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しおりを挟む次の日、私は特別授業のためアルと書斎に籠った。
日中はアルの本能も少し落ち着くようだ。
「さて、遅くなったがお前の出自について教えよう。他言は無用だ。」
そうして、私は18年前のことを話した。
アルはそれを静かに聞いていた。
「辛いだろうと思い今まで話さなかった。しかし、アルも淫魔としての本能に目覚めるくらいにはもう成熟したのだから、知っておいた方がよいだろう。」
「はい。」
「お前から父と母を奪った私を恨むか?」
「ううん、俺が父さんだったら同じ事してたと思う。」
そう健気に言われて内心ほっとした。事実を知ったアルに嫌われることも覚悟していたからだ。
「そうか。感謝する。」
「それで、俺は淫魔だからこれからも昨夜みたいになるって事なんだね?」
「そうだ。しかし案ずることはない。お前は相手選びには困らないくらい魅力的だし、何人孕ませても今の私には金も権力もある。処理できよう。その為に今の地位を得たのだ。存分に振る舞うがよい。それにあたり、これからこのテキストで男女の営みについて説明しよう。」
私は書庫から引っ張り出してきた『パパとママが大事な子に伝える性の話』という書物をアルに見せた。
「あ、それはいいよ。もう何となく分かってるんだ。昨日はびっくりしてあんな反応しちゃったけど。」
そうか。やはり本能ですべきことを理解しているのだな。
「ならば良い。」
私は持っていた本を脇に置いた。
「それで、相手の事だけど、誰でもいいんだよね?」
「もちろんだ。お前の気に入る女を用意しよう。」
「それって、男でもいい?」
アルの言葉にようやく合点がいった。屋敷に抱きたい女はいないと言っていたのはそういう事か。
知っていれば雇う男をもう少し厳選していたのに。
「全く構わない。今雇っている者が気に入らなければ入れ替えよう。」
「それは平気。みんなしっかり仕事してくれる人だから、クビにしちゃダメだよ。俺、ルーデリヒがいればいいから。」
「む?」
対面にいたアルが椅子を持ち上げて私のすぐ隣に動かし、座った。
そして両手で私の手を握りしめる。
「俺、好きな人としか愛の営みはしたくないよ。それに、するならきちんと心を通じ合わせてからしたい。」
私の手を持ち上げ、指先に恭しくキスをするアル。
「ルーデリヒ、あなたを愛しています。どうか俺を愛してください。」
熱のある瞳でそう真摯に伝えてくる。
その姿は完璧な貴公子だ。私が育てたとおりの。
「うむ、よかろう。」
私は受け入れた。
どうやら昨日の発言は本気だったようだ。
ならば是非もない。
なにも私を選ばなくても、とは思うが背に腹はかえられぬ。
これで問題は解決だ。
「では、早速本能に従い私を抱くがよい。」
私はさっとアルに向かって両手を広げた。
「抱きしめていい?」
「かまわぬ。」
返せばアルがそっと近づいてきて正面から抱きしめてきた。
自分のではない速い鼓動の音が聞こえてきて、昨日感じた胸のザワザワがまた起きている事に気付く。
「アル、褥に行くか?」
ひっついたままいつまでも動かないので、こちらから促してみる。
「……俺、ルーデリヒより全然未熟で人生の経験も少ないけど、流石に今貴方が俺を仕方なく受け入れたことくらい分かるよ。」
静かに言うアルの言葉の真意が分からない。
「それが何か問題か?私は良いと言っている。」
「俺言ったよね?するならちゃんと心を通わせたいって。」
アルが少し体を離し、私の頬にキスをした。
「だから、するのはルーデリヒがちゃんと俺を好きになってからね。それまでは俺、我慢するから。」
「それはアルの体に悪い。」
「じゃあ早く俺を好きになって。俺が甘えん坊じゃなくて本気で言ってるって、今のやり方なら伝わったんだよね?これからもいっぱいルーデリヒに好きって伝えるから。」
真っ直ぐに私の目を見て言うアルに、私の胸のざわつきは更に増したのだった。
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