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第3章 学園編
24 気遣い
しおりを挟む「ルコ……」
少し甘さのある声に呼ばれて目を開けると、目の前にユーリスがいる。
黄緑と薄灰が混ざったチタナイトの瞳を細めてこちらを見ていた。
「ユーリス様!」
思わず目の前の体に飛びつくと、嗅ぎ慣れた愛しい匂いがしてもっと顔を擦り付けた。
頬に手を添えられて顔を離すと、額にちゅっとキスが降ってくる。
「ルコ、ごめんな。僕絶対に……」
言葉の途中で音が遠くなって視界が暗くなる。
「まって!!」
手を伸ばしたところで目が覚めた。
目の前にユーリスはいなくて、二段ベッド上段の底板だけが視界に入る。
はぁっ、と短く息を吐いた。
「あ、起きた。おはよー!」
声につられてベッドサイドに目をやると、逆さまになったミレーユの顔がベッドの上段から突き出ている。
その奥には床に座ってメサイアと戯れているルドルスと、机で読書をするジキスが見えた。
「あれ……俺……」
まだぼやけた思考を必死に働かせて考える。
「ルコ授業中貧血でぶっ倒れたんだって。最近調子悪そうだったもんね。心配したよぉ。」
「……申し訳ありません。皆さんが運んでくださったんですか?」
「んーん。俺はルディに呼ばれて来ただけ。ジキスも心配してついて来た。」
「私が心配したのはそいつの容体じゃなくて、貴様がバージニスタス様に無礼を働かないかだ。平民の分際で高貴な方を馴れ馴れしく呼ぶな。」
ジキスが振り向いて上段のミレーユを睨みつける。
「ルディはいいって言ったもん。ねー、ルディ。」
「愚かな人間のする事なんてどうでもいい。」
小さいブラシでメサイアをグルーミングしながらルドルスが言う。
メサイアは気持ちよさそうに仰向けでそれを堪能していた。
「ほらね?」
「全然ニュアンスが違うだろこれは!」
「あはは……」
いつものコントを始めた2人が可笑しくてつい声が出る。
そのまま体を起こすと疲れの溜まっていた体がびっくりするくらい回復していた。
こんな経験を、前にもしたことがある。
「まだ寝ているべきじゃないか。体調管理もろくにできない奴がアシスタントなど迷惑極まりない。」
「申し訳ありません。しかし、もう大丈夫です。ルドルス様、私を運んでくださったのはどなたかご存知ですか?」
「僕ではない。いうなと言われてるが、心当たりくらいはあるだろう。」
俺が大丈夫そうな事を確認したからか、ルドルスはメサイアをポケットに入れて立ち上がった。
ジキスもツンとした顔でそれに習う。
その言い方に、予想が確信に変わって胸が高鳴った。
疲労が回復しているのはきっとノスニキのおかげだろう。
ルドルスに後を頼める人間もそうそういない。
何より、あの匂いは絶対夢じゃなかった。
ユーリスが俺を気にかけてくれて嬉しい。
けど、今ここに彼がいないのも事実だった。
それが同じくらい切ない。
「あの、皆さま本当にありがとうございました。ご迷惑おかけして申し訳ありません。」
部屋を去ろうとする3人に、ドアまで見送って改めてお礼と詫びを伝える。
俺を見て少し視線を彷徨わせたミレーユの首から、スルリとレイラが身を伸ばしてきた。
その様子に、試しに手を伸ばしてみるとするすると腕に巻き付いてくる。
繊細な動きに労わるような優しさを感じて、頭を撫でて感謝の気持ちを伝えた。
「あのさ、俺、レイラを可愛がってくれる人はみんな大好きなんだよね。」
ミレーユが案外照れ臭そうに言う。
「だからさ、本当心配してるんだよ。心配しかできないかもしれないけど。」
「いや……ごめん。」
「謝んなって。」
困ったように笑われて、俺も同じように笑い返すしか出来なかった。
みんなが去って一人この部屋に残ると、中途半端な自分に嫌でも気付かされる。
ユーリスを好きなくせにちゃんと向き合えないことも、守護獣を学ぶためにここに来たのにそれを逃げ道にしてしまっていることも。
こんな自分のままじゃ、送り出してくれた公爵や屋敷のみんなにも、ミレーユ達にも、ユーリスにも、何より自分に胸を張れない。
「よし。」
顔を上げて気合いを入れたあと、扉を開けて歩き出した。
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↓めちゃくちゃ世話になっている
B L ♂ U N I O N
B L ♂ U N I O N
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