完結R18BL/君を愛することはないと言われたので、悪役令息は親友になってみた

ナイトウ

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26, オージキレる

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いきなり現れたオージとはっと目が合う。
次の瞬間、オージがグッと構えて杖をノルドさんに突きつけた。

「今すぐカナトから離れろ!」

普段のオージからは想像もつかない怒鳴り声に、俺は思わず固まった。

「思ったより来るのが早かったな。一晩はかかるかと思った。」

ノルドさんが特に驚いた様子もなくオージに話しかける。

「離れろって言ってるだろ!」

オージが強く杖を振ると、ノルドさんの足元にバヂンと轟音を立てて強く光る稲妻の柱が立ち、床が軽く裂けた。
すぐ近くの俺にも部屋の空気が震えるのが伝わってきた。
それを見たノルドさんが呆れ顔で後ろに後退り、俺から数歩離れる。
ノルドさんを威圧するように構えながらオージが俺の近くに素早く寄ってきて俺を庇うように間に入った。

「大丈夫かい?」

オージが自分の着ていたジャケットを脱いで俺の肩にかけてくれる。
そっか、俺がノルドさんに上裸を舐められてるとこ見られたんだ。
な、なんか、恥ずかしい。

「あ、うん。大丈夫。えっと、誤解してたらあれだから言っとくと、ノルドさんは魔法の痕跡を調べるために……」

「ごめん。喋らないで。状況は何となく分かるのだけど、今はカナトが先生を庇うのを聞く余裕がないかも。」

言葉を遮るように言われて、思わず黙る。
そのまま見つめていたら少し落ち着いたのか、小さくため息を吐いた。

「オズバルド気は済んだか?」

少し離れた所に立ったノルドさんが、床を魔法で修復しながらオージに話しかける。
それをオージは軽いしかめ面で振り返った。

「先生、どういうつもりですか。」

「来ると約束していたドロテオが中々来ないから、何が起きてるのかと調べてただけだ。」

ノルドさんが肩をすくめて言う。

「じゃあ、まさか先生がドロテオの恋人なんですか?」

「だったら何だ。」

「ひょっとしてドロテオがカナトの召喚に使った魔石、先生が渡したものですか。」

「やっぱりあれ使ってたか。そうしたらカナトの体も、探せば見つかるくらいの所にあるだろ。」

なんと。ノルドさんの言葉が本当かは分からないけど、今は信じたい。舐められ損は嫌だ。

「あ!それで、使われた魔法について何か分かったんですか!」

「カナト、先生と話さなくていい。」

オージが俺の言葉を遮ってくる。

ノルドさんはそんなオージの様子を見て怪訝そうにした。

「多少な。どうも、元々は体ごとカナトを呼び出した後、身代わりにして私の所に逃げてくるつもりだったみたいだ。それが失敗して、カナトの魂だけ呼びだしたうえに自分の体に取り込んでしまって魂が弾き出されたんじゃないか。」

何という自分勝手な。そもそも、俺の顔なんて平凡なアジア顔で西洋人形みたいなドロテオとは似ても似つかないぞ。ドロテオの魔法じゃ見た目とか条件を絞って呼びだしたりは出来なかったんだろうけど、行き当たりばったり過ぎるだろ。

「肝心のドロテオの魂の居場所は探せそうですか?」

オージがノルドさんに尋ねる。

「分かると思うか?」

「やはり、先生にも無理ですか。」

「オージ、オージはどうやってドロテオを探そうとしてたの?」

脱いでいたシャツを着直して、ジャケットをオージに返しながら尋ねた。

「残念ながら、僕の手は空振りみたいだ。カナトの体に入ってどこかにいると思っていたから、ずっと物理的に人手を使って捜索をしていたからね。」

「あんまり真面目に探す気無かったんだろ。」

「そんな、事は無いですけれど。すみません、先生のお力になれなくて。」

オージが少し歯切れが悪そうに言う。

「気にするな。大半がドロテオの自業自得だ。私の方で探してみる。それに、魂が分離していても元の体との繋がりは残ってるはずだ。何かのきっかけで出てくるかもしれない。そしたら2人でここに来い。今日は帰っていいぞ。」

勝手に連れてきておいて、何だかまた勝手なことを言っている。ドロテオの恋人だけあるよな。似た者同士というか。

「分かりました。先生、さっきは乱暴な事をしてすみません。」

「かまわん。今はドロテオの体をお前に預けるが、変なことはするなよ。」

「し、しませんよ!僕の持つ呪いを知っているでしょう!?」

オージが慌てたように反論する。

「お前の父親も祖母もそう言いながら早死にしてるぞ。惚れっぽい一族だからな。」

「とにかく!したいとも思いませんから安心して下さい。いくら中身はカナトでも、体はドロテオなんですから。」

え、それってどういう……。
思わず隣にいるオージを見上げた。

「ん?どうかしたかい?体が気持ち悪い?帰ったらすぐにお風呂に入ろう。」

なんだかとんちんかんなことを笑顔で言っている。
ノルドさんと思わず目を合わせたら、ノルドさんは呆れたように肩をすくめた。


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