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5, 婚約破棄してくれ
しおりを挟む「あの、俺が言うのも変な話ですが、今からでもドロテオと婚約破棄をした方がいいんじゃないでしょうか。」
俺の言葉に、オズバルドさんが目を丸くする。
「だってオズバルドさんイケメンで性格もいいし、王様だし、魔法とか政治とかも実力ありそうだし、絶対もっといい相手見つかりますよ。」
「そうしたら、君は全く頼るあてがない国に送られる事になるよ。しかも、ドロテオの本国での事は話したとおりだ。相当肩身が狭いと思うけど。」
噛んで含めるように言ってくるのは、心配してくれてるからかな。
「あー。まあ、扱いが悪いのは慣れてると言いますか。まあ頑張ります。」
「そんな訳には行かないよ。元々僕がドロテオに求婚したりしなければカナトが巻き込まれる事もなかった。」
なるほど、それで責任を感じて良くしてくれるのか。
本当にいい人だな。
「オズバルドさんのせいじゃ無いですって。責任感じなくて大丈夫ですよ。」
安心させるようにへらっと笑いかければ、そうじゃなくてとオズバルドさんは俺の両肩を掴んできた。
「わっ」
「とにかく、僕はこの婚約を破棄するつもりはない。ドロテオの事も探してみるし、見つかればカナトを帰す方法も分かるはずなんだ。それまでドロテオとしてここにいてくれないか。」
真剣な顔で覗き込まれて、少し目が泳いでしまう。
「でも……。」
やっぱり、ドロテオはやめておいた方がいいんじゃないか。けど、ここまで言ってるのに口を出すのも良くない気もしてきた。
「これは僕にとってもやっと見つけた結婚のチャンスなんだ。僕は条件が良くないから。」
「いや、それはないでしょ。鏡見て言ってます?」
オズバルドさんのとんでもない発言に思わず返すと、ふっと笑われた。
「ありがとう。でも、トニトルス家にかけられた呪いのせいで、これまで相手が見つからなかったのは確かだからね。」
「呪い?」
「ああ。200年ぐらい前、僕の先祖がスマラルダスに圧政を敷いていた西の魔女を討伐して国王になった。その時に、死に際の魔女に強力な呪いをかけられたんだ。」
その呪いは、スマラルダス大公が愛し合った相手の命を蝕み殺してしまうらしい。そして、愛する相手を死なせてしまった絶望の中にいる本人も殺してしまうと。
だから歴代の王様は、誰かを愛して早死にするか誰も愛さずに生涯を終えるかのどちらかの運命だと言う。
「そんな事情があるから、誰もうちに嫁婿に来たがらなくて。」
「な、なるほど?」
魔法の国に、呪いをかけられた王様か。何だかファンタジー小説みたいだ。
「正直に話すとね、ドロテオなら好きにならずに済むだろうと思ったんだ。向こうも国外追放よりは僕のところに来た方が不自由がないだろうし、利害は一致するかなって。」
「事情はわかりました。」
「ここにいてくれるかい?」
甘えるように覗き込まれて、男でも可愛いなと思ってしまう。って、俺は何を考えているんだ。
「はい。元々オズバルドさんが決めていい事なので。よく知らずに口出ししてすみませんでした。」
「ありがとう。カナトの気持ちはすごい嬉しいよ。」
肩に置かれていた手が降りて俺の手をぎゅっと握って握手された。
距離が近くて照れ臭い。この世界ではこれが当たり前なのかな。
握られた手を見ていると、オズバルドさんがハッとした顔をして手を離した。
少し離れて、こちらを見てくる。
「そうしたら、この屋敷を案内するよ。好きに過ごしてくれていいから。」
オズバルドさんがそそくさと廊下を進むので大人しくそれに着いて行くことにする。
屋敷は広くて部屋がいくつもあるけど、自分の部屋、食堂、庭園、オズバルドさんの書斎、玄関の位置は覚えた。
屋敷には、食事の時に会ったラタさん以外にもオズバルドさんの魔法で動くものや動物が働いていた。
庭園の管理をしている庭師はカカシのスパヴェンタさん。陽気な人で、俺の部屋に飾ってあった花もスパヴェンタさんが育てたんだって。
門番はライオンのレオさんと言う。見た目はまんま猛獣で怖いけど、話してみると力強くて頼りになりそうだ。
他にも木や藁でできた人形のメイドや、動物のメイドがテキパキと働いている。
みんなオズバルドさんが小さい頃から一緒なんだそうだ。
オズバルドさんは今26歳だけど14歳でスマラルダス大公になったそうで、それは両親が呪いで死んでしまったかららしい。
とても仲が良い夫婦だったんだって。
オズバルドさんが誰も愛するつもりはないって言うのは、きっと両親と同じ道を進まないためなんだろう。
魔法で動かしている召使たちとずっと一人きり。何だか気の毒な気持ちになった。
「さて、一通り説明はしたから、あとは好きに過ごしてくれていい。僕は少し仕事があるから書斎に行くけど、何か要望があればそこのオウムに言ってくれたら大丈夫。」
「はい。ありがとうございます。」
「他に何かあるかい?」
「あ、あの!」
「ん?」
「ここにいる間俺の友達になってくれませんか?」
俺の言葉にオズワルドさんがまた目を丸くした。
「俺、地元が嫌になって東京、あ、俺が住んでた国の首都なんですけど、東京で就職して、そしたらとんでもないブラックで友達作る時間もなくて。」
「参ったな……。」
オズワルドさんが腕組みをして口を手で覆った。顔色から、動揺していることが分かる。
「やっぱ駄目ですよね。オズバルドさんは大公で、俺はただの庶民ですし。厚かましすぎました。」
「いや、駄目じゃないよ。ただ、僕はそういう人がいた事がないからどうしたらいいか分からなくて。」
オズバルドさんが困ったように笑う。何だかここで引いてはダメだと思った。
「俺が教えます!」
「そう。なら……頑張ってみる。よろしくね。」
少し考えた後、オズワルドさんが笑って手を差し出してきたので、その手を握って握手した。
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