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43, 国家機密

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「あらぁ!この焼き菓子おいしい!素敵な料理人さんがいらっしゃるのねぇ。」

応接室のカフェテーブルでぱくぱくとお菓子を食べるグリファさんの横で、静かに紅茶を飲むエルファさん。
その向かいに身支度を済ませたオージと僕が座った。
一緒についてきたトトは意外なことにエルファさんの膝の上が気に入ったらしく、エルファさんも膝で丸くなるトトを撫でている。

「ありがとうございます。アルボは、うちが曾祖父の代から料理人をしてるので。」

「そうよね。このお屋敷で働いてるのは、魔法がかかったお人形さんや動物さんだったわね。」

グリファさんが口の端のクッキー屑を拭って紅茶を一口飲んだ。

「で、そちらの方も魔法で動くお人形さんなの?ちょっと、不思議な雰囲気だけど、よく出来てるわ。オズバルドちゃんもお年頃だものね。ドロテオちゃんとの婚約を破棄したのはお人形さんに夢中だからかしら?」

怒涛の勢いで話すグリファさんに、面食らってしまった。
俺が、何だって?

「グリファさん、カナトは人形じゃない。異世界からドロテオが呼び出した人間だよ。夢中なのは否定しないけど……。」

まぁまぁと目を丸くするグリファさんだけでなく、エルファさんも目を見張って俺を見た。
どうやらノルドさんは本当に最小限しか説明していないようだ。もしドロテオと結婚するとだけしか言ってないなら、もはや、説明と言えるかも怪しい。
あの人たち、マジで自由奔放だな。

同じことを理解したオージが、これまでの顛末を話しだした。
魔法で、俺の魂がドロテオの体に閉じ込められたこと、ノルドさんとドロテオの魂を見つけ出したこと、俺の体を取り戻したこと、オージとドロテオが婚約破棄して、ドロテオはノルドの元に残ったこと。

二人は興味深げに聞いていたけど、横で聞いていた俺も短期間で色々あったなぁとしみじみ思った。

「それで、オズバルドちゃんはこれからはそのカナトちゃんと二人で仲良く暮らすつもりなのね。」

「はい。今はカナトを心から愛しています。」

「ちょ、オージ……」

言い切るオージに恥ずかしくなってちょっと慌てる。
しょうがないじゃん。日本人だもん。

「例の呪いを、あなたも受け入れたのね。」

ずっと明るく話していたグリファさんが、少し気遣わしげに言った。」

「はい、でも、諦めてはいません。カナトの命が尽きる前にどうにかして呪いを解いてみせる。グリファさんとエルファさんにも、手伝って頂けませんか。」

「ええ、魔女同士で力を使うのには制約も多いけど、出来ることなら。ただ、相応の対価は貰うことになるわよ。」

「はい、それは分かっています。」

「カナトは、魔法を使わないのかい?」

エルファさんに話しかけられて、そちらを見た。

「俺?えっと、使えないみたいです。試してはみましたが。」

そうなのだ。ドロテオの体にいたときと変わらず、俺の体に戻っても魔法は使える気配がない。
まだ戻って日が浅いから、もう少し時間が経てば魔力が体に溜まるかなって期待はしてる。

「そうかい。残念だねぇ。使えたら、相当西の魔女と相性が悪そうなんだがね。ドロテオがオズバルドに選んだだけあると思ったんだよ。」

「えっ、分かるんですか!?」

「文字を見たら何となく人柄がわかるのと一緒よ!エルファは得意なの。凄いでしょ?」

「勘みたいなもんだよ。外れる時もある。」

「あら、謙遜しちゃって。ドロテオちゃんはね、エルファの末裔なのよ。だから、きっとドロテオちゃんが呼んだカナトちゃんは凄い魔法が使えるわよ。西の魔女の呪いも解いちゃうかも!」

「本当ですか?」

思わず前のめりになる。もしそうなら、何としても魔法が使えるようになりたい。

「そうだの。おそらく、何か魔力を解放する条件が……」

「お二人とも、あまり無責任な言葉でカナトを煽らないでください。僕はカナトの安全が保証される確実なやり方しか取りたくありません。」

もっと色々と聞き出そうとしたら、オージが割って止めた。
俺だって、呪いが解けてオージが助かるなら何だってするのに。

「そうしたら、さっそくちょっと助言してさしあげてよ。オージが穏便にドロテオから手を引いてくれて助かったから。」

「ドロテオがノルドと結婚することを口実に、ウィンスラントがノーミに侵攻したことへの仲裁をうちがするつもりなんだよ。」

「でも、ノルドの横恋慕だったらそれをするとスマラルダスとの関係が悪化するかなって心配だったの。」

なるほど、戦争の仲裁をしたいから急いで来たのか。

「それはありがとうございます。どんなご助言ですか?」

オージが尋ねると、グリファさんは俺を見てにっこり笑った。

「話す前に、申し訳ないのだけどカナトちゃんには外してもらって良いかしら。この国の機密に関わる話もあるのよ。聞いた後で、オズバルドちゃんがいいと思ったらカナトちゃんにお話してもいいから。」

グリファさんの言葉を聞いて、オージが申し訳ないけど、と俺に退出するようにお願いしてきた。
どんな話か気になったけど、そう言われたら出ていくしか無くて部屋に戻った。



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