26 / 60
26, オージキレる
しおりを挟むいきなり現れたオージとはっと目が合う。
次の瞬間、オージがグッと構えて杖をノルドさんに突きつけた。
「今すぐカナトから離れろ!」
普段のオージからは想像もつかない怒鳴り声に、俺は思わず固まった。
「思ったより来るのが早かったな。一晩はかかるかと思った。」
ノルドさんが特に驚いた様子もなくオージに話しかける。
「離れろって言ってるだろ!」
オージが強く杖を振ると、ノルドさんの足元にバヂンと轟音を立てて強く光る稲妻の柱が立ち、床が軽く裂けた。
すぐ近くの俺にも部屋の空気が震えるのが伝わってきた。
それを見たノルドさんが呆れ顔で後ろに後退り、俺から数歩離れる。
ノルドさんを威圧するように構えながらオージが俺の近くに素早く寄ってきて俺を庇うように間に入った。
「大丈夫かい?」
オージが自分の着ていたジャケットを脱いで俺の肩にかけてくれる。
そっか、俺がノルドさんに上裸を舐められてるとこ見られたんだ。
な、なんか、恥ずかしい。
「あ、うん。大丈夫。えっと、誤解してたらあれだから言っとくと、ノルドさんは魔法の痕跡を調べるために……」
「ごめん。喋らないで。状況は何となく分かるのだけど、今はカナトが先生を庇うのを聞く余裕がないかも。」
言葉を遮るように言われて、思わず黙る。
そのまま見つめていたら少し落ち着いたのか、小さくため息を吐いた。
「オズバルド気は済んだか?」
少し離れた所に立ったノルドさんが、床を魔法で修復しながらオージに話しかける。
それをオージは軽いしかめ面で振り返った。
「先生、どういうつもりですか。」
「来ると約束していたドロテオが中々来ないから、何が起きてるのかと調べてただけだ。」
ノルドさんが肩をすくめて言う。
「じゃあ、まさか先生がドロテオの恋人なんですか?」
「だったら何だ。」
「ひょっとしてドロテオがカナトの召喚に使った魔石、先生が渡したものですか。」
「やっぱりあれ使ってたか。そうしたらカナトの体も、探せば見つかるくらいの所にあるだろ。」
なんと。ノルドさんの言葉が本当かは分からないけど、今は信じたい。舐められ損は嫌だ。
「あ!それで、使われた魔法について何か分かったんですか!」
「カナト、先生と話さなくていい。」
オージが俺の言葉を遮ってくる。
ノルドさんはそんなオージの様子を見て怪訝そうにした。
「多少な。どうも、元々は体ごとカナトを呼び出した後、身代わりにして私の所に逃げてくるつもりだったみたいだ。それが失敗して、カナトの魂だけ呼びだしたうえに自分の体に取り込んでしまって魂が弾き出されたんじゃないか。」
何という自分勝手な。そもそも、俺の顔なんて平凡なアジア顔で西洋人形みたいなドロテオとは似ても似つかないぞ。ドロテオの魔法じゃ見た目とか条件を絞って呼びだしたりは出来なかったんだろうけど、行き当たりばったり過ぎるだろ。
「肝心のドロテオの魂の居場所は探せそうですか?」
オージがノルドさんに尋ねる。
「分かると思うか?」
「やはり、先生にも無理ですか。」
「オージ、オージはどうやってドロテオを探そうとしてたの?」
脱いでいたシャツを着直して、ジャケットをオージに返しながら尋ねた。
「残念ながら、僕の手は空振りみたいだ。カナトの体に入ってどこかにいると思っていたから、ずっと物理的に人手を使って捜索をしていたからね。」
「あんまり真面目に探す気無かったんだろ。」
「そんな、事は無いですけれど。すみません、先生のお力になれなくて。」
オージが少し歯切れが悪そうに言う。
「気にするな。大半がドロテオの自業自得だ。私の方で探してみる。それに、魂が分離していても元の体との繋がりは残ってるはずだ。何かのきっかけで出てくるかもしれない。そしたら2人でここに来い。今日は帰っていいぞ。」
勝手に連れてきておいて、何だかまた勝手なことを言っている。ドロテオの恋人だけあるよな。似た者同士というか。
「分かりました。先生、さっきは乱暴な事をしてすみません。」
「かまわん。今はドロテオの体をお前に預けるが、変なことはするなよ。」
「し、しませんよ!僕の持つ呪いを知っているでしょう!?」
オージが慌てたように反論する。
「お前の父親も祖母もそう言いながら早死にしてるぞ。惚れっぽい一族だからな。」
「とにかく!したいとも思いませんから安心して下さい。いくら中身はカナトでも、体はドロテオなんですから。」
え、それってどういう……。
思わず隣にいるオージを見上げた。
「ん?どうかしたかい?体が気持ち悪い?帰ったらすぐにお風呂に入ろう。」
なんだかとんちんかんなことを笑顔で言っている。
ノルドさんと思わず目を合わせたら、ノルドさんは呆れたように肩をすくめた。
104
お気に入りに追加
410
あなたにおすすめの小説
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜
西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。
だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。
そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。
◆
白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。
氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。
サブCPの軽い匂わせがあります。
ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる