな感じかなと思うほどで、着ても肌が透けてまる見えだ。

なるほど。津田川さん、このスケスケを着て麒臣君をしっかり誘惑しろってことだね。
……あれ、スケスケの服って……まさかね。

麒臣君を待たせるわけにいかないのでとりあえず衣を羽織って鏡で姿を見てみるけど、シャツにズボンの姿で着てもチグハグだ。

次に服を脱いで下着だけで着てみると、今度は恥ずかしくて居たたまれなくなった。
衣が薄すぎて、首や胴体に付けられたばかりの大量のキスマークが全部丸見えだったから。
なんかこの辺の痕なんて歯型じゃ……

流石にこの格好で誘惑できても今日これ以上盛られたら身が保たない。
少し考えて、薄鼠の浴衣の上から羽織ることにした。

庭の笹が見える客間に向かうと、先に移動して待っていた麒臣君は縁側に座って庭に立てられた笹を見てる。心なしか、表情が少し硬い気がした。

僕が入ってきたのに気付くと、こちらを向いてふと表情が崩れる。
月明かりに照らされた様子がすごく素敵で胸が苦しいくらいに高鳴った。

「その衣お姫様みたいで可愛いねぇ。」

横に座った僕の服を見て言う。

「ありがと。」

「下に着ない方がもっと好きかなぁ。」

「だ、ダメっ」

「そっか。お腹冷えちゃうしね。」

肩をそっと掴まれて引き寄せられる。
暖かい掌が、おへその下あたりを優しく撫でた。
その意味を理解して顔が熱くなる。

「麒臣君、あの……」

孕ませてくれてありがとうと言おうとして、いきなり縁側から降りて僕の足元に跪いた麒臣君に驚いて言葉が引っ込んだ。

立ってもらおうと伸ばした手を恭しく取られて、指先にそっとキスをされる。

「麟太君。私と結婚して下さい。」

下から優しい顔で見上げてくる麒臣君の言葉に、更に二の句が告げなくなる。

「遅くなってごめん。でも、やっと色々準備ができたから。」

「ほ、」

「ほ?」

「本妻さんと別れるの!?」

「麟太君。いい加減私が独身なことくらい思いいたろ?流石に1ヶ月思い込みっぱなしはどうかと思う。」

「結婚……してない……?」

「まあ、必死なのが可愛くて煽った私も悪いかなぁ。」

「今日一緒にパン買ってた人は?」

「見てたの?妹だけど。」

「あ、それはちょっと予想してた。すごい素敵な人だったから……」

「は?私に比べたらあんなん大したことないよぉ?」

握られた手に力がこもったのを感じて、慌てて首を縦に振ると力がまた緩んだ。

「ふふ、麟太君の分もあるから、明日あっためて食べようねぇ。」

麒臣君の指が僕の手の甲をすりすり撫でる。

「あの、でも、前に僕が嫁ぐのは無いって……」

「うん。麟太君がせっかくお父さんから受け継いだ爵位を手放す必要はないよ。
私が婿に入るからね。」

さらっと告げられた言葉は流石に信じられなかった。

「き、麒臣君のお家は!?」

「妹が継ぐでしょ。大丈夫。ちゃんと仕事はするし株とかで勝手に入ってくるものもあるから麟太君とお腹の子供に不自由はさせないよ。」

にっこり笑う麒臣君。そんな、僕のためにそこまでさせちゃっていいんだろうか……

「麟太、君の口から返事が欲しいんだけど。」

迷っていると麒臣君が真っ直ぐ見つめてくる。
その瞳が、僕にもう何も失わなくて良いんだよって言ってくれてるのが分かった。
別にいいのに。麒臣君さえいれば。

「……うん。僕こそ。麒臣君、僕と結婚して下さい。」

「はい。もちろん。」

縁側から身を乗り出して跪く麒臣君に抱きつく。

麒臣君は僕を抱きとめた後立ち上がって、楽しそうに僕を抱えたままくるんと回った。

「あー、プロポーズ緊張した。」

「うそだぁ……」

「本当本当。」

麒臣君がふふっと笑うのにつられて笑った。

夜空に輝く一等星を最初に恋人同士に例えた人はすごいロマンチストだと思うけど、星はたくさんあるのにわざわざ天の川を隔てた星を恋人に見立てるのはちょっと意地悪じゃないか。

この街でまた会えた僕たちみたいに、星屑くらい簡単に霞むこの東都で織姫と彦星もずっと一緒にいられるといいなって思う。

二人でいるられるってこんなに嬉しいから。

(おわり)

————————————



ここまでお読みいただきありがとうございました!

こんな感じのアホエロ短編書いてますので、良ければ作者ページから他の作品もどうぞ。
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↓めちゃくちゃ世話になっている。
B L ♂ U N I O N
感想 4

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みんなの感想(4件)

トロロ
2021.08.02 トロロ

好きすぎる作品でした🤦‍♀️
主人公のヘタレ具合がまた最高に可愛くてキャラの心情描写も尊すぎてやばかったです(語彙力)
完結おめでとうございます👏👏

2021.08.03 ナイトウ

感想ありがとうございました!
気に入って頂けて嬉しいです。

登場人物多めなためいろんな人物の感情を書くのが楽しかったです。
読んだ方にも伝わって何よりでした。

解除
カル
2021.07.22 カル

とても面白くていっきに読んでしまいました‼️
是非是非、続編等お願いいたします❗
妹さんに嫉妬(?)する姿がすごく可愛かったのでその辺とかもっと読みたいです。
よろしくお願いいたします‼️

2021.07.22 ナイトウ

お読みいただきありがとうございます!
楽しんでいただけて嬉しいです。

当て馬撃退が話のコンセプトの一つなのでラスボス(妹)を出すのもいいですね……笑
気長にお待ちください!

解除
わさび
2021.07.08 わさび

まってましたぁぁぁぁぁぁぁ
ほんっとに嬉しいですッッッ
本妻になるため奮闘してる純粋な感じが可愛い…

2021.07.09 ナイトウ

コメントありがとうございます!
リク主さんからの感想はより嬉しいです。
よければまたおつきあいください。

基本主人公は空回りですが、愚可愛いと思ってもらえたら幸いです。

解除

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