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47, 結婚して下さい
しおりを挟むそれから代わる代わる、僕たちの前に人がやってきては暖かい言葉を掛けてくれた。
普通に考えたら、一国の主にこんな僕みたいなどこの馬の骨ともしれない相手が出来たらもっと警戒するし、友好的にはならないと思う。
それなのにここまで受け入れてもらえるのは、オージとみんなに強い信頼関係があるからだと思った。
きっとオージが、これまで真摯にスマラルダスの王様として生きてきた証なんだろう。
そんな人を、俺が好きになったばっかりに短命の呪いに掛けてしまった。
この場で優しくされるほど、その事実が重くのしかかってくる。
最初出会った時、オージはちゃんと俺を避けていたのに、俺がしつこく関わろうとしたから、優しいオージは俺を拒否しきれなかったんだろう。
それで、好きにならないとか無責任なこと言っておいて、結局オージに惚れてしまった。
過去の自分の軽率な行動に自己嫌悪が募る。
「カナト、大丈夫?疲れた?」
考え込んでいると、隣に立つオージが俺の様子が変わったことに気がついて声をかけてくれる。
「うん。平気。」
「本当に平気かい?夜会もあるし、無理しないでいいからね。」
この場で軽い顔合わせをした後、夜は即席の簡単なパーティーをやる予定だと聞いている。
「ありがとう。大丈夫。もっとみなさんと話したい。」
笑って言えば、オージが気遣うように俺のおでこにキスした。
「ちょ、え、み、みんながいるのに……」
俺が慌てて言えば、オージが何か問題でも?というように首を傾げる。
周りの人も、なんでもない様子だ。
「に、日本人には、変なんだからねっ!」
この場で誰も味方がいないことを察して真っ赤な顔で必死に弁明した。
そして夜遅くになって、2人でオージの書斎まで戻ってきた。
夜会は即席と聞いていたのに華やかで、そこでもたくさんの人と和やかに過ごすことができた。
あっという間に時間が過ぎて今に至っている。
「お風呂を用意して貰おう。それで、入ったらゆっくり休んでね。今日は、みんなに会ってくれてありがとう。」
オージがそう言って俺の頬にキスをする。
その手を軽く握って引き留め、昼間から考えていたことを話した。
「オージ、俺外で働きたいって言ったけど、止めようかと思ってる。」
オージの目を見つめながら話せば、俺の様子にオージの顔つきが少し真面目なものになる。
「カナトがしたいようにしてくれて構わないけど、急にどうしてだい?」
そっと頬を撫でられて、その優しさにぐっと感情がこみ上げてくる。
「俺、もっとオージが王様として生きるのに役に立つ事がしたい。手伝うとか、俺みたいな素人がそんな軽々しくは言えることじゃないのは分かってる。ただオージが大好きなこの国のために頑張るのを、少しでも応援出来ることがしたい。」
俺が一気に話すのを、オージは少し驚いた様子だったけどきちんと聞いてくれた。
「分からないんだ。俺、ただの庶民だから、どうしたらオージの役に立てるのか。だから、教えて欲しい。言われた通りにするから。跡継ぎに子供が必要っていうなら、それでも大丈夫。」
俺の言葉に、少し話そうかとオージがソファに誘導してくれた。
並んで座った所で、オージが話し始める。
「確かに、僕は子供を設けたいが為だけにドロテオと婚約したよ。でも、カナトに同じ事を求めたいわけじゃない。」
俺の手を握って穏やかに諭してくれる。その優しさにますます胸が詰まった。
「なら、俺はどうしたらいい?何でも言ってよ。」
「正直に言えばね、一生この国のために働きながら、カナトと結婚して、家族が増えたらみんなで一緒に過ごして、君と年老いるまで共にいたいと思ってるよ。」
見つめれば、オージが微笑んで俺を見つめ返してくる。
「でもね、そんなことはどうでもいいんだ。僕はただ、カナトが笑っていてくれればいい。」
その言葉を聞いて、我慢していた涙がポロリと溢れてきてしまった。
オージが拭ってくれても、すぐに次が流れてくる。
「ぐすっ、ごめん。ぉ、俺も、オージには笑っていて欲しい。」
俺がグシャグシャな顔で泣きながら言えば、オージが抱きしめてくれた。
「カナトが笑うだけで、それは叶うんだよ。」
その言葉を聞いて、俺は一生オージの隣にいたいし、この人を笑顔にしたいと心から思った。
俺からもぎゅっと抱きしめ返した後で、そっと離れて正面に向き合う。
まっすぐ前を見れば、そこにオージがこちらを見つめている。
「俺、オージの為なら何でもする。頑張るから。俺と結婚して下さい。」
俺の言葉にオージがはいと言ってくれたので、またぎゅっとオージに抱きついた。
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