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33, 2度目の婚約破棄
しおりを挟む俺はひとまず今の状況を整理する事にした。
今の自分の姿を確認してみると、元の体に戻っているようだ。
顔を確認する術は無いけど、腕の黒子の位置でわかる。
ただいつか見たドロテオみたいに、色味は全然無い。おそらく魂だけの幽霊みたいな状態だからだろう。
『おーい!オージ!』
暗闇の中に浮かび上がる映像に映り込んだオージに話しかけてみても、反応はない。聞こえていないってことだ。
仕方なく映された映像を見守る。
「あの、ドロテオ。」
オージがドロテオに話しかけると、彼は振り向いた。
「あれ?まだいたの?」
「戻って来れて良かったよ。それで、君が呼び出したカナトのことなのだけど。」
「あー。元の世界に戻ったよ。」
『戻ってない!』
思わず叫んだ。あいつ、もう関係ないとか思ってそうだな。
悪さしてたのは態とって本人が申告してたけど、元々性格は余り良くない奴なんだろうな。
「なぜ分かるんだい?」
「そのカナトってやつがこっちにいるとき、私がカナトの世界にいたからね。今私がこっちにいるなら、カナトも戻ってるでしょ。」
なんだって、そんな話本当か怪しい。
オージも少し眉を顰めていた。
『オージ!そいつの言う事信じちゃダメだ!』
聞こえないと分かっていてもつい叫んでしまう。
「そうか。では、君はカナトとして暮らしていたんだね。」
「まあね。色々こっちと違うから大変だったよ。」
「なら、デンシャも大変だっただろう。カナトが毎日乗っている、空を飛ぶ箱らしいのだけど。」
オージがちゃんと疑ってくれてるのが分かって泣きそうになる。
「あー、あれね。ほうきと違ってグラグラするから乗り心地最悪。」
ドロテオが肩をすくめた。
こいつ、堂々と嘘ついて!
「……ドロテオ、向こうに行ったというのは嘘だね。デンシャは空を飛ぶものじゃないよ。カナトだって、きっと元の世界には戻れていないんだろう?」
「だったら何?あいつがどうなろうと私たちに何か不利益ある?あ、そうだ。オズバルド大公、私とノルド様の事認めてくれるなら、大公の子供産んであげてもいいよ。それでそっちも不利益ないでしょ。」
「……その話を君が知っているという事は、おそらくかつての君と同じ状態だろうカナトもきっとこの場が見えているんだろうね。」
オージが部屋をぐるりと見渡す。俺が見えてるわけないのに、こちらの方をじっと見つめた。
「カナト、心配しなくていい。きっと大丈夫だから。」
『おーじぃ……』
泣きそうを超えてちょっと涙ぐんでしまった。
今はオージを信じよう。
「ドロテオ、君が使った魔法の呪文をなるべく詳細に教えてくれないか。僕が、カナトを呼び出す呪文を組んでみる。」
「だから、それしても私に何のメリットもないよね?」
「ああ、でも、僕はカナトと約束したんだ。だから、僕には君にお願いするしか出来ない。どうか、呪文を教えて欲しい。」
オージが跪いてドロテオに頭を垂れたので、流石のドロテオもちょっとたじろいだ。
「は、はぁ?何なの。ダサっ」
「ドロテオ、別に教えてやるくらいしたらどうだ。」
意外なことに、これまで静観していたノルドさんが口添えをしてきた。
「だ、だって、この人たち私が閉じ込められてるときも何か楽しそうにしてたし……。」
その言葉を聞いて改めて気付いた。この暗い空間に、ドロテオはずっと1人でいたんだ。
誰にも気付かれずに何日も。
自業自得とはいえ、元々は本人の意思を無視した結婚話に巻き込まれたのがきっかけだと思えば、ドロテオにも可哀想な部分はある。
「……オズバルド、ドロテオとの婚約を破棄してやってくれないか?こいつは私が貰う。」
「え!!ノルド様!本当に!?」
「ああ。元々オズバルドとの結婚からも逃げ切れたらって約束だったしな。こんな無茶するとは思わなかったが。でも、何度も言うが私は魔女の血族で、不老長寿だ。お前とは人生の流れが違う。それでいいな。」
「はい!ノルド様!そんなのとっくに覚悟してますよぅ!私本当に嬉しい!!私のお墓はノルド様が建ててくださいねっ!」
ドロテオがノルドさんの腕に飛びつく。ノルドさんは複雑そうな顔をしていたけど今度は拒否しなかった。
「先生、ありがとうございます。ドロテオ、婚約破棄の件は飲むよ。その代わりに、呪文を教えて欲しい。」
「おっけー!」
浮き浮き上機嫌のドロテオの横で、ノルドさんは観念したような顔をしていた。
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