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3, 俺の婚約者がいい人なんだが
しおりを挟む「それは僕も理解してるつもりだよ。この状況に、本当に心当たりはないんだね?」
オズバルドさんが尋ねる。
何だか意味ありげな言い方だけど分からないものは分からない。
「はい。俺本当、気付いたらここにいて、もう何が何やら……。」
俺がどんな顔をしていたか知らないが、オズバルドさんは少し真面目な顔でうんと頷いた。信じてくれたようだ。
その様子に少し安心する。
「どうも、ドロテオが魔法で君を異世界から召喚して魂だけ自分の体に入れてしまったらしいんだ。」
オズバルドさんが変わらず真面目な顔で告げた。
「は?ドロテオ?」
「その体の元の持ち主だよ。」
そう言ってオズバルドさんが指を振ると、封筒がその手の中に現れた。
中から手紙らしきものを出して俺に渡す。
文字はやっぱり日本語じゃないしアルファベットでも無いのに、俺はそれが読めた。
『拝啓
スマラルダス公国オズバルド・トニトルス大公
ごめんなさい!
私あなたと結婚するつもりないの!
私には愛する人がいて、その人と一緒に生きるために今までしたくもない悪事を働いてようやくブライト王太子との婚約を破断にしたの。だから代わりにあなたのとこに嫁ぐとか想定外です。
なので、私は逃げます。
あなたと相性が良さそうな人を用意するので、
どうかその人とお幸せに!
敬具
ウィンスラント王国 エスト伯三男 ドロテオ・エスト』
「なんですか?これ。」
読み終わって思わず怪訝な声を上げる。
「うん、僕も実はあまり彼の思考は理解できていなくて。」
小さくオズバルドさんは肩をすくめた。
この世界のことはよく分からないが、今のオズバルドさんの反応からドロテオという人間は俺の世界基準だけでなくこっちの世界でも非常識な人間らしい。
「えっと、このドロテオってやつがオズバルドさんと結婚したくなくて魔法で俺と入れ替わった?」
「それは、そうなんだろうね。」
「じゃあ、今はドロテオが俺の体に入ってるんでしょうか。」
そして愛する人とやらと駆け落ちしやがったのか?俺の体を乗っ取って、勝手に?
「可能性はある。ちょっと腑に落ちない所はあるけれど。」
俺には腑に落ちないことだらけだ。
「あの、オズバルドさんも魔法…?が、使えるんですよね。
それでどうにか戻せたり……。」
思いつきで聞けば、オズバルドさんは申し訳なさそうに首を振った。
「すまないが、他人の魔法に干渉するのは苦手なんだ。出来たとしても、せめて君がどこから来たのか分からなければ元の世界に戻す魔法を組みようがない。」
そうか。この世界の魔法は万能じゃないんだな。
ってことは、今の所すぐには帰れないか。
思わずため息が出てしまった。
「力になれなくてすまないね。まずは、ドロテオを探すのが良いと思うんだ。それなら僕もやりようがないわけではないよ。使った魔法が解析出来れば君を返す方法も見つかるだろうし。」
俺の様子を見て、慰めるようにオズバルドさんが声をかけてくれた。
え、めっちゃいい人なんだけど。仏様か何かか?
オズバルドさんは何も悪くないのに見ず知らずの俺の力になってくれようとしてる。
ドロテオよこの人との結婚の何が不満で逃げたんだよ!
見る目なさすぎるだろ!
と、思ってふと気付いた。
「失礼ですがオズバルドさんって男性ですよね?」
「そうだね。」
「じゃあ、ドロテオが女性?」
普通に見た目だけじゃ見えないけど、まさか。
「いや。ドロテオも男だよ。」
「男同士で結婚?」
「君の世界ではおかしいことなのかい?」
オズバルドさんがキョトンとした顔でこちらを見てきてちょっとびっくりする。
「まあ、あ、いや、最近はそうでもないですね。」
よくよく考えたらそうだ。けど、この世界の見た目的にあんまり同性婚って無さそうだったから。
でも、異世界のことを俺の知識の基準で考えちゃいけないか。
「なら同じだ。こちらの世界でもそうおかしなことじゃない。」
「なるほど。」
「ああ。」
「……。あの、今後ってどうなるんですかね?」
「今後?」
「いや、だって、俺多分しばらくはこのままだろうし……。」
良い人そうだし、追い出されたりはしないよな。
体はこの人の婚約者なんだし。
逃げちゃったけど、俺のせいじゃないって分かってもらえたみたいだし。
「ああ……こちらとしては、外交的な問題でしばらくはドロテオとして過ごしてもらえると助かるんだけど、いいかい?」
オズバルドさんは俺の心配事を理解したようで、優しく聞いてくれた。
「ぜんっぜん!むしろ是非お願いします!」
「じゃあ、君は僕の婚約者ってことで、色々とよろしくね。」
思わせぶりな瞳でじっと見つめられてギクっとする。
「へ?あ、そっか。えっと……あ、嫌ってわけじゃなくてですね……。」
嫌ではないけど、願ったりなんだけど、色々って、色々ってなに!?
「ふふっ、冗談だよ。」
オズバルドさんがイタズラっぽく笑う。
そうすると、少し幼く見えた。
そう言えばこの人いくつくらいなんだろう。
世代は俺と近そうだけど、顔立ちは白人そっくりなせいで馴染みがなくていまいち推測が難しい。
「なっ何だー。揶揄わないでくださいよ!」
「ごめんごめん。安心して。僕は誰を愛するつもりもないんだ。」
「へ?」
オズバルドさんがさらっと言った言葉を聞き返そうとしたとき、ぐぅっと俺の腹が鳴った。
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