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2, 目が覚めたら

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暗闇の中に母親の姿が浮かんで、これが現実じゃ無いと気づく。
俺の母親はもう生きていないから。

「神斗(かなと)もどうせ私を裏切るんでしょう。お父さんそっくりだもの。」

似てるのは顔だけだと思いたいけど。

母親の姿が掻き消えて、父親が現れる。

「ユリエが病気なのは分かったが、俺にはもう関係ない話だ。金が必要で連絡して来たのか?」

腐っても元夫だから見舞いくらいはするかなと思ったんだけど。

父親の姿が消えて、今度は上司に変わる。

「何で終わってないんだよ!今日要るのに使えねぇやつだな!」

聞いてないけど。あとこんな量終わるわけないから。

上司の姿も消えて、全くの暗闇に包まれる。
もう、何なんだよ。疲れた。体が重くて、吐き気がするくらい気持ち悪い。

「大丈夫?」

額に温かいものが触れた。
開かない目をどうにかうっすら開ければ、見覚えのあるどえらいイケメン。

「……。」

話しかけようとしても、声が掠れて出てこない。
口が小さくパクパクするだけだ。

「無理しないでいい。異界からこちらに引き込まれた魂には相当な負荷がかかるから。それは僕には治療が出来ないんだ。だからゆっくり休んで。」

頭を撫でられた。手のひらのぬくもりが暖かい。
さっきのあったかいのもこれだったのかな。
初対面の人が1番優しいって、俺の人生どうなってんだろ。

そんなことをぼんやり考えながら、また瞳を閉じて眠りについた。



次に目覚めた時はだいぶ気分がスッキリしていた。
そして、やっぱり俺は昔の洋館の一室みたいな所のお姫様が寝てそうなベッドにいる。
間違っても21平米の俺の部屋じゃない。

起き上がると、意識を失う前に着ていた服から白いパジャマに着替えていることがわかった。

「オメザメ!オメザメ!オキャクサマ!オズバルド!オズバールド!」

けたたましい鳴き声が突然耳に入って体が跳ねる。
心臓をバクバクさせながらそちらを見やれば、止り木に止まった鮮やかな色合いのオウムが、パイプのつながったラッパのような金属に向かって喋ったようだとわかった。

しばらくしてパタパタと足音が聞こえて来て扉が開く。
何度か見たイケメンが入って来た。
最初に見た軍服の正装みたいなのではなく、シャツにズボンの姿。シャツがフリフリで、昔の少女漫画みたいだけど。

「気分はどうだい?」

「あ、はい、大丈夫です。ご迷惑おかけしました。」

余りに自然に知るはずのない言葉を自分が話していて、思わず手で口を塞ぐ。

「あ、勝手で申し訳ないけど、会話ができるように魔法を掛けさせてもらったんだ。」

「ま、魔法……。あの、ここは地球ですよね……?」

「チキュウ?ごめんね。この世界に無い言葉は元の言語で聞こえるんだ。」

「つまり、ここはチキュウじゃない。」

「そうなるね。」

イケメンが困ったように笑った。

「……鏡、お借りできますか。」

訳が分からないことばかりだけど、気を失ってばかりもいられない。
今の状況を、出来るだけ理解しなくては。

「どうぞ。」

イケメンが指を振ると、部屋の棚かからふわりとメルヘンな手鏡が浮き上がってこちらに飛んできた。
柄を掴むと、すとっと重みが増して手の中に収まる。
チラリと写った自分の顔は、やっぱり俺の知らない男のものだった。
けど、何となく予想していたから案外動揺はない。

「あ、ありがとうございます。ええっと……」

そういえば、随分世話になってる人に名前も聞いてなかった。

「僕の名前はオズバルドだよ。」

「オズバルドさん。あの、色々ありがとうございます。俺は神斗って言います。贈田(ますだ)神斗です。すみません、混乱していてお礼が遅くなって……。」

お礼も言っていなかった事に気が付いて頭を下げれば、オズワルドさんは少し目を丸くした後に優雅に笑った。

「構わないよカナト。君は今何かと大変そうだ。今の状況を理解する方が先だろうね。」

この人、仕事出来そう。優しそうだし。

「あ、ありがとうございます。」

優しくされて、泣きそう。
不安な時に優しくされると何か泣けてくるよな。

「……あの、変なこと言うかもしれないですが、この人、俺じゃないんです。俺、多分違う世界から来ていて……。」

少し声が震えたけど、何とか落ち着いて話せた。


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