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34, 初対面

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ドロテオから呪文を記した紙を受け取った後、オージは一晩中ノルドさんの家で俺を呼び戻す魔法に取り組んでいたらしい。
というのも、俺の見る映像はドロテオのいる所しか映さないので、ドロテオが眠くなって寝てしまった後は俺の意識もなくなったからだ。

そして次の日の早朝、魔法陣の真ん中に立つドロテオの前にオージが立ち、杖を構えた。オージのさらに後ろではノルドさんが様子を見ている。

「カナト、心の準備はいいかい?」

『大丈夫。』

通じていないはずなのにオージは俺に呼びかけ、俺はオージに応えた。
オージが杖を振りながら呪文を唱えていく。

ドロテオの足元の魔法陣が光り始めると、自分の体が映し出された光景の方へ吸い寄せられるような感覚がした。
一度戻った時と同じ感覚に、オージを信じてその力に体を委ねる。

吸い寄せる力がどんどん強くなり、息が止まりそうなくらいになった。
その瞬間、バシュッと音がして、体が地面に転がり落ちるのを実感した。

「あいてっ!」

思わず出た声色に、ハッとする。
俺の声だ。ドロテオのじゃない。
衣服もパーカーにジーンズで俺が気球に乗った時のままだった。腕をまくると、知っている位置に黒子がある。全部色が付きだ。
間違いない。元の体に戻ってる。

痛む体を起こして座り、周りを見渡すとすぐ近くに魔法陣の中に立つドロテオがいた。
さらにその正面にオージが立ち、こちらを見つめている。

「カナ、ト……?」

「あ、オージ。この姿では、初めまして?」

ゆっくり立ち上がって、転がった時体についた埃をはらう。
オージが何も返事をしないので、棒立ちでこちらを見つめているところにゆっくり近づいた。

「えっと、ありがとう。助けてくれて。変なとこに閉じ込められてたんだけど、オージの事は見えてたよ。頑張ってくれて、ありがとう。」

改めてオージの前に立ってみると、身長差が凄い。
ドロテオの体はスタイル良かったからオージより少し低いくらいだったけど、本来の俺は日本人の平均を下回るチビだから頭ひとつ近く差がある。

「……。」

「オージ?無視しないでよ。」

あまりに反応がないので、顔を見上げながらおどけたように突っ込んでみる。

「へ?あ?あっ!ああ!すまないね。ちょっと、びっくりして。カナトがこんなに可愛いと思わなくて。君は本当に素敵だ。言葉が出ないくらいだよ。」

「それは、どうも……」

だんまりからのベタ褒めで、反応に困る。
それに今の俺に可愛いって……そりゃチビだけど。

オージは飽きないのかなってくらいに俺の顔を凝視している。俺はオージが言う通りの可愛い顔は特にしていない。どちらかと言うとどこにでもいる顔の部類だ。
なのにオージは穴が開きそうなくらいに見つめてくるし、顔は赤くて瞳孔は開いてるし、かすかに鼻息も聞こえてくる。
正直な所、ちょっとその反応が怖いと思ってしまった。

「ちょっと!用が済んだなら帰ってくれない?私ノルド様と早く2人っきりになって愛し合いたいんだけど。」

ドロテオが魔法陣を抜けてノルドの横に立ち、俺たちに向かってシッシと追い払うような仕草をする。

「あ、あの、ドロテオさん、協力してくれてありがとうございます。おかげであそこから出て来れました。」

色々な元凶だし呆れる言動ばかりだけど、この世界に連れて来られた事自体に恨みはない自分がいるのでお礼を言った。

「は?貴方にお礼言われるの、意味わからない。」

本人なりに自分のした事は分かってるらしい。でも謝らないところは、いっそ清々しいと言うか、何と言うか。

「あはは、そうかも。あ、ノルドさんもありがとうございます。」

「ノルド様に話しかけないで!それと帰ったら私の荷物はすぐこっちに送ってよね!」

「だってさ。オージ、帰れそう?」

相変わらず俺を凝視しているオージの様子を伺うように尋ねる。

「参ったな。見上げてくるの、本当に可愛い……。」

何か変な言葉がオージの口から漏れ出てきている。

「オージ!」

「はっ!あぁ、そうだね。僕たちはもう帰ろうか。」

オージがそそくさと杖を取り出し、足元に魔法陣を浮かび上がらせた。
俺もその中に立つと、視界が一瞬でオージの書斎に切り替わる。

見慣れた光景に安心したら、どっと疲れが襲ってきた。
荷物返してもらうの明日でいいや。ドロテオのだし。

「オージ、俺部屋で休むね。ちょっとだるくて。」

「大丈夫かい?異世界に来るのは体にも負担がかかるから、きっと体が疲れているんだ。アンネに何でも不自由なく過ごせるように言っておくから、回復するまで十分に休んで欲しい。」

「ありがとう。オージも一緒に寝る?寝てないでしょ。」

何の気なしに言った言葉だった。最近はオージが一緒に俺の部屋で寝るのが当たり前になってたから。
けれど、オージはそれを聞いたとたんに耳まで真っ赤になってしまった。

「ねねね寝る!?いや、僕はいいよ。耐えられそうにない。大丈夫。身綺麗にしたら城に行かないと。」

早口で喋って、そそくさと扉をでる。
すぐにまた扉を開いて顔だけそろっと出してきた。

「いってきます……。」

「あ、いってらっしゃい!」

「はぁ、だめだ。可愛い。だめだめだめ。」

ブツブツつぶやきながらオージが扉を閉めた。
何だか様子がおかしいオージのことは気になったけど、疲れには勝てずに自分の部屋に向かった。
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