43 / 56
43, 国家機密
しおりを挟む「あらぁ!この焼き菓子おいしい!素敵な料理人さんがいらっしゃるのねぇ。」
応接室のカフェテーブルでぱくぱくとお菓子を食べるグリファさんの横で、静かに紅茶を飲むエルファさん。
その向かいに身支度を済ませたオージと僕が座った。
一緒についてきたトトは意外なことにエルファさんの膝の上が気に入ったらしく、エルファさんも膝で丸くなるトトを撫でている。
「ありがとうございます。アルボは、うちが曾祖父の代から料理人をしてるので。」
「そうよね。このお屋敷で働いてるのは、魔法がかかったお人形さんや動物さんだったわね。」
グリファさんが口の端のクッキー屑を拭って紅茶を一口飲んだ。
「で、そちらの方も魔法で動くお人形さんなの?ちょっと、不思議な雰囲気だけど、よく出来てるわ。オズバルドちゃんもお年頃だものね。ドロテオちゃんとの婚約を破棄したのはお人形さんに夢中だからかしら?」
怒涛の勢いで話すグリファさんに、面食らってしまった。
俺が、何だって?
「グリファさん、カナトは人形じゃない。異世界からドロテオが呼び出した人間だよ。夢中なのは否定しないけど……。」
まぁまぁと目を丸くするグリファさんだけでなく、エルファさんも目を見張って俺を見た。
どうやらノルドさんは本当に最小限しか説明していないようだ。もしドロテオと結婚するとだけしか言ってないなら、もはや、説明と言えるかも怪しい。
あの人たち、マジで自由奔放だな。
同じことを理解したオージが、これまでの顛末を話しだした。
魔法で、俺の魂がドロテオの体に閉じ込められたこと、ノルドさんとドロテオの魂を見つけ出したこと、俺の体を取り戻したこと、オージとドロテオが婚約破棄して、ドロテオはノルドの元に残ったこと。
二人は興味深げに聞いていたけど、横で聞いていた俺も短期間で色々あったなぁとしみじみ思った。
「それで、オズバルドちゃんはこれからはそのカナトちゃんと二人で仲良く暮らすつもりなのね。」
「はい。今はカナトを心から愛しています。」
「ちょ、オージ……」
言い切るオージに恥ずかしくなってちょっと慌てる。
しょうがないじゃん。日本人だもん。
「例の呪いを、あなたも受け入れたのね。」
ずっと明るく話していたグリファさんが、少し気遣わしげに言った。」
「はい、でも、諦めてはいません。カナトの命が尽きる前にどうにかして呪いを解いてみせる。グリファさんとエルファさんにも、手伝って頂けませんか。」
「ええ、魔女同士で力を使うのには制約も多いけど、出来ることなら。ただ、相応の対価は貰うことになるわよ。」
「はい、それは分かっています。」
「カナトは、魔法を使わないのかい?」
エルファさんに話しかけられて、そちらを見た。
「俺?えっと、使えないみたいです。試してはみましたが。」
そうなのだ。ドロテオの体にいたときと変わらず、俺の体に戻っても魔法は使える気配がない。
まだ戻って日が浅いから、もう少し時間が経てば魔力が体に溜まるかなって期待はしてる。
「そうかい。残念だねぇ。使えたら、相当西の魔女と相性が悪そうなんだがね。ドロテオがオズバルドに選んだだけあると思ったんだよ。」
「えっ、分かるんですか!?」
「文字を見たら何となく人柄がわかるのと一緒よ!エルファは得意なの。凄いでしょ?」
「勘みたいなもんだよ。外れる時もある。」
「あら、謙遜しちゃって。ドロテオちゃんはね、エルファの末裔なのよ。だから、きっとドロテオちゃんが呼んだカナトちゃんは凄い魔法が使えるわよ。西の魔女の呪いも解いちゃうかも!」
「本当ですか?」
思わず前のめりになる。もしそうなら、何としても魔法が使えるようになりたい。
「そうだの。おそらく、何か魔力を解放する条件が……」
「お二人とも、あまり無責任な言葉でカナトを煽らないでください。僕はカナトの安全が保証される確実なやり方しか取りたくありません。」
もっと色々と聞き出そうとしたら、オージが割って止めた。
俺だって、呪いが解けてオージが助かるなら何だってするのに。
「そうしたら、さっそくちょっと助言してさしあげてよ。オージが穏便にドロテオから手を引いてくれて助かったから。」
「ドロテオがノルドと結婚することを口実に、ウィンスラントがノーミに侵攻したことへの仲裁をうちがするつもりなんだよ。」
「でも、ノルドの横恋慕だったらそれをするとスマラルダスとの関係が悪化するかなって心配だったの。」
なるほど、戦争の仲裁をしたいから急いで来たのか。
「それはありがとうございます。どんなご助言ですか?」
オージが尋ねると、グリファさんは俺を見てにっこり笑った。
「話す前に、申し訳ないのだけどカナトちゃんには外してもらって良いかしら。この国の機密に関わる話もあるのよ。聞いた後で、オズバルドちゃんがいいと思ったらカナトちゃんにお話してもいいから。」
グリファさんの言葉を聞いて、オージが申し訳ないけど、と俺に退出するようにお願いしてきた。
どんな話か気になったけど、そう言われたら出ていくしか無くて部屋に戻った。
101
お気に入りに追加
367
あなたにおすすめの小説
僕の策略は婚約者に通じるか
藍
BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。
フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン
※他サイト投稿済です
※攻視点があります
異世界トリップして10分で即ハメされた話
XCX
BL
付き合っていると思っていた相手からセフレだと明かされ、振られた優太。傷心での帰宅途中に穴に落ち、異世界に飛ばされてしまう。落ちた先は騎士団の副団長のベッドの上。その副団長に男娼と勘違いされて、即ハメされてしまった。その後も傷心に浸る暇もなく距離を詰められ、彼なりの方法でどろどろに甘やかされ愛される話。
ワンコな騎士団副団長攻め×流され絆され傷心受け。
※ゆるふわ設定なので、騎士団らしいことはしていません。
※タイトル通りの話です。
※攻めによるゲスクズな行動があります。
※ムーンライトノベルズでも掲載しています。
推し様の幼少期が天使過ぎて、意地悪な義兄をやらずに可愛がってたら…彼に愛されました。
櫻坂 真紀
BL
死んでしまった俺は、大好きなBLゲームの悪役令息に転生を果たした。
でもこのキャラ、大好きな推し様を虐め、嫌われる意地悪な義兄じゃ……!?
そして俺の前に現れた、幼少期の推し様。
その子が余りに可愛くて、天使過ぎて……俺、とても意地悪なんか出来ない!
なので、全力で可愛がる事にします!
すると、推し様……弟も、俺を大好きになってくれて──?
【全28話で完結しました。R18のお話には※が付けてあります。】
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる