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第3章 学園編
13 ネイア
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棟を飛び出した後は、厩舎に向かった。
寮に戻れば同じ部屋だから自室に閉じこもったって気になってしまう。
厩舎で守護獣を見ていれば、ユーリスに拒絶されたショックを紛らわせる事ができると思った。
深夜まで時間を潰して、ユーリスが寝た後に戻ってすぐ寝てしまおう。
幸いランプの油もまだ保ちそうだ。
厩舎に入り廊下を歩いていると、小動物が威嚇するような唸り声が微かに聞こえてきた。
気になって音の元を探せば一つの守護獣の小屋の前で黒銀の獣が廊下から小屋の中を覗き込んでいる。
「ノスガルデルタ様?」
声を掛けるとノスニキがこちらを向いて挨拶のようにシッポをパタパタ振った。
こんなに自由に学園を歩き回っている獣はこいつくらいだろう。
ノスニキが足を止めている小屋の中は、空だと思いきや子鹿が1頭黒い鼻面を睨みつけている。
ノスニキがその子鹿がいる小屋の格子をすり抜けて中に首を突っ込むと、その小さな獣は果敢にも前足で飛びかかろうとした。
さっとノスニキが避ければ前足は空振りして地面に落ち、子鹿が悔しそうに迫力ない声で唸りながら足をふみ鳴らす。
ノスニキが馬鹿にしたようにフシュっと鼻息を吐くと、された相手は苛立ったようにクルクルと小さな円を書いて歩き回った。
意地が悪い狼犬はその様子を見て満足げだ。
最近ユーリスに対して従順になったと思ったら、他所の守護獣をおちょくるのを覚え出したんだろうか。
確かに、ちょっとこの子鹿のムキになり方は子供の頃のユーリスを思い出させるけど……。
ふと持ち主を知りたくなってネームプレートにランプをかざす。
そこには、主人としてさっき走り去ったジキスの名前が刻まれていた。
名前はネイアというようだ。
この子、ジキスの守護獣か。
何故小型なのに小屋に入れられているんだろうか。
「あれー。ルコ?」
横から軽薄な声が聞こえてきた。
声のする方を見ると、暗い通路からランプも無しにミレーユが現れる。
危なげない足取りで近づいてくると、顔がはっきり見えて違和感に気付いた。
昼間見た時は茶色だった虹彩が、今は金に光り瞳孔が縦に鋭く伸びている。
蛇の目そのものだ。
「その目……シンクロか?」
ゲームでもシンクロというコマンドで守護獣の身体能力をその主人が使えるという設定があった。
カメレオンに進化させると主人公も透明になる力を持てて、育成パートのイベントでそのコマンドを使えば特殊な強化アイテムを手に入れられるとかそんな感じ。
進化によって手に入るアイテムが違うのも育成に個性が出てプレーヤーに評価された要素だった。
「そうだよー。結構上手でしょ?俺レイラの夜の見え方好きなんだぁ。だからお散歩中。」
この世界ではゲームと違って小型の守護獣ほどシンクロしやすい傾向があるはずだけど、それでも視覚を完全に使えるというのは珍しいんじゃないか。屋敷の蔵書で読んだ限りではそこまで高度なシンクロ例は無かったはずだ。
まともに使えるようになるにもそれなりの訓練がいるし、強力な大型獣ほど難易度が高くなる。ゲームほど気軽な能力じゃないってことだ。
実際に、ユーリスや公爵はシンクロを使わない。
ノスニキは狼犬形態の方が維持しやすいみたいだからアッシュタールよりはシンクロしやすそうだけど。
まあ子犬の時ですら練習してもできなかったくらいだから相性が悪いんだろう。
「どしたの?何かあった?」
興味深くミレーユの目を見つめているとそう問われた。
「え?」
「目のあたりが熱くなってる。泣いてた?」
「何でもない。」
「……ジキスと何かあったとか?」
まだノスニキを威嚇しているネイアをチラッと見やったミレーユが更に尋ねてくる。
「違う。ここにいたのは偶々だ。ノスガルデルタ様が、この子と仲良くしたがってるのを見つけたから。」
ネイアがはぁ?という顔でこちらを見た。
「そ。何かまだ帰ってこないんだよね。勉強してんのかな?」
「さっき戻ったよ。」
「なんだ。一緒にはいたんだ。」
「ああ。俺、在学中のユーリス様の従者も兼ねてるから終業に合わせて戻らなきゃいけなかったんだけど、遅くなった上にのんびりジキスと話し込んでたのがバレて、ユーリス様に怒られた。」
「えーそんなこと?心配して損した。」
ミレーユが呆れたように肩をすくめた。
俺も苦笑する。
本当、そんなことで終わらせとけばよかった。
ズンとまた心が重くなるのに耐える。
「だから、何でもないって言っただろ?心配してくれたのはありがとう。」
「レイラちゃんのファンは大切にしないとね。で、ジキスとは何話してたの?また意地の悪いこと言われた?」
「いや、書庫の使い方について意見が食い違って。」
「げーっ。真面目くん同士の会話過ぎて理解できない。」
「教授に俺の提案試してもらえないか頼んでみようかと。俺が正しかったらあいつ、負けたお詫びに何でもするって。」
「何その面白いの!そのペナルティ俺が決めたいっ!」
「じゃあ手伝えよな。」
「それはそれ。」
「ふざけんな。」
しばらくくだらない話をして、ミレーユは帰った。俺がまだ厩舎に居たがるのを不思議そうにしていたけど、夜行性の獣の観察のためと言い訳して別れた。
寮に戻れば同じ部屋だから自室に閉じこもったって気になってしまう。
厩舎で守護獣を見ていれば、ユーリスに拒絶されたショックを紛らわせる事ができると思った。
深夜まで時間を潰して、ユーリスが寝た後に戻ってすぐ寝てしまおう。
幸いランプの油もまだ保ちそうだ。
厩舎に入り廊下を歩いていると、小動物が威嚇するような唸り声が微かに聞こえてきた。
気になって音の元を探せば一つの守護獣の小屋の前で黒銀の獣が廊下から小屋の中を覗き込んでいる。
「ノスガルデルタ様?」
声を掛けるとノスニキがこちらを向いて挨拶のようにシッポをパタパタ振った。
こんなに自由に学園を歩き回っている獣はこいつくらいだろう。
ノスニキが足を止めている小屋の中は、空だと思いきや子鹿が1頭黒い鼻面を睨みつけている。
ノスニキがその子鹿がいる小屋の格子をすり抜けて中に首を突っ込むと、その小さな獣は果敢にも前足で飛びかかろうとした。
さっとノスニキが避ければ前足は空振りして地面に落ち、子鹿が悔しそうに迫力ない声で唸りながら足をふみ鳴らす。
ノスニキが馬鹿にしたようにフシュっと鼻息を吐くと、された相手は苛立ったようにクルクルと小さな円を書いて歩き回った。
意地が悪い狼犬はその様子を見て満足げだ。
最近ユーリスに対して従順になったと思ったら、他所の守護獣をおちょくるのを覚え出したんだろうか。
確かに、ちょっとこの子鹿のムキになり方は子供の頃のユーリスを思い出させるけど……。
ふと持ち主を知りたくなってネームプレートにランプをかざす。
そこには、主人としてさっき走り去ったジキスの名前が刻まれていた。
名前はネイアというようだ。
この子、ジキスの守護獣か。
何故小型なのに小屋に入れられているんだろうか。
「あれー。ルコ?」
横から軽薄な声が聞こえてきた。
声のする方を見ると、暗い通路からランプも無しにミレーユが現れる。
危なげない足取りで近づいてくると、顔がはっきり見えて違和感に気付いた。
昼間見た時は茶色だった虹彩が、今は金に光り瞳孔が縦に鋭く伸びている。
蛇の目そのものだ。
「その目……シンクロか?」
ゲームでもシンクロというコマンドで守護獣の身体能力をその主人が使えるという設定があった。
カメレオンに進化させると主人公も透明になる力を持てて、育成パートのイベントでそのコマンドを使えば特殊な強化アイテムを手に入れられるとかそんな感じ。
進化によって手に入るアイテムが違うのも育成に個性が出てプレーヤーに評価された要素だった。
「そうだよー。結構上手でしょ?俺レイラの夜の見え方好きなんだぁ。だからお散歩中。」
この世界ではゲームと違って小型の守護獣ほどシンクロしやすい傾向があるはずだけど、それでも視覚を完全に使えるというのは珍しいんじゃないか。屋敷の蔵書で読んだ限りではそこまで高度なシンクロ例は無かったはずだ。
まともに使えるようになるにもそれなりの訓練がいるし、強力な大型獣ほど難易度が高くなる。ゲームほど気軽な能力じゃないってことだ。
実際に、ユーリスや公爵はシンクロを使わない。
ノスニキは狼犬形態の方が維持しやすいみたいだからアッシュタールよりはシンクロしやすそうだけど。
まあ子犬の時ですら練習してもできなかったくらいだから相性が悪いんだろう。
「どしたの?何かあった?」
興味深くミレーユの目を見つめているとそう問われた。
「え?」
「目のあたりが熱くなってる。泣いてた?」
「何でもない。」
「……ジキスと何かあったとか?」
まだノスニキを威嚇しているネイアをチラッと見やったミレーユが更に尋ねてくる。
「違う。ここにいたのは偶々だ。ノスガルデルタ様が、この子と仲良くしたがってるのを見つけたから。」
ネイアがはぁ?という顔でこちらを見た。
「そ。何かまだ帰ってこないんだよね。勉強してんのかな?」
「さっき戻ったよ。」
「なんだ。一緒にはいたんだ。」
「ああ。俺、在学中のユーリス様の従者も兼ねてるから終業に合わせて戻らなきゃいけなかったんだけど、遅くなった上にのんびりジキスと話し込んでたのがバレて、ユーリス様に怒られた。」
「えーそんなこと?心配して損した。」
ミレーユが呆れたように肩をすくめた。
俺も苦笑する。
本当、そんなことで終わらせとけばよかった。
ズンとまた心が重くなるのに耐える。
「だから、何でもないって言っただろ?心配してくれたのはありがとう。」
「レイラちゃんのファンは大切にしないとね。で、ジキスとは何話してたの?また意地の悪いこと言われた?」
「いや、書庫の使い方について意見が食い違って。」
「げーっ。真面目くん同士の会話過ぎて理解できない。」
「教授に俺の提案試してもらえないか頼んでみようかと。俺が正しかったらあいつ、負けたお詫びに何でもするって。」
「何その面白いの!そのペナルティ俺が決めたいっ!」
「じゃあ手伝えよな。」
「それはそれ。」
「ふざけんな。」
しばらくくだらない話をして、ミレーユは帰った。俺がまだ厩舎に居たがるのを不思議そうにしていたけど、夜行性の獣の観察のためと言い訳して別れた。
15
↓めちゃくちゃ世話になっている
B L ♂ U N I O N
B L ♂ U N I O N
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