31 / 60
31, 帰ってきたドロテオ
しおりを挟むオージは、第二王子と俺を交互に見比べた。
「では、そこの鳩に聞いてみることにしようか。」
オージが杖を振ると、鳩の額から光の筋が伸びて空中にスクリーンのようなものが広がった。
さっきの光景がそこに映り込む。まるで監視カメラの映像みたいだ。
第二王子がチッと舌打ちをした。
「ヴィグトール殿、こちらの忍耐にも限度があるのですよ。」
オージが凄く低い声で唸るように言った。
「だったら何だ。ウィンスラントと敵対するほどの力がこの国にあるか?一族郎党呪われた人間の国無勢が。」
あまりの言い草に、殴ってやろうと体が動いた。
オージがそんな俺の肩を引き寄せて阻止する。
「確かに、僕の一族は呪われている。一度呪いが発動すれば、もう後戻りはできない。呪いはゆっくりと、精神と体を侵し、皆死の恐怖をたっぷり味わいながら衰弱して死んでいく。どんなに愛し合った夫婦でも、死に際に苦しみのあまりに罵り合いさえする。」
静かなのに背筋が冷えるような声音に、第二王子のひっかき傷が赤く目立つ顔がわずかに引き攣った。
「この呪いを解くことは、この200年どんなに一族で試みても出来なかった。けど、長年の研究で、似た呪いを僕たちは操れるようになったんだ。」
オージが徐に杖を取り出し、ブツブツと呪文を唱え出した。
「おっ、おいやめろ!」
慌てて第二王子も腰の鞘から杖を引き抜いてオージに向けるが、抵抗空くオージの魔法の光が第二王子の体を包み、小さくパチパチと音を立てて消えていった。
「何をした?」
第二王子が青ざめた顔で言う。
「今、僕たち一族の死の呪いの話をしただろう?まず、胃腸の調子がおかしくなるんだ。よく味わうといい。」
「っ……ううっ……」
オージの呪いのせいか、第二王子がお腹を押さえて蹲る。
「貴様っ、俺に死の呪いなんかけて国が黙ってると思うなよ!」
「誰も、僕が殿下に死の呪いを掛けたなんて信じないから大丈夫だよ。」
「いたたたっ……っお、おい!今すぐ呪いを解け!」
オージが聞こえませんとでも言うように、杖を持った方の肩をすくめる。
「くそっ、嫌だ……死にたくないっ!くそっ!覚えてろよ!」
第二王子が杖を振ると、その姿が掻き消えた。
「カナト、本当にごめん。怖かったよね。」
第二王子の姿が消えるなり、オージが俺をぎゅうっと抱きしめた。
「お、俺は全然平気。それよりあいつに呪いなんて掛けて大丈夫なの?」
オージやスマラルダスの立場が悪くなるのだけが心配だ。
「大丈夫だと思うよ。数日下痢になるくらいの魔法だからね。」
「えっ、死の呪いを掛けたんじゃ……」
「僕は一言もそんな事は言ってないよ。死の呪いを使えるなんて見栄は張ったけど。あれで数日は怯えて過ごしてくれると、溜飲が下がるんだけどね。」
オージが苦々しそうに言う。
「カナトの身に何もなくて本当に良かった。よく頑張って抵抗したね。」
オージが人差し指で俺の頬を優しく撫でる。
その癒し効果に目を細めてその感触を味わってしまった。
ほっと気持ちが落ち着いてきて、その時の不思議な出来事を反芻する。
そして、それがとんでもない重大な出来事だったことを思い出し、思わず叫んだ。
「っあー!オージ!いたんだ!!多分!!!」
興奮のあまり王子の胸元を握りしめて揺さぶると、オージが驚いて僕の肩を掴んだ。
「ど、どうしたんだいカナト。」
「出てきたんだよ!ドロテオが!録画見て!第二王子を突き飛ばすとこ!」
俺が伝えると、オージが再び鳩を操ってそのときの映像を投影する。
『ざけんじゃないよ!私の体に触れて良いのはあんたでもオズバルドでもない!一人だけなんだから!』
俺の叫びを聞いて、オージが顎に手を当てる。
「最初見たときはカナトが襲われてる状況にばかり気を取られていたけど、確かにこれは……。」
「この時俺の意識は別の真っ暗なところにいて、こんな感じでドロテオの様子を上から見てたんだ。」
俺がスクリーンを指さす。
「……。ノルド先生の所に今から言ってみようか」
オージの言葉に、俺はコクリと頷いた。
83
お気に入りに追加
412
あなたにおすすめの小説
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

異世界で勇者をやったら執着系騎士に愛された
よしゆき
BL
平凡な高校生の受けが異世界の勇者に選ばれた。女神に美少年へと顔を変えられ勇者になった受けは、一緒に旅をする騎士に告白される。返事を先伸ばしにして受けは攻めの前から姿を消し、そのまま攻めの告白をうやむやにしようとする。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。
愛をなくした大公は精霊の子に溺愛される
葉月めいこ
BL
マイペースなキラキラ王子×不憫で苦労性な大公閣下
命尽きるその日までともに歩もう
全35話
ハンスレット大公領を治めるロディアスはある日、王宮からの使者を迎える。
長らく王都へ赴いていないロディアスを宴に呼び出す勅令だった。
王都へ向かう旨を仕方なしに受け入れたロディアスの前に、一歩踏み出す人物。
彼はロディアスを〝父〟と呼んだ。
突然現れた元恋人の面影を残す青年・リュミザ。
まっすぐ気持ちを向けてくる彼にロディアスは調子を狂わされるようになる。
そんな彼は国の運命を変えるだろう話を持ちかけてきた。
自身の未来に憂いがあるロディアスは、明るい未来となるのならとリュミザに協力をする。
そしてともに時間を過ごすうちに、お互いの気持ちが変化し始めるが、二人に残された時間はそれほど多くなく。
運命はいつでも海の上で揺るがされることとなる。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる