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36, オージ、甘やかす

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オージが良い人を見つけて結婚したら、俺はどうしよう。
とりあえず、結婚式の友人代表スピーチはしないとな。
年上の従姉妹の結婚式で見たやつ。

そんで、屋敷は出て一人暮らしをするんだろう。
だってここにはオージとお嫁さんが住むんだから、俺がいたら邪魔者だ。
何だか寂しいな。そうなるくらいなら、日本に戻して貰おうかな。
でも、オージは愛のない結婚をするんだっけ。そしたら、オージは例え結婚してもこれまでみたいに寂しいままなのか。

「あの、か、か、カナトが、僕と結婚、するのは……どう?」

「へ?」

憂鬱な想像をしていたら、オージの小さく呟いた言葉がうまく聞き取れなかった。

「っ……ごめん。独り言だった。気にしないで。」

また顔を真っ赤にして言うオージ。何を言ったのかすごく気になる。
流れ的に、結婚の話だとは思うけど。

「オージが相手を捜すなら、俺もこっちで婚活しようかな。こっちで頑張って自立して相手見つけて、結婚してずっと暮らすとかいいかも。」

とりあえず、結婚の話題を続けてみた。
俺とオージそれぞれカップルなら俺の邪魔者感もなくなるし、オージのそばにいる約束も守れる。悪くないな。無職の俺に相手が見つかるかだけど。

「嫌だ。それなら僕は相手を捜さないよ。」

オージがきっぱりした口調で言う。な、なんでいきなり。

「カナトはやっと体を取り戻したばかりなのだから、出て行く事を考える前にまずはここで暮らして生活に慣れないと。大丈夫。いくらでもいて良いし、不自由はさせないよ。もちろん、お金もいらない。」

ツラツラと語るけどそれ、俺が人間としてダメになるやつじゃん。
でも、なるほど。俺のこと考えて合わせてくれてるんだ。その優しさは素直に嬉しい。

「ありがとう。早く馴染めるように頑張る。」

「頑張らなくていいよ。ずっとここにいたらいいからね。」

「はいはい、わかりました。」

その日はとりあえずオージの寝間着を貸して貰って寝ることになった。
部屋について来るから一緒に寝るのかと思ったら、俺がブカブカの寝間着に着替えた後になって「これはだめだ。強すぎる……」とかなんとか呟いて自分の部屋に戻ってしまった。

次の日、オージは朝お城に行ったけど昼過ぎには戻ってきた。
今から商人が来るからって事らしい。

来たばかりの頃にコンパを開催した大広間に、オージが魔法で緑色のハリボデ人形を出現させる。
これ、屋敷で人に会うときにも使うんだ……。

ハリボテの横にソファセットと大きい机も出してくれて、オージがハリボデのうしろに隠れる。
しばらくして、商人だというずんぐりした中年男性が入ってきた。

俺が挨拶すると、身なりの良さがにじみ出ている彼は丁寧にお辞儀をした後名乗り、じっと僕を見た。

「な、何か?」

「失礼いたしました。ご無礼を。恐れ入りますが、お名前をお伺いしても?」

商人の顔はにこやかだけど、目はこちらを値踏みしている感じだ。

「あ、カナトです。」

「カナト様。素敵なお名前で。大公様の、ご親戚でいらっしゃいますか?」

「いえ、違います。えっと……。」

もうドロテオの体だった時みたいに婚約者とか、決まった関係性はないんだよな。なんて言ったらいいやら。友達?親友?

「僕の大切な人だよ。今日は気にせず何でもカナトが気に入りそうなものを見せて欲しい。」

「そうでございましたか。かしこまりました。もちろん、この国随一の品をご覧頂きます。」

オージの言葉に、商人の目が光った気がした。
少しいぶかしげな様子から一転して、俺に欲しいものは無いかと愛想良く聞いてくる。

「あ、そうしたら、服を見せて下さい。シャツとか、ズボンとか。」

今着ている服は、オージから借りていてブカブカなんだ。
オージも俺が着ているのを見て顔を真っ赤にして手で覆って震えていたから、体に合ってなくて変なんだと思う。
にしても笑いすぎだよな。本人は否定していたけど。

「では、寸法を軽くご確認させていただけますか。」

その後に言われたとおりに立ち上がって、両腕を横に広げた。
商人が上着のポケットからメジャーをだし、俺の肩幅やウエスト、身丈なんかを図る。

「まず、シャツからご紹介しましょう。」

商人が持ち込んだショルダーバッグから、数枚のシャツを取り出した。

手にしてみると、生地の肌触りが凄くいい。ドロテオの私物も俺の普段着とは比べものにならないくらい質がよかったけど、それより更に。これ多分超高級なやつだ。
デザインも、袖に繊細な刺繍が入っていたり、前身頃のボタンが並ぶラインにあわせてレースのフリルがついていたりする。
とても綺麗だしドロテオだったら、似合うんだろうけど……。

「あの、出して頂いてすみませんがもっとシンプルなやつありますか?俺に合ってるサイズで一番安いやつ下さい。」

「お気に召しませんか?」

商人が残念そうに言う。


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