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23, 親友になりたい
しおりを挟む朝食の後は、オージが街中を色々と案内してくれた。
市場の散策から始まって、街で一番大きな教会の見学、市民に開放している図書館や美術館、街の中心にある綺麗な公園なんかを巡った。
子供の姿だからレストランには入れなかったけど、お腹が空けば道にある屋台やスタンドで串焼きや焼き菓子を楽しんだ。
もちろんお金は全部オージの奢りだ。つくづく頭が上がらない。
公園で少しのんびり過ごした後、近くの城の前まで見学に行った。
城は西洋風の荘厳なもので、外観は緑をモチーフに装飾されていた。屋根は緑の銅葺きで、柱は緑の大理石だとオージが解説してくれる。
「エメラルドシティだ……。」
「ん?」
「あ、いや、何でもない。中はどんな感じなの?」
思わず呟いたのを誤魔化す。この世界のことはこの世界のことなんだから、あんまり別のものに似てる似てると騒ぐのもどうかなと思って。
「中も綺麗だよ。よく手入れされてるし、みんな大切に使ってくれるんだ。今度中を案内するよ。」
「ありがとう。楽しみにしてる。」
「ん、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんたちじゃお城には入れないよ。」
声に振り返れば、柵の前に立っている若い衛兵だった。
俺たちの会話を聞いていたんだろう。
「俺たちが、この城をしっかりと守ってるからね。関係ない人は入れないんだ。水をさしてごめんね。でも、お友達との約束を破らせても悪いだろう?」
兵士が言って肩をすくめる。
「あら、入れるわ。簡単よ。私が大公様になればいいんだもの。」
オージが事も無げに返す。兵士には子供の戯言に聞こえてるだろうな。この子は本当に大公になれちゃうんだけど。
「簡単じゃないぞ。大公様は凄い人なんだ。今の方だけじゃない。歴代ずっとだ。この国がもう200年戦争のない平和ないい国なのは、大公様一族のおかげなんだよ。君たちみたいに子供だけで街を出歩いて安全なのもね。」
兵士はそう言ってウィンクした後、話を切り上げ前を向いた。
「ふふ、だって。」
オージがこっそり耳打ちしてくる。その声が誇らしそうで、何だか凄く可愛かった。
「オージ。」
またしばらく街を散策した後、休憩で広場の真ん中にある噴水の縁に腰掛けていた。
その時にオージに話しかける。
オージが俺の声で少し顔をこちらを向けた。
「オージが誰も愛さないって決めた理由、何となく分かった。この国の人たちのためなのかなって。オージや、オージの家族がずっと守ってきた場所だもんね。」
オージが呪いを恐れるのは、死ぬのが怖いからじゃない。この国や人たちのことを大事にしているからで、それは凄いことだと思ったから。
「うん。僕はね、ずっとこの国のために生きたいと思っているんだ。みんなの事が好きだから。」
オージが静かに言う。傾き始めた西陽がその頬を照らしていて綺麗だ。
「でも、俺はやっぱりオージに寂しい思いはして欲しくないよ。偉そうな言い方かもしれないけど、そう思う人はきっと俺以外にもいっぱいいると思う。」
俺が続ければ、オージはじっと僕を見つめた。
「じゃあ、カナトが僕のそばにいてくれる?」
そう言って噴水の縁についていた俺の手に華奢で白い少女の手を重ねる。
淡い紫色の瞳が夕日と混ざって神秘的な色合いに見えた。
「僕はカナトを愛さないから、カナトも僕を愛さないで。でもずっと隣にいて欲しい。」
「えっ……」
俺は言葉に詰まってしまった。
そんな俺の顔を見て、オージが眉を下げて笑う。
「……なんてね、冗談だよ。ちゃんと、カナトのことは元の世界に帰してあげる。」
オージが茶化すように肩をすくめた。冗談、には全然聞こえなかったけど。
「俺、先のことは分からないけどオージのそばにいるよ。まだ出会って短いけど、オージのこと大切な友達だと思ってるんだ。出来ればもっと仲良くなって、親友になりたい。」
思わず口にしていた。親友になりたいとかわざわざ言うことじゃないかもしれないけど、そうなったらいいなと思ったから。
「ありがとう。そろそろ日も暮れるし、帰ろうか。」
オージが目を伏せて静かに言った。
帰り道はそんなに人が多くなかったけど俺から手を繋いでみた。
俺が手を繋ぐと、オージが思ったより強く握り返してきた。
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