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8, オズの世界

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「あ、そうだ。これ、カナトのかい?」

オージが思い出したように座っているデスクの引き出しから手のひらに収まる小さなものを取り出した。
見れば、見覚えのある黒いテリー犬のマスコットがついたキーホルダーだ。

「あっ」

「やっぱり。カナトが倒れた時そばに落ちていたんだ。はい。どうぞ。」

手のひらに乗せられたそれをもう一度確認する。
大分くたびれて所々塗装が剥げたそれは、紛れもなく俺のトトだった。
気球に乗る時に、景色を見せてやろうと手に持っていたからこちらに持って来れたのかな。

「大事なものかい?」

俺がキーホルダーを見つめるのを見て、オージが尋ねてきた。

「小さい頃犬が飼いたかったんだけど、ペット禁止の借家だったから飼えなかったんだよね。それで、旅行先の土産物屋で母さんがこれ買ってくれた。」

「素敵なお母さんだね。」

「どうかな。でも思い出もある。」

だから、何となく持ち歩いていてたまに良い景色なんかがあると取り出して一緒にみる振りをしていた。癖みたいなものだ。

「そう。」

「トトって名前なんだ。丁度同じ頃父さんが買ってくれた本に出てきた犬の名前をつけた。」

オズの魔法使いに出てくる、ドロシーのペットのトト。
そういえば、この屋敷にもカカシやライオンやブリキ男がいるな。
何かオズの世界みたい。オージやドロテオの名前も何となく登場キャラクターに似てるし。

「ご両親に会いたいかい?」

ぼんやりとキーホルダーを見つめて考えているのを落ち込んでいると受け取ったのか、オージが気遣わしげに聞いてきた。
俺の現状に更に責任を感じてるんだろうか。

「いやいや、全然。母さんは散々俺に当たり散らした末病気で死んでるし、父さんにはやつが不倫相手と結婚するときに縁を切られてるから。全然会いたいとか無いです。」

「そう。」

オージはそれ以上何も言わなかった。
まて。俺知り合って間もない人にこんな重い話したらだめだろ。まずい。フォローしようとするあまり口が滑った。

「あの、俺の親は出来た大人じゃなかったかもしれないけど、俺が自立出来るまでは育ててくれたから気にしてない。だからオージも気にしないで。」

慌てて更にフォローしていたら、オージが立ち上がって俺の目の前に来た。
ドロテオの背丈よりもやや高い位置にある顔を見上げると、そっと白くて長い指で頬を撫でてくる。

「コンパ、みんなで一緒に楽しもうね。」

優しく微笑まれて、こくりと頷くしかできなかった。

オージの部屋を出てアンネさんに買い出しの許可が下りなかった事を伝えると、すでにそれを見越していたみたいでラタさんは屋敷を出た後だった。
2人とも長年屋敷に勤めていると聞くだけあってよくわかっている感じ。

せっかくだから空いた時間で余興を用意する事にした。
コンパといえば、そう、ビンゴだ。の……はず。新歓コンパでやったし。

「アンネさん、ビンゴって知ってますか?」

「ビンゴ?存じませんね。」

この世界には無いみたいだ。無いなら作るしかない。

「紙とペン、あと定規と針とハサミを借りても良いですか?」

アンネさんに道具をもらい、何人かのメイドさんに制作を手伝って貰うことにした。

「紙を掌くらいの正方形にハサミで切って、定規を使って5×5のマス目を書きます。そこに1-99の数字から25個バラバラに数字を選んでマス目の中に書いて……」

ビンゴ用の紙の作り方をふんふん聞いてくれるメイドさんたち。
猿だったり、布人形だったり、顔ぶれは様々だけど初めての作業に興味深そうに取り組んでくれた。

マス目に数字を書いたら、周りを針で開けた穴でアーチ状に囲ってビンゴした時に穴を開けやすくする。
手間だったけど、せっせと作業して人数分のビンゴ用紙の用意出来た。
あとは、小さい紙に引く用の数字を書いて小さく畳み、袋に入れれば完成だ。

本当は豪華景品が欲しいけど、これ以上オージに集る訳には行かない。そこは諦めよう。

手伝ってくれたメイドさんたちにお礼を言って、今度はキッチンに向かう。
アルボさんという木製人形のコックとキッチンメイドのミミがいた。

「カナト様!コンパ料理を教えてください!」

ミミが耳をパタパタさせながらぴょんと飛び跳ねる。
アンネさんにコンパで出す料理をどうするか聞かれたので、色々料理名を挙げたけどどれもこちらには無い料理だった。
だから、俺が教えると言ったのだ。


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