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第3章 学園編

18 嫉妬

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「何か顔色悪くない?大丈夫?」

平日の最終日、教授に頼まれて教室で次の授業の教材を用意していたらミレーユに声をかけられた。

「そうか?別になんともないけど。」

「でも、最近朝も早くきてるみたいだし、夜も遅くまでいるよね?何でそんなに真面目なの?ひょっとして中央狙い?」

ミレーユの言う中央研究所ってのは、王直属の国で一番権威がある学術機関、らしい。
所属学者の中には守護獣研究者もいると聞いた。
話を聞く限りでは守護獣を持つものにとって、王立軍に入る以外では一番の出世コースという印象だ。

「別にそういうわけでは……」

「無理に決まってる。ここに来て1週間経つのにアシスタントや書庫の整理ばかりやって教授のご機嫌取りしかしてないやつが。」

横から久々にジキスの声を聞いた。

「そんなつもりはございません。」

ノートに目を落としてこちらを見もしない横顔に返す。

「ジーちゃんルコのことよく見てるぅ~」

「なっ、それしかしてなきゃ嫌でも目に入る!その呼び方やめろ!」

ミレーユのからかいには秒で反論。
煽り耐性は相変わらずないみたいだ。

「ずるい~俺の事ももっと見て~。」

「黙れっ!だれが……」

その時教室に学園の召使いが紙の束を抱えてきた。

「今週のレポートをお持ちしました。」


~・~・~


その日は早めに自室に帰り、レポートのチェックに取り掛かかる。
100を超えるレポートの束は中々圧巻だ。
まずは1年生のレポートからざっと目を通す。
基礎がおろそかなレポートも多いけど、個性が見えてなかなか面白い。
続けて2年生のレポートは、学園の講義で教わった型にはまった通りのものが目立った。
もちろん中には下見の時からなかなか良い育成をしていそうな生徒もいて、そういう奴のレポートはだいぶマシだ。
よし、と気合を入れて自分のノートを取り出し、最初のレポートを書いた生徒の名前を探した。

作業しているうちに夜が明けて、鐘が朝7時を告げるのを聞いて手を止める。
徹夜したおかげでレポートは半数以上添削できていた。
残りは今日と明日の夜にやれば終わるだろう。

週末はユーリスが公爵の屋敷に帰るはずだから、お供で俺も帰る必要があった。
学園ではすっかり距離を置かれてしまって話す事もなくなってしまったが、それでも俺はユーリスの執事だ。
里帰りには同行するし、屋敷にいる間は執事の仕事をするのが当然だろう。
久々に一緒に過ごせると思うと気持ちが弾んだ。

身支度を整えて足早にユーリスの部屋に向かう。
丁度朝食が運ばれるところで、給仕係に食後に会いたいことを伝えて外で待つ。
ユーリスは結構早食いなので、そう待たずに中に呼ばれた。

中に入ると、学園が用意した専属のフットマンがユーリスの横に控えているのが目に付く。
気にしない振りをしてユーリスに礼をした。

「おはようございます坊っちゃま。屋敷へ出発するのは8時ごろでよろしいでしょうか。」

「ああ、今週は帰らないから。ルコも寮でゆっくりしてなよ。」

「……さようでございますか。」

「うん。週末は当面帰らないでノスの訓練をしようと思うんだ。」

「では、訓練をお手伝いいたします。」

「必要ない。自分でできるよ。マシュー、紅茶くれないか。」

ユーリスがフットマンに命じると、マシューと呼ばれた男が当然のようにカップに紅茶を注いで運んだ。
それに、はっきりとした胸のムカつきを覚える。

「かしこまりました。失礼いたします。」

これ以上いたら苛立ちが態度に出てしまいそうで、諦めて部屋を去ることにした。
そこに、室内にいなかったノスニキがするりと壁を抜けて入ってくる。
黒い瞳が俺を見て鼻をピスピス鳴らした。
しゃがんで黒銀の頭を撫でて耳の裏をかいてやると、気持ちよさそうに目を細める。
ノスニキはじっとこちらの顔を見つめた後、首を伸ばしてペロっと俺の口の周りを舐めた。
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