完結R18BL/君を愛することはないと言われたので、悪役令息は親友になってみた

ナイトウ

文字の大きさ
上 下
23 / 60

23, 親友になりたい

しおりを挟む


朝食の後は、オージが街中を色々と案内してくれた。
市場の散策から始まって、街で一番大きな教会の見学、市民に開放している図書館や美術館、街の中心にある綺麗な公園なんかを巡った。
子供の姿だからレストランには入れなかったけど、お腹が空けば道にある屋台やスタンドで串焼きや焼き菓子を楽しんだ。
もちろんお金は全部オージの奢りだ。つくづく頭が上がらない。

公園で少しのんびり過ごした後、近くの城の前まで見学に行った。
城は西洋風の荘厳なもので、外観は緑をモチーフに装飾されていた。屋根は緑の銅葺きで、柱は緑の大理石だとオージが解説してくれる。

「エメラルドシティだ……。」

「ん?」

「あ、いや、何でもない。中はどんな感じなの?」

思わず呟いたのを誤魔化す。この世界のことはこの世界のことなんだから、あんまり別のものに似てる似てると騒ぐのもどうかなと思って。

「中も綺麗だよ。よく手入れされてるし、みんな大切に使ってくれるんだ。今度中を案内するよ。」

「ありがとう。楽しみにしてる。」

「ん、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんたちじゃお城には入れないよ。」

声に振り返れば、柵の前に立っている若い衛兵だった。
俺たちの会話を聞いていたんだろう。

「俺たちが、この城をしっかりと守ってるからね。関係ない人は入れないんだ。水をさしてごめんね。でも、お友達との約束を破らせても悪いだろう?」

兵士が言って肩をすくめる。

「あら、入れるわ。簡単よ。私が大公様になればいいんだもの。」

オージが事も無げに返す。兵士には子供の戯言に聞こえてるだろうな。この子は本当に大公になれちゃうんだけど。

「簡単じゃないぞ。大公様は凄い人なんだ。今の方だけじゃない。歴代ずっとだ。この国がもう200年戦争のない平和ないい国なのは、大公様一族のおかげなんだよ。君たちみたいに子供だけで街を出歩いて安全なのもね。」

兵士はそう言ってウィンクした後、話を切り上げ前を向いた。

「ふふ、だって。」

オージがこっそり耳打ちしてくる。その声が誇らしそうで、何だか凄く可愛かった。

「オージ。」

またしばらく街を散策した後、休憩で広場の真ん中にある噴水の縁に腰掛けていた。
その時にオージに話しかける。
オージが俺の声で少し顔をこちらを向けた。

「オージが誰も愛さないって決めた理由、何となく分かった。この国の人たちのためなのかなって。オージや、オージの家族がずっと守ってきた場所だもんね。」

オージが呪いを恐れるのは、死ぬのが怖いからじゃない。この国や人たちのことを大事にしているからで、それは凄いことだと思ったから。

「うん。僕はね、ずっとこの国のために生きたいと思っているんだ。みんなの事が好きだから。」

オージが静かに言う。傾き始めた西陽がその頬を照らしていて綺麗だ。

「でも、俺はやっぱりオージに寂しい思いはして欲しくないよ。偉そうな言い方かもしれないけど、そう思う人はきっと俺以外にもいっぱいいると思う。」

俺が続ければ、オージはじっと僕を見つめた。

「じゃあ、カナトが僕のそばにいてくれる?」

そう言って噴水の縁についていた俺の手に華奢で白い少女の手を重ねる。
淡い紫色の瞳が夕日と混ざって神秘的な色合いに見えた。

「僕はカナトを愛さないから、カナトも僕を愛さないで。でもずっと隣にいて欲しい。」

「えっ……」

俺は言葉に詰まってしまった。
そんな俺の顔を見て、オージが眉を下げて笑う。

「……なんてね、冗談だよ。ちゃんと、カナトのことは元の世界に帰してあげる。」

オージが茶化すように肩をすくめた。冗談、には全然聞こえなかったけど。

「俺、先のことは分からないけどオージのそばにいるよ。まだ出会って短いけど、オージのこと大切な友達だと思ってるんだ。出来ればもっと仲良くなって、親友になりたい。」

思わず口にしていた。親友になりたいとかわざわざ言うことじゃないかもしれないけど、そうなったらいいなと思ったから。

「ありがとう。そろそろ日も暮れるし、帰ろうか。」

オージが目を伏せて静かに言った。
帰り道はそんなに人が多くなかったけど俺から手を繋いでみた。
俺が手を繋ぐと、オージが思ったより強く握り返してきた。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...