【R18/長編】↜(  • ω•)Ψ←おばか悪魔はドS退魔師の溺愛に気付かない

ナイトウ

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29, 【番外】憧れの天使3

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アリアスやラムールと過ごすシャルドーレの日々は、ユジンにとってそれまでにない安定感を感じるものだった。

退魔術にかかる知識を学び、唯一怨霊や魔物を退ける手段である清めた剣で本体を八つ裂きにする剣術の稽古をする。
並行して教会運営のいろはを実地で教わる他は聖職者として清貧に努める。
それだけだったが日々はユジンに心地よく数年はあっという間に過ぎていった。

教会の地下書庫に膨大な文献があり、勉学はそれを自習するのが基本だった。中には異教の経典や焚書のようなものまであり、大学では学べない知識の宝庫だったからユジンは時間があれば入り浸って読み漁った。

たまに悪魔について疑問があればアリアスに聞くが感覚的な話ばかりであまり役に立たない。
何故そんな調子でここまでの蔵書があるのかと聞いたら、枢機卿になった祝いにルパルドから貰ったものだと答えた。
父が読んだかもしれない書物を、ユジンはますます熱心に学んだ。

剣の稽古は動けないアリアスの代わりにラムールに教わった。
ラムールの動きは現役時代のアリアスを完全に再現しているとアリアスは言っていて、それが真実ならあの華奢な骨格でどうやってそんな牛みたいな重量の剣筋になるのかとユジンは不思議で仕方がなかった。

最初は歓迎されていないと感じるラムールの態度だったが、日々を過ごしてみれば大半がただの無愛想だと分かった。
本当に機嫌が悪くなる時はアリアスがユジンを過剰に構うような時で、アリアスに褒められたり労われたりした後は終日機嫌が良いようなそんな単純なだけの男だった。

「ユジン、悪魔退治は退魔師の受ける加護と剣術次第と思われていますが実は一に情報収集、ニに情報収集です。悪魔たちには必ず心奪われる何かがあります。それを具体的な被害内容や証言から推測し、ぶった斬りやすいように気を逸らすアイテムや道具を出来るだけ揃えて挑むんですよ。」

たまにアリアスが教えてくれる事は、学術書や教本に無いことばかりだ。

「しかし、相手の気を逸らして断つのは卑怯では?」

「あれ、騎士道の本でも読みましたか?僕たちは騎士ではありません。ようは勝ちゃいいんです。向こうは死なないしこっちにはよく見えないしでどうしたって不利なんですからそれくらいで丁度です。」

「ふーん。……アリアス、何故悪魔に心奪われるものがあるのですか。彼らは理性の無い化け物なのでしょう?」

「さぁ……。でも実際そうなんですよ。本の虫のユジンなら調べたらわかるかもしれませんね。けど、剣先が鈍らない自信がある場合だけにしといた方が良いです。」

「何故ですか?」

「何となくですね。」

アリアスの言葉が気になったユジンは、悪魔の起源について調べてみる事にした。

幸い教育機関としては最高位にあるボロゾアの博士号を持つユジンはその権威にあやかって近隣の教会や有識者の持つ蔵書に比較的自由にアクセス出来た。
そうして調べていくと悪魔の少なからずが、元を正せば信仰者を失った土着の神ではないかという仮説に至った。
もちろんそんな事は公にできる話でないとユジンは十分わかっていたので、アリアスにだけ話した。

「それで、剣先は鈍りそうですか?」

話を聞いたアリアスは静かに聞いてきた。

「いえ、特には。人間は一つの神を信じる事で十分足りています。多神教は今日もう無用なのでしょう。迫害されるのは当然かと。」

「そうですか。……僕はちょっと、今まで斬ってきた悪魔たちはどんな神様だったんだろうと思っちゃいました。」

「信徒に害なせば悪魔は悪魔でしょう。」

「うーん……」

アリアスの歯切れが悪い理由が、ユジンはいまいち分からなかった。


その後の10月下旬頃。

「ユジン!旅行に行きましょう!」

そう言って連れ出されたのはシャルドーレから馬で2日もかかる、レンナよりもさらに北の小さな村だった。

着いたとたんアリアスはユジンとラムールに指示して空き地にテントを張らせる。

「いったいなんなのですか?」

旅の目的を内緒と言って教えてくれないアリアスに再度尋ねる。

「今日はサウィン祭の日です。セルトの古いお祭りなんですよ。だから夜に待っていれば悪魔が来ます。彼らは人に害をなしません。ただ今日一夜だけ人間の所にお菓子をもらいにきて、静かに去ります。この辺は流浪の後定着したセルト民の子孫が多いから、教会に帰化してもサウィン祭の儀式は習慣的に残ってるんですね。」

ユジンは呆れた。教会の司祭が、何が楽しくて異教由来の祭に首を突っ込むのか。
ただ、こんな風に護衛でない誰かと旅をするのは初めてだったしラムールが焚き火で極上のホットワインを作ってくれたのでまあいいかと思った。

そして夜、アリアスが篝火に薬草を入れる。

「こうすれば悪魔がここを家だと認識するはずです。」

サウィン祭の悪魔は人の前に姿を現さないらしく、焚き火を燻らせたままテントに3人で待機した。
夜も更けてくると、テントの入り口の布をポスポスと何かが叩く。
焚き火の灯りでテント布に映った悪魔のシルエットは、ローブを被った人間とさして変わらないように見えたが尻の辺りから先の尖った牛の尻尾のようなものがクネクネしている。
次に来た悪魔は長い角が影になっていた。

それから何回かそれぞれ違う悪魔が訪れ、その度にアリアスはテントの隙間からラムールの用意した焼き菓子をコロンコロンと落とした。
そしてまたテントが叩かれたので、アリアスが菓子をコロンと小さく差し出された籠に放って隙間を閉じた。

「……ありがとうなのだ。お幸せを。」

小さく聞こえてくる声。
映し出された影には膝丈のローブの下から突き出た尻尾が忙しなくピョコピョコ動いている。

「どうも。」

その影に向かって、自分でもどうしてか分からないうちに、ユジンは返事をしていた。

「ぴゃあ!あっ、あっ、ごめなしゃっ……」

ユジンの声を聞いて震えた声で悲鳴をあげた後、逃げるように影は消えた。
それに少なからずがっかりしている自分がいる。

「あーあ意地悪しちゃって。あの子、扉が閉まって聞こえないと思ったからお礼を言ったんでしょうに。ここが家に見せかけたテントだったのが不幸でしたね。」

「聞こえない礼を言うのですか?」

「彼らは人間と関われません。だから害をなさない悪魔なんです。可哀想に、懲りてもう言わなくなっちゃいますよきっと。」

アリアスには嗜められたが、あの声を最後に聞いたのが自分だと思うと不思議と悪い気はしなかった。

「ユジン、悪魔は人に害をなしますが、同時に悲しい存在です。人を愛し、愛されたいのに、もう人間は彼らと袂を分かちました。彼らが人を傷付けるのは本来本意ではないのです。」

「分かりませんよ。人間に捨てられて、恨んでるかも。」

「貴方も悪魔を斬れば分かります。」

その後は外も静かになったので、ユジンたちは狭いテントの中三人で身を寄せ合って寝た。

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