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「嫌なら遠慮なく断って」と言われたけどそうしたらネタバラシが始まりそうで、俺は何くわぬ顔でヒロのお泊まりの提案を受け入れた。

すると本当にヒロはホテルのフロントでチェックインして俺をエレベーターホールにエスコートした。

何だかよくわからなくなってきた。
ヒロは俺を揶揄うために今日誘ってきて、告白を俺が拒否ったらネタバラシして茶化すつもりだったんじゃないのか。
でも俺が想定外に受けちゃったから悪ノリで茶番を続行してる。

でも、だったら何でホテルの予約が?
いや、予約してたと見せかけてチェックインの場で部屋を取ったのかも。
けど、普通悪ふざけでそこまでする?

「ユノ?どうした?」

部屋に入ってもぐるぐると考えてしまって、棒立ちになってたようだ。
意識が帰ってくれば目に入る、ゆとりのある趣味のいいダブルベッドの部屋。

「い、いや、なんでも?うわーいい部屋だな!夜景キレー!」

ぎこちなく部屋の奥まで歩いて窓の外を覗いたら、ヒロが背後に立った。
距離を取る隙もなく後ろから抱きすくめられる。

「ひ、ヒロ!?」

「前言撤回。超ガッついてるから、焦らさないで。」

耳元で囁かれて、毒みたいに体に甘い痺れが走る。
い、今のは効いたぜ……

ヒロは痛いくらいにぎゅうぎゅうしがみついてきて、首筋に顔を埋めてきた。
絡みついている腕が動いて、お腹や腰を撫でてくる。

「んひっ……」

やばいやばいやばい。
何してくれんの俺あんたが好きなんだよ勃つじゃんバレんじゃん冗談て言い訳出来なくなるじゃんそっちがふざけてるの知っててノッたんだって言えなくなるじゃんガチ恋で引かれんじゃん!!

「わ、わかった!俺の負けです!もういいから!茶番終わり終わり!」

俺はとうとうギブアップした。
下らない下心でヒロとの関係を壊すわけにはいかないのだ。
だって、ヒロにとって俺は数少ない友達なんだから。

「っぷははは!あー、やっとギブした。俺の勝ちね。悪戯にかかったお金出して。」



ハグを解いてそう言ってくれると思った。
けど、動きは止まったもののヒロが離れていく気配はない。

「……どういう意味?」

俺を背後から抱きしめたまま静かに尋ねてきた。

「だから、お前の悪戯は成功だって言ってんの。みんなに言いふらしてもいいけど、ほどほどにしといてよ。」

きっと今日の俺の無様な振る舞いがコンパとかで女の子に話すネタになるんだろう。
まあ俺並みにぞっこんになるとヒロに話題にされるだけでアガるわけですがね。

出来るだけ軽いノリで告げて、さりげなく肘を張ってヒロの腕を振り解こうとする。
でもすぐにまた上腕ごと抱きしめ直され、逃げられなかった。

「……悪戯?」

「だって渡してもないバレンタインデーのお返しとか。狼狽える俺で遊びたかったんだろ?こんな部屋まで用意するとか金の使い方間違ってるって。」

みなまで言わせるなよ悲しいから。
再度離れようと体を動かしても自由にならず、代わりに肩を掴まれてぐるりと反転させられた。
ヒロと向き合わさせられ、肩を掴まれて顔を覗き込まれる。

やめろよ。今顔見れないよ。何か不毛な恋してる自分が情けなくて泣けてくんだもん。

「渡して……ない?ひょっとしてユノ、俺にチョコ渡したこと後悔してるの?俺がすぐに返事しなかったから、やっぱいいやってなった?それならマジで謝るから、チャンス欲しい。バレンタインに告白されたんだから返事は今日しかないって我慢しただけで、俺だってすぐ返事したくて仕方なかったよ。」

な、なんだ?演技続いてる?終わらないぞ?なんで?

「だから、下手な芝居はいいって。流石に普段と態度違いすぎて嘘だってバレバレだし。それに俺、お前と中学一緒だったやつに聞いたよ。お前バレンタインの日に友達の男にふざけてチョコ渡して、反応見て笑ってたって。俺のことも揶揄いたかったんだろ?」

「違う、違うんだ。ちゃんと説明するから。だから、ユノもちゃんと言って。」

必死な様子がどうにも演技に見えなくて困る。けど、渡してないものはない。

「渡してないよ。マジで。」

俺は覚悟して、そらしていた目をまっすぐヒロに向けて言った。
完全に俺の好みど真ん中な顔が、驚きのような失望のような表情を浮かべる。

「じゃ、じゃあこれは?」

ヒロはポケットに入れていたスマホを取り出し、軽く操作をすると画面をこちらに見せてきた。

「あ……」

そこにはバレンタインの日に俺が勝手に物色したあの高級チョコの外袋と箱が丁寧に並べられて画面に収まっている。

「それ、ヒロがいない時に女が置いてったやつ。勝手に漁って悪かったよ。でも中に差出人の名前とかメッセージとかあったろ?」

「なかったよ、何も。だから、ユノからだとばっかり……」

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