完結R18BL/君を愛することはないと言われたので、悪役令息は親友になってみた

ナイトウ

文字の大きさ
上 下
21 / 60

21, 魔法の才能

しおりを挟む


「この靴下いいね。とても暖かいよ。ありがとう。」

オージがそう言って足に履いたガタガタの編み目でサイズも微妙に小さい毛糸の靴下を見つめた。
俺が編んであげたやつだ。

2人で朝食を食べた後オージは城に向かい、そう遅くない時間に帰ってきた。
それからオージの書斎で俺がオージに渡したプレゼントの感想会につき合っている。

「ちょっと小さかったみたいでごめん。作り直すから。」

長さ不足でかかと部分が変な位置にある様子を見て申し訳なくなる。

「何で?貰ったやつで十分だよ。僕も今度カナトに何か作るね。欲しいものはある?」

オージがニコニコしながら言った。

「ありがとう。でも俺は何もいらない。生活の面倒見てもらえるだけで十分だし。」

「そんな事は気にしなくていいんだよカナト。僕にも責任があることだから。」

「そんなわけには。生活費の分外で働きたいくらいなのに……」

「ごめん、ドロテオが街に出て働くのは難しいかも。」

「うん、無理だよな。分かってる。」

ヒモ生活は心苦しいけどオージを困らせたい訳ではない。
でも、がっかりしたのが伝わってしまったのかオージが励ますように言った。

「それと、明日休める事になったんだ。何かしたいことはある?」

したいこと、と言われて、パッと思いついたことがある。

「俺に魔法を教えて欲しい。」

「魔法か……」

オージが少し考え込む。

「本で少し勉強はしたよ。魔力が無いとダメなんだろう?その魔力が俺にあるかを見てからでいいから。」

「うん、分かった。ちょっと顔見せて貰っていい?」

ソファに横並びで座っていたから、オージの方に上半身を向ける。
オージが俺の顎をとらえて瞳の中を覗き込んできた。
わ、王子様の顎クイだ……。
なんてくだらないことを考える。
見つめられて目のやり場がない。

「うーん……」

しばらく見つめた後、オージが小さく唸った。

「やっぱり、俺には魔力が無いの?」

「無い……とも、有る……とも、言えないな。ごめん、よく分からないや。」

「そっか。」

「体はドロテオだから身体的に魔力を貯める事は出来るはずなんだけど、魂が違うと何か変わってくるのかもしれない。そのあたり、あまり僕には知識がなくて。」

「魔法とか、俺のいた世界では空想のものだからちょっと期待したんだけどな。」

「魔力は時間の経過で体に溜まるものだから、待っていたら溜まるかもしれない。」

「それに期待だな。」

魔法が使えるようになって、何かオージの役に立てたらいいな。

「あ……」

「どうかしたかい?」

「今まで忘れてたけど俺、勝手にオージの魔法の先生に連絡しちゃった。」

「え、ノルド先生のこと?」

「うん。オウムに頼んで、魔法を教えて下さいって。もちろん、俺がカナトだとは言ってないよ。ドロテオとしてお願いしたんだ。返事返ってこなかったけど。」

「それはイタズラだと思われたんじゃないかな。ドロテオはエスト家の出身だから魔法が使える事はノルド先生も知ってるはずだ。」

「あっ……」

そう言えば、エスト家が魔法を使える家系だって本に載ってるくらい有名なんだった。
あの時は藁にもすがる思いだったから思い出しもしなかったな。

「ごめんなさい。オージの先生に変な手紙送っちゃった。」

「大丈夫だよ。細かい事には無頓着な人だから。僕からも間違えて連絡したって謝っておくよ。」

「ありがとう。お願いします。」

なんか俺、オージがいない間余計なことしかしてないかも……。
落ち込んでいたら、オージが頭をポンポンしてくれた。
王子様の頭ポンポン……。俺が女だったらイチコロだな。

「オージ、ノルドさんってどんな人?」

「なぜそんな事を聞くの?」

何故って、ただオージと話すために話題にしただけなんだよな。

「えっと、オージに魔法を教えるほどならすごい魔法使いなのかなって。」

「そうだね。北の魔女のことは勉強したかい?」

「北方を統治してるすごい魔女だって。」

「うん。ノルド先生は、北の魔女の弟だよ。僕が大公に即位したばかりの時に北の魔女が力添えで派遣してくれて、一年ぐらい魔法を教わったんだ。」

ひぇ、そんな凄い人に気軽に魔法のレクチャーをオファーしていたのか俺は。

「そんな凄い人だとはつゆしらず、とんだご無礼を……。」

「今は僕の方が凄い魔法使いだから、気にしなくていいよ。」

にっこり笑う顔に、若干の圧がある。何か、対抗意識の強さを感じた。意外だ。
オージにとってノルド先生は師でありライバルみたいな感じなんだろうか。
ちょっと熱い展開だな。

そう思いながら、「僕の方が凄い魔法使いだからね」と念を押してくるオージにはいと頷いた。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...