43 / 60
43, 国家機密
しおりを挟む「あらぁ!この焼き菓子おいしい!素敵な料理人さんがいらっしゃるのねぇ。」
応接室のカフェテーブルでぱくぱくとお菓子を食べるグリファさんの横で、静かに紅茶を飲むエルファさん。
その向かいに身支度を済ませたオージと僕が座った。
一緒についてきたトトは意外なことにエルファさんの膝の上が気に入ったらしく、エルファさんも膝で丸くなるトトを撫でている。
「ありがとうございます。アルボは、うちが曾祖父の代から料理人をしてるので。」
「そうよね。このお屋敷で働いてるのは、魔法がかかったお人形さんや動物さんだったわね。」
グリファさんが口の端のクッキー屑を拭って紅茶を一口飲んだ。
「で、そちらの方も魔法で動くお人形さんなの?ちょっと、不思議な雰囲気だけど、よく出来てるわ。オズバルドちゃんもお年頃だものね。ドロテオちゃんとの婚約を破棄したのはお人形さんに夢中だからかしら?」
怒涛の勢いで話すグリファさんに、面食らってしまった。
俺が、何だって?
「グリファさん、カナトは人形じゃない。異世界からドロテオが呼び出した人間だよ。夢中なのは否定しないけど……。」
まぁまぁと目を丸くするグリファさんだけでなく、エルファさんも目を見張って俺を見た。
どうやらノルドさんは本当に最小限しか説明していないようだ。もしドロテオと結婚するとだけしか言ってないなら、もはや、説明と言えるかも怪しい。
あの人たち、マジで自由奔放だな。
同じことを理解したオージが、これまでの顛末を話しだした。
魔法で、俺の魂がドロテオの体に閉じ込められたこと、ノルドさんとドロテオの魂を見つけ出したこと、俺の体を取り戻したこと、オージとドロテオが婚約破棄して、ドロテオはノルドの元に残ったこと。
二人は興味深げに聞いていたけど、横で聞いていた俺も短期間で色々あったなぁとしみじみ思った。
「それで、オズバルドちゃんはこれからはそのカナトちゃんと二人で仲良く暮らすつもりなのね。」
「はい。今はカナトを心から愛しています。」
「ちょ、オージ……」
言い切るオージに恥ずかしくなってちょっと慌てる。
しょうがないじゃん。日本人だもん。
「例の呪いを、あなたも受け入れたのね。」
ずっと明るく話していたグリファさんが、少し気遣わしげに言った。
「はい、でも、諦めてはいません。カナトの命が尽きる前にどうにかして呪いを解いてみせる。グリファさんとエルファさんにも、手伝って頂けませんか。」
「ええ、魔女同士で力を使うのには制約も多いけど、出来ることなら。ただ、相応の対価は貰うことになるわよ。」
「はい、それは分かっています。」
「カナトは、魔法を使わないのかい?」
エルファさんに話しかけられて、そちらを見た。
「俺?えっと、使えないみたいです。試してはみましたが。」
そうなのだ。ドロテオの体にいたときと変わらず、俺の体に戻っても魔法は使える気配がない。
まだ戻って日が浅いから、もう少し時間が経てば魔力が体に溜まるかなって期待はしてる。
「そうかい。残念だねぇ。使えたら、相当西の魔女と相性が悪そうなんだがね。ドロテオがオズバルドに選んだだけあると思ったんだよ。」
「えっ、分かるんですか!?」
「文字を見たら何となく人柄がわかるのと一緒よ!エルファは得意なの。凄いでしょ?」
「勘みたいなもんだよ。外れる時もある。」
「あら、謙遜しちゃって。ドロテオちゃんはね、エルファの末裔なのよ。だから、きっとドロテオちゃんが呼んだカナトちゃんは凄い魔法が使えるわよ。西の魔女の呪いも解いちゃうかも!」
「本当ですか?」
思わず前のめりになる。もしそうなら、何としても魔法が使えるようになりたい。
「そうだの。おそらく、何か魔力を解放する条件が……」
「お二人とも、あまり無責任な言葉でカナトを煽らないでください。僕はカナトの安全が保証される確実なやり方しか取りたくありません。」
もっと色々と聞き出そうとしたら、オージが割って止めた。
俺だって、呪いが解けてオージが助かるなら何だってするのに。
「そうしたら、さっそくちょっと助言してさしあげてよ。オージが穏便にドロテオから手を引いてくれて助かったから。」
「ドロテオがノルドと結婚することを口実に、ウィンスラントがノーミに侵攻したことへの仲裁をうちがするつもりなんだよ。」
「でも、ノルドの横恋慕だったらそれをするとスマラルダスとの関係が悪化するかなって心配だったの。」
なるほど、戦争の仲裁をしたいから急いで来たのか。
「それはありがとうございます。どんなご助言ですか?」
オージが尋ねると、グリファさんは俺を見てにっこり笑った。
「話す前に、申し訳ないのだけどカナトちゃんには外してもらって良いかしら。この国の機密に関わる話もあるのよ。聞いた後で、オズバルドちゃんがいいと思ったらカナトちゃんにお話してもいいから。」
グリファさんの言葉を聞いて、オージが申し訳ないけど、と俺に退出するようにお願いしてきた。
どんな話か気になったけど、そう言われたら出ていくしか無くて部屋に戻った。
116
お気に入りに追加
410
あなたにおすすめの小説
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです
石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。
聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。
やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。
女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。
素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる