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37, 甘やかしまくる
しおりを挟む「いえ、凄く素敵なんですけど、俺には勿体ないから。」
俺が言うと商人が一瞬目を丸くした。
「いえいえ、そんなまさか。大公様の大事な方がお召しものを、勿体ないなど。」
「カナト、シャツの中から一つ選んで、体にあてて見せてくれないか。」
断ろうとしていたところでオージに言われたので、適当にフリルがついたのを肩にあててハリボテに体を向ける。
「うむ。とっても似合ってる。可愛い。これは貰おう。」
「お買い上げありがとうございます。」
オージの言葉に商人の声に張りが戻った。
「ちょ、オージ!」
「もう買ってしまった。次のシャツをあてて見せて。」
「いいけど、簡単に買ったらだめだよ。」
言われるままに商人が出したシャツから一枚取りだし、また肩にあててオージに見せる。
「それも、よく似合ってる。頂こう。」
また速攻でお買い上げするオージ。
「だから、こんな高そうなもの何着もいらないってば!」
「まだたった2着ではないか。ほら、最後のも見せてくれないか。」
「だめ。買っちゃうから。」
「では、着ているところを見てみたいからそれも頂こう。」
「もー!オージ!」
そんな会話をオージとしていたら、商人がクスクスと笑い声をあげた。
そちらを見ると、慌てて商人が失礼いたしました、と姿勢を正す。
「妻との新婚時代を思い出してしまいました。20年前になりますが、妻は今もその時の服を着ております。これは同じ工房の品ですので、高い買い物ではございませんよ。」
「そうそう。20年着ればいい。」
「もう……。」
俺が反論の術をなくして黙ったので、商人は次々とカバンから商品を出しては見せてきた。
明らかにカバンの容量を越えた量が出てくるので、どうも魔法が掛かったカバンらしい。
それを、オージがちょっと見ては次々お買い上げしていく。
ひと通り商人が提案を終える頃には、ソファと机にはものが山積みになっていた。
「今日はありがとう。伝票は帰りに執事のラタに渡してくれ。」
「光栄の限りでございます。かしこまりました。」
商人が出て行った後、ハリボテの後ろから出てきたオージがぱっと買ったものを俺の部屋に移してくれた。
「ありがとう。あの、いっぱいお金使わせちゃって申し訳ないけど、働き始めたら少しずつでも返すから。」
何だか完済はいつになるやら、という気もするけど。後で値段をラタさんに聞かなきゃ。
「僕がしたくてしてることだよ。もしこの先カナトが働いても別に返さなくていい。」
「そういうわけには。」
「だめ。カナトがそのせいで無理に働いて、疲れてチキュウに帰りたくなったら困る。」
オージがぎゅっと抱きついてくる。
身長差のせいで、俺はオージに埋もれたようになった。
「だから、これから先悩むこととか不安なことがあったら何でも言って欲しい。僕が、無くせるようにどんな事でも頑張るから。お願い。」
「ありがとう。オージも、悩みとかあったら言ってくれよな!もう俺たち親友みたいなもんだろ。」
「親友……そうだね。ずっとそう思ってて。」
オージの抱きついてくる力が少し強くなる。
「オージ?」
その状態のまま全くオージが動く様子がないので、窮屈な状態で首を反らせてオージを見上げる。
俺を見つめるオージと目があった。その顔を見て、息を飲んでしまう。
凄く優しくて、こちらを包み込むような暖かい眼差しだった。
だけど、どこか切ない気持ちになってくる。
胸がつきりと痛む感覚がした。
「カナト……」
見つめられて、名前を呼ぶ声に心臓がドキドキしてくる。
なんだこれは。初めての感覚なんだけど。
俺は今どんな顔でオージを見ているんだろう。
どうしたらいいか分からないまま、目を逸らせずに見つめ続ける。
ゆったりとオージが頭を屈めてきて、顔が近づいてきた。それを知って自然と目を瞑る。
唇に暖かくて柔らかいものが触れた。前にしたときと同じ、オージとキスする感覚だった。
唇が離れて、目を開いてもオージの顔を見ることが出来なくてうつむく。
オージはそんな俺を優しくいつまでも抱きしめてきた。
また胸の表面がズキリと痛んだ。
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