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21, 魔法の才能

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「この靴下いいね。とても暖かいよ。ありがとう。」

オージがそう言って足に履いたガタガタの編み目でサイズも微妙に小さい毛糸の靴下を見つめた。
俺が編んであげたやつだ。

2人で朝食を食べた後オージは城に向かい、そう遅くない時間に帰ってきた。
それからオージの書斎で俺がオージに渡したプレゼントの感想会につき合っている。

「ちょっと小さかったみたいでごめん。作り直すから。」

長さ不足でかかと部分が変な位置にある様子を見て申し訳なくなる。

「何で?貰ったやつで十分だよ。僕も今度カナトに何か作るね。欲しいものはある?」

オージがニコニコしながら言った。

「ありがとう。でも俺は何もいらない。生活の面倒見てもらえるだけで十分だし。」

「そんな事は気にしなくていいんだよカナト。僕にも責任があることだから。」

「そんなわけには。生活費の分外で働きたいくらいなのに……」

「ごめん、ドロテオが街に出て働くのは難しいかも。」

「うん、無理だよな。分かってる。」

ヒモ生活は心苦しいけどオージを困らせたい訳ではない。
でも、がっかりしたのが伝わってしまったのかオージが励ますように言った。

「それと、明日休める事になったんだ。何かしたいことはある?」

したいこと、と言われて、パッと思いついたことがある。

「俺に魔法を教えて欲しい。」

「魔法か……」

オージが少し考え込む。

「本で少し勉強はしたよ。魔力が無いとダメなんだろう?その魔力が俺にあるかを見てからでいいから。」

「うん、分かった。ちょっと顔見せて貰っていい?」

ソファに横並びで座っていたから、オージの方に上半身を向ける。
オージが俺の顎をとらえて瞳の中を覗き込んできた。
わ、王子様の顎クイだ……。
なんてくだらないことを考える。
見つめられて目のやり場がない。

「うーん……」

しばらく見つめた後、オージが小さく唸った。

「やっぱり、俺には魔力が無いの?」

「無い……とも、有る……とも、言えないな。ごめん、よく分からないや。」

「そっか。」

「体はドロテオだから身体的に魔力を貯める事は出来るはずなんだけど、魂が違うと何か変わってくるのかもしれない。そのあたり、あまり僕には知識がなくて。」

「魔法とか、俺のいた世界では空想のものだからちょっと期待したんだけどな。」

「魔力は時間の経過で体に溜まるものだから、待っていたら溜まるかもしれない。」

「それに期待だな。」

魔法が使えるようになって、何かオージの役に立てたらいいな。

「あ……」

「どうかしたかい?」

「今まで忘れてたけど俺、勝手にオージの魔法の先生に連絡しちゃった。」

「え、ノルド先生のこと?」

「うん。オウムに頼んで、魔法を教えて下さいって。もちろん、俺がカナトだとは言ってないよ。ドロテオとしてお願いしたんだ。返事返ってこなかったけど。」

「それはイタズラだと思われたんじゃないかな。ドロテオはエスト家の出身だから魔法が使える事はノルド先生も知ってるはずだ。」

「あっ……」

そう言えば、エスト家が魔法を使える家系だって本に載ってるくらい有名なんだった。
あの時は藁にもすがる思いだったから思い出しもしなかったな。

「ごめんなさい。オージの先生に変な手紙送っちゃった。」

「大丈夫だよ。細かい事には無頓着な人だから。僕からも間違えて連絡したって謝っておくよ。」

「ありがとう。お願いします。」

なんか俺、オージがいない間余計なことしかしてないかも……。
落ち込んでいたら、オージが頭をポンポンしてくれた。
王子様の頭ポンポン……。俺が女だったらイチコロだな。

「オージ、ノルドさんってどんな人?」

「なぜそんな事を聞くの?」

何故って、ただオージと話すために話題にしただけなんだよな。

「えっと、オージに魔法を教えるほどならすごい魔法使いなのかなって。」

「そうだね。北の魔女のことは勉強したかい?」

「北方を統治してるすごい魔女だって。」

「うん。ノルド先生は、北の魔女の弟だよ。僕が大公に即位したばかりの時に北の魔女が力添えで派遣してくれて、一年ぐらい魔法を教わったんだ。」

ひぇ、そんな凄い人に気軽に魔法のレクチャーをオファーしていたのか俺は。

「そんな凄い人だとはつゆしらず、とんだご無礼を……。」

「今は僕の方が凄い魔法使いだから、気にしなくていいよ。」

にっこり笑う顔に、若干の圧がある。何か、対抗意識の強さを感じた。意外だ。
オージにとってノルド先生は師でありライバルみたいな感じなんだろうか。
ちょっと熱い展開だな。

そう思いながら、「僕の方が凄い魔法使いだからね」と念を押してくるオージにはいと頷いた。


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