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17, 避けられているかもしれない

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特に他にしたいこともないので、今日もトトの世話の傍らで魔法について勉強して過ごした。
夜になって、オージが帰ってくるのを書斎で待つ。

執事のラタさんの情報によるとオージは毎日空間移動の魔法でこの部屋に帰ってくるらしい。

随分と遅くなっても、オージが帰ってくる気配はない。
こっちの時計は地球と同じ12進法で読み方も似てるけど、時刻はすでに夜の11時を過ぎている。
今日も深夜まで仕事のようだ。

漆黒な会社で働く俺が言うのもあれだけど王様の仕事って中々ブラックだな。
なんか、この時間に帰ってきて俺の相手させるのは申し訳なくなってきた。世話になってるし一目会って労いたいたいというのも俺のわがままだよな。

このまま待っているか迷っていたら、書斎の床の一部がパァッと光って魔法陣が現れた。
見つめていると、そこにシュンッと人影が現れる。オージだった。

「オージ!」

俺の声にオージがこちらをみる。

「カナト、なんで……」

意外そうにこちらを見てくるオージに近寄る。

「ここ2日間会えなかったから、顔がみたくて待ってたんだ。あの、生活の面倒見てくれてありがとう。おかげで快適に暮らせてる。お仕事お疲れ様。じゃあ。」

それだけ言えて満足したので、仕事帰りに長々相手させるのは申し訳ないから部屋に戻ろうとした。
きびすを返したところで、ぐっと腕を掴まれた。

振り返ると、困惑した表情のオージがこちらを見つめている。

「参ったな。君とはこれ以上、話さない方が良いのに。」

「何の……」

縋るように腕を掴まれながらそんなことを言われて混乱する。真意を尋ねようとしたところでオージが何かをつぶやいた。
すると、急に眠気が襲ってきて俺はそのまま寝てしまった。

目が覚めたときにはもう朝で、自分のベッドにいた。その日もオージはすでに城に行った後だった。
朝食もそこそこに、部屋に戻ってまたベッドに寝転がる。
昨日のことを考えてしまって魔法の勉強もする気にならない。

最近オージがいないのは単に忙しいからだと思っていたけど、どうも俺を避ける意図もあるらしい。
何か避けられるようなことをしただろうか。
いや、確かに逃げた婚約者の代わりに現れてなんの役にも立たないのに衣食住の面倒をみる羽目になってるし、俺は厄介者でしかないけど。

「トト。」

呼べばクッションでくつろいでいたトトがぴょいとベッドに上ってきて俺の顔の脇に来た。
そのプラスチックの鼻面を指先でなでる。

「俺、何か避けられるようなことしたかな?」

聞いてみても相手は黒いまん丸な目でこちらを見つめるだけだ。
トトを犬にして貰った時までは、良い関係を築けてたと思うんだけどな。
その後何かした心当たりがない。

悩んでいるとノックの音が部屋に響いた。
返事をすればラタさんがカシャンと小さな金属音を立てて部屋に入ってくる。
大きなブリキの体にきっちりスーツを着て、まっすぐ立った。

「カナト様が今朝あまりご朝食を召し上がらなかったので、おなかが空いたときのために軽食をお持ちしました。」

ラタさんの左手には高級レストランで出てくるような丸い金属のカバーがかぶさったお皿が乗せられている。
ラタさんは当たり前のようにそれを室内のテーブルに置いた。

「ありがとうございます。」

「お礼には及びません。大公様からカナト様が不自由しないようにもてなすよう仰せつかってますから。昨日は退屈しないようにもっと娯楽を用意するよう言われました。気が利かなくて申し訳ございません。」

ラタさんがガショッと俺にお辞儀をする。

「あ、いや、全然。あの、ラタさんはオージと話できるんですね。」

「はい、夜にお戻りの後話しました。」

「俺が、話したいって言ってるって伝えてもらえませんか?お仕事で忙しいとは思うんですが。」

オージは俺に会いたくないのかもしれないけど、だとしたらせめて理由くらいは知りたい。俺が何かしたなら謝りたいし。
俺が言うと、ずっとポーカーフェイスだったラタさんの眉毛がくたっと下がった。

「あいにくですが、大公様はもうカナト様とお会いする気はないでしょう。」

「それは何でかラタさんは分かりますか?俺はオージと友達になりたいから、俺に直せるところがあるなら直します。」

そう聞けば、ラタさんはゆっくり首を振った。



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