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29, 悪口大会は盛り上がる
しおりを挟む第二王子が去った後は衝立から出てきたオージと第二王子の悪口大会になった。主に文句言うのは俺だけど。
嫌いな奴の話題って、友達同士で一番盛り上がるよな。
「あいつ本当に性格悪い奴だな!」
俺が憤慨して言えば、オージが頷く。
「何を言われてもよく我慢したね。僕も感情的になってたところに諌めてもらって気付かされたよ。ありがとう。」
そう言って俺の頭を撫でてきた。
「あんな態度取って、オージが敵対したらとか考えないのかな。」
この国はずっと中立を守ってるらしいから、どうせ大丈夫と鷹を括ってるのだろうか。
「国の規模で言えば向こうの方が断然大きいからね。実際、スマラルダスがウィンスラントに敵対するメリットはあまり無いよ。国のみんなを争いに巻き込むわけにはいかないし。今日はちょっと、何かの嫌がらせくらいはしたくなったけど。」
「そしたら食料とか、言われたとおり輸出増やすの?」
あんな態度のやつに売る必要なくない?
「みんなが困らないくらいにはね。あの様子だと高く買ってはくれなさそうだけど、売らなければウィンスラントやノーミの一般市民から略奪してしまうだろうから。」
オージは自分の感情じゃなくて、スマラルダスや他の国の国民のことまで考えて行動してるんだな。凄いや。
「でも、カナトには本当にすまなかったね。向こうから面会を希望してきたから、まさかあそこまで失礼な態度を取るとは思っていなかったんだ。会いたいのもあんな下劣な理由だったなんて。もう絶対に会わせないから。」
オージが悲しげな顔で謝ってくる。オージは全然悪くないのに。
「全然大丈夫!元の世界の職場だとあれくらい普通だったし。それに俺にってよりは、ドロテオへの発言だし。」
「でも……カナトを守れなかった自分が不甲斐ない。」
何か本当に思い詰めた顔をして落ち込んでいる。
「もー!大丈夫だって!元気出して!」
俺は空気を変えようとふざけてオージに正面からタックルした。
そのまま押し込んで慌てさせようとしたけど、オージは数歩下がっただけでびくともしない。
体幹強いな、と思ってるとオージも俺の背中に腕を回して抱きしめてきた。
やり返されるのかと身構えたけど、無言のまま強い力で抱き込まれる時間が続く。
オージの体温とか、ちょっと早い心臓の音とかが伝わってきた。それを聞いていると、何だか落ち着くから、不思議だ。
しばらくしたら少し拘束が緩んだので、体を逸らしてオージの顔を見つめた。
オージが見つめ返してきて、その顔がだんだんと近づいてくる。まるでこれからキスするみたいに。
俺は動かずにその様子を見ていた。
(やめて!!)
「わっ!」
オージの顔が俺に重なる直前、頭の中に響いた大きな声に思わず反応してしまう。
それを聞いたオージも、はっとしたように体を離した。
「えっと、ごめん。今から屋敷に帰るのでいいかな?」
オージが慌てたように聞いてくるけど、何だか離れ難い気がしてしまった。
「もしいいなら、オージの仕事が終わるまで待って一緒に帰りたい。」
俺が言うと、オージが少し嬉しそうな顔をした後に眉を下げた。
「僕の方は構わないのだけど、今日は晩餐会もあって遅いからずっと待たせることになりそうなんだ。」
「いいよ。待ってる。」
「ありがとう。じゃあ、他の部屋に案内するね。」
そうして、オージは魔法を使い、俺を連れてゲストルームみたいな部屋に転移した。
机やチェアといった家具の他に、ベッドルームもある。
オージが部屋のドアを開けてピュウっと軽く口笛を吹くと、外の庭木にとまっていた鳩が窓辺にやってきた。
オージが杖を振って呪文を口にすると、鳩の周りを一瞬だけ黄色い魔法の光が包む。
「何かあったら、この鳩に話しかけて。」
そう言って、オージが鳩をチェアの背もたれにとまらせた。
「ヨロシクオネガイシマス!」
鳩がバサっと翼を一振りして頭をコクコク前後に振る。
「うん、オージお仕事頑張って。」
扉の前でオージを見送る。
「ありがとう。いってきます。」
それから夜になるまで、たまにオージが部屋に来てお菓子をくれたり、お昼ご飯を一緒に食べたりした。
それ以外は特にすることがないから、空いた時間は城の中を見て回ったりしてすごす。鳩を連れていけば部屋の出入りはしていいって言われていたから。
鳩を肩に乗せて散策してる途中見つけた中庭に出て深呼吸していたら、何だか視線を感じたのでそちらを振り返る。
中庭の横を通る外廊下の柱の陰から、2人の男がこちらをチラチラ見ていた。
「えっと、何か用ですか?」
声をかければ、2人はお互いに顔を見合わせた後、こちらに向かってきた。
「不躾で申し訳ありません。私はエディオ・ジンジャー。この国の法務大臣です。」
「僕はロバート・ジャム。総務大臣です。」
大臣。オージの話で何度か聞いたことがあるな。
「えっと、お……私は……」
あれ、ドロテオって、名乗っていいのか?オージからは特に何も言われてない。会わないって話だったから。大臣が、こんなお散歩中にあっさりエンカウントするとも思ってなかったし。
「失礼ながら、大公陛下のご婚約者、ドロテオ様であらせられますよね?」
あ、俺がドロテオって分かってたから声をかけてきたのか。
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