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31, 帰ってきたドロテオ
しおりを挟むオージは、第二王子と俺を交互に見比べた。
「では、そこの鳩に聞いてみることにしようか。」
オージが杖を振ると、鳩の額から光の筋が伸びて空中にスクリーンのようなものが広がった。
さっきの光景がそこに映り込む。まるで監視カメラの映像みたいだ。
第二王子がチッと舌打ちをした。
「ヴィグトール殿、こちらの忍耐にも限度があるのですよ。」
オージが凄く低い声で唸るように言った。
「だったら何だ。ウィンスラントと敵対するほどの力がこの国にあるか?一族郎党呪われた人間の国無勢が。」
あまりの言い草に、殴ってやろうと体が動いた。
オージがそんな俺の肩を引き寄せて阻止する。
「確かに、僕の一族は呪われている。一度呪いが発動すれば、もう後戻りはできない。呪いはゆっくりと、精神と体を侵し、皆死の恐怖をたっぷり味わいながら衰弱して死んでいく。どんなに愛し合った夫婦でも、死に際に苦しみのあまりに罵り合いさえする。」
静かなのに背筋が冷えるような声音に、第二王子のひっかき傷が赤く目立つ顔がわずかに引き攣った。
「この呪いを解くことは、この200年どんなに一族で試みても出来なかった。けど、長年の研究で、似た呪いを僕たちは操れるようになったんだ。」
オージが徐に杖を取り出し、ブツブツと呪文を唱え出した。
「おっ、おいやめろ!」
慌てて第二王子も腰の鞘から杖を引き抜いてオージに向けるが、抵抗空くオージの魔法の光が第二王子の体を包み、小さくパチパチと音を立てて消えていった。
「何をした?」
第二王子が青ざめた顔で言う。
「今、僕たち一族の死の呪いの話をしただろう?まず、胃腸の調子がおかしくなるんだ。よく味わうといい。」
「っ……ううっ……」
オージの呪いのせいか、第二王子がお腹を押さえて蹲る。
「貴様っ、俺に死の呪いなんかけて国が黙ってると思うなよ!」
「誰も、僕が殿下に死の呪いを掛けたなんて信じないから大丈夫だよ。」
「いたたたっ……っお、おい!今すぐ呪いを解け!」
オージが聞こえませんとでも言うように、杖を持った方の肩をすくめる。
「くそっ、嫌だ……死にたくないっ!くそっ!覚えてろよ!」
第二王子が杖を振ると、その姿が掻き消えた。
「カナト、本当にごめん。怖かったよね。」
第二王子の姿が消えるなり、オージが俺をぎゅうっと抱きしめた。
「お、俺は全然平気。それよりあいつに呪いなんて掛けて大丈夫なの?」
オージやスマラルダスの立場が悪くなるのだけが心配だ。
「大丈夫だと思うよ。数日下痢になるくらいの魔法だからね。」
「えっ、死の呪いを掛けたんじゃ……」
「僕は一言もそんな事は言ってないよ。死の呪いを使えるなんて見栄は張ったけど。あれで数日は怯えて過ごしてくれると、溜飲が下がるんだけどね。」
オージが苦々しそうに言う。
「カナトの身に何もなくて本当に良かった。よく頑張って抵抗したね。」
オージが人差し指で俺の頬を優しく撫でる。
その癒し効果に目を細めてその感触を味わってしまった。
ほっと気持ちが落ち着いてきて、その時の不思議な出来事を反芻する。
そして、それがとんでもない重大な出来事だったことを思い出し、思わず叫んだ。
「っあー!オージ!いたんだ!!多分!!!」
興奮のあまり王子の胸元を握りしめて揺さぶると、オージが驚いて僕の肩を掴んだ。
「ど、どうしたんだいカナト。」
「出てきたんだよ!ドロテオが!録画見て!第二王子を突き飛ばすとこ!」
俺が伝えると、オージが再び鳩を操ってそのときの映像を投影する。
『ざけんじゃないよ!私の体に触れて良いのはあんたでもオズバルドでもない!一人だけなんだから!』
俺の叫びを聞いて、オージが顎に手を当てる。
「最初見たときはカナトが襲われてる状況にばかり気を取られていたけど、確かにこれは……。」
「この時俺の意識は別の真っ暗なところにいて、こんな感じでドロテオの様子を上から見てたんだ。」
俺がスクリーンを指さす。
「……。ノルド先生の所に今から言ってみようか」
オージの言葉に、俺はコクリと頷いた。
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