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35, 俺が元の姿に戻ってからオージの様子がおかしい
しおりを挟むずっと時空の狭間とやらにいた俺の体は相当疲弊していたのか、部屋に戻ったら着替えもせずに寝てしまった。
それからは泥のように眠って、ふと目覚めたらもう部屋が薄暗い。
横向きになっていた体を、こてんと仰向けにしてみる。
「わぁ!」
目の前にオージがいた。
いつの間にか俺のベッドの横に椅子を持ち出して、座って俺をのぞき込んでいたようだ。
暗い中で。
「驚かせてごめん。寝顔を見たくて……。」
寝顔?そんなの見て何が楽しいんだ。
「だ、大丈夫。ちょっと心臓止まりそうになったけど。」
その時おなかが鳴ったので、オージが夕飯にしようかと笑った。
食事のあいだも気がつくとオージがこちらを見ていて、目が合うと恥ずかしそうな顔で笑うので調子が狂った。
前の経験からもっと寝込むかと思ったけど、1日寝たら案外元気が戻った。
なので、少し仕事をするというオージにくっついて書斎に行く。
最近ずっとそうしていたから、特に何も考えずに取った行動だった。
いつものようにソファで本を読んで待っていると、仕事が片づいたのかオージがソファの前に立った。
これまでみたく、俺を抱えて座ると思ったからちょっと座っていた位置をずらして座面をあける。
けれど、オージはそこに座らずにしゃがんで俺の前に跪いた。
「カナト。落ち着いたら話すつもりだったんだけど、カナトがいた世界の場所ももう分かってるから、帰してあげる事が出来るんだ。」
「え?そうなの。じゃあ、一度帰りたいな。急に来たから、会社とか借りてる部屋とかどうなってるか確認したい。」
「一度とかはないんだ。異世界の人を往来させるのは、対象者の体や魂に凄く負荷がかかるはずだから。カナトを帰したら、また呼び寄せる事は出来ない。カナトが転移に耐えられないかもしれないから。」
「そうなんだ……。」
俺の言葉に、オージがゆっくり頷く。
帰ったら二度とこの世界には来れないし、オージにも会えない。
それはすごく寂しく感じた。
「俺は、すぐ帰った方が良い?ここにいたら迷惑?」
「そんな、迷惑なわけない。いくらでもいていいよ。」
「じゃあ俺、帰らないよ。オージのそばにいるって言ったし。」
俺が言うと、オージの頬が赤くなった。嬉しそうな様子に、不思議と俺の心も温かくなるかんじがする。
この顔が見られるなら、一生帰れなくてもいいかも、なんて思った。
「カナト、気持ちは嬉しいけど、自分のことを一番に考えて欲しい。本当に帰らなくていいのかい?」
「いいよ。まあ、事情が変わってどうしても戻りたくなったらお願いするかもしれないけど。」
「うん、分かった。カナト、ありがとう。」
オージが跪いたまま、俺の左手を手にとって恭しく甲にキスをしてきた。
王子様がすぎる光景に、しばし固まる。
なんて様になるんだろう。そう思いながらじっと見つめていると、目があったオージが恥ずかしそうに眉を下げて笑った。
今度は可愛いがすぎる。
……いや、何だよ俺その感想。そりゃたまにオージは可愛いけど、可愛すぎるとか。
「明日、カナトの生活に必要なものを揃えようか。商人に屋敷に来て貰おう。」
オージが跪くのをやめて隣に座った後、話しかけてくる。
「あ、うん、確かに、服は何着か欲しいな。絶対に働いて返すしお金は借りてもいい?」
「カナトはそんな事何も気にしなくて大丈夫だよ。」
「いやいや、そんなわけには。もうドロテオの体でもないし、働けるでしょ。」
ドロテオの名前を出してふと、婚約破棄のことはどうなったんだろうと気になったので聴いてみる。
「ああ、近々正式に公表するよ。代わりにノルド先生と結婚するって話しを持ち込めば、ウィンスラント政府もエスト家も文句は言わないんじゃないかな。北の魔女と繋がりが出来るわけだし。」
「俺を助けるために、婚約破棄させちゃってごめん。」
「気にしないで。あのドロテオの先生に一途な様子だと、僕と子供を作るのはどのみち無理だったと思うし。」
どうかな。ノルドさんが言えばノりそうな気も……下世話な話はいいか。
オージとドロテオのそういう所を想像してしまいそうになり、すぐに打ち消す。
「また結婚相手探すの?」
「そうだね。国のためにも跡継ぎは必要だから。」
良い相手が見つかるといいね。
そう言いたかったけど、なぜか何かが喉につっかえて言えなかった。
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