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15, オージがいない

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犬になったトトとたっぷり遊んでぐっすり寝た翌日、朝食の場にオージはいなかった。
アンネさんに訪ねれば公務をしに城に行ったという。

そこで城という存在を初めて知ったけど、この屋敷とは別に街中にある庁舎みたいな場所らしい。
そこにオージや他の大臣、政務官なんかが務めてスマラルダスの国政を運営しているそうだ。

オージが今までずっと屋敷にいたのは、倒れた俺の面倒を看るためだったらしい。
つまり書斎での仕事は在宅ワークだったと。
俺の状況も落ち着いたしいよいよ行かないと済まない仕事が出て来たから、出社を始めたというところなんだろう。
本当に良い人過ぎる。オージが。

それに比べて今の俺はただの穀潰しの居候だ。
朝食を食べたら、トトにごはんをあげるくらいしかやることがない。
それだって用意してくれたのはミミさんで、俺がやるのは器をトトの前に置くだけ。

ぺそっと器を目の前に置けば、はぐはぐと美味しそうにトトがご飯にくいつく。
それをしゃがんで見つめたまま考えた。

まずいんじゃないか。これは。

「アンネさん、屋敷の掃除手伝わせて下さい。」

トトの器を台所に返した後、アンネさんに直談判する。

「カナト様、お気遣いは無用です。大公様にも、カナト様が好きにお過ごし頂けるように必要なことをするように仰せつかっております。」

「じゃあ、掃除する!俺トイレ掃除うまいんですよ?」

居酒屋バイトの時、散々酔っ払いのせいで悲惨なことになったトイレを磨き上げたからな。他のバイトに押し付けられて。

「無用にございます。」

「そんな、お願いしますアンネさん。ね?」

手を組んで上目遣いで訴える。

「んん……でしたら、庭から大公様の部屋に飾るお花を……」

「とってきます!」

食い気味に答えて、食後すぐに屋敷の庭園に向かった。

「オージの部屋に飾るお花を貰っていいですか?」

庭で植え込みを刈っていたスパヴェンタさんに話しかける。

「もちろん!大公様の好きなお花を教えてあげよう!」

スパヴェンタさんに剪定鋏を借りて、様々な花が植えられた花壇の前に立つ。
俺はスパヴェンタさんの指導を待った。

「……。」

「スパヴェンタさん?」

「ね、大公様って、どの花が好きだと思う?」

神妙な顔でこちらを見てくる。
至って真面目にポンコツな事を言い出したぞこいつ。

「はぁ?」

「思い起こせば、何を生けても喜ぶんだ。」

ヒョロヒョロの腕で頭を抱えている。

「じゃあ、全部好きって事では?」

「全部好きって何も好きじゃないってことにならないか?」

「はぁ?」

「なんて事だ。ここには一つも、大公様の特別がない。」

がっくりと肩を落とすカカシ。

「そんな事ないだろ。こんなに綺麗なんだから。じゃあ、適当にもってきますよ。」

俺は目につく花の茎を鋏で切っていく事にした。

「いや、ここにはきっと無い。悲しいことに……。そうだ!カナトが大公様の特別になればいい。」

「はぁ?」

スパヴェンタさんが明るく言い放つ言葉にまた呆れてしまう。

「二人は呪いで死んでしまうだろうけど、それで大公様が寂しくないならずっと寂しいよりはいいだろう?」

「いやいや、理屈がおかしいでしょ。」

「そうかな。」

スパヴェンタさんは本気で首を傾げている。

「俺は死にたくないですよ。オージもそうでしょ。」

「それもそうか。先代がそうだったから、君たちもそうなるのかと思った。」

「違うよ!」

そっかそっかと軽く言うスパヴェンタさんに若干腹を立てながら、花束を適当に作って書斎に持って行った。
花なんて生けたことないけど、色々試行錯誤して花瓶に飾りつけてみる。
ちょっと不恰好かもしれないな。
オージが帰ってきたら感想を聞いてみよう。

この後はどうしようかな。
そう考えながら室内をぐるりと見渡したら本棚に色々と書籍が並んでいるのが目に入った。

オージの書斎から出て自分の部屋に戻ると、ラグで寝ていたトトが駆け寄ってくる。

「トトの散歩も後で行こうな。」

軽く撫でてから、部屋の止まり木にいるオウムに話しかけた。

「ねぇ、魔法に関する本を借りる事はできる?初歩的なものを、何冊か。」

「オッケー!ケンサク二サンケンヒットシマシタ!」

部屋の机に本が三冊現れる。

「ありがとう。」

とりあえず1番上のやつから読んでみる事にした。

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