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しおりを挟む帰宅して部屋の電気を付ける。
今日は先輩が会食の後に来るらしい。早めに切り上げるって事なので、9時くらいには来るかな。
スーツを着替えてキッチンに向かい、適当に野菜と豚肉をソースで炒めて夕飯にした。
ちゃぶ台で1人で食べていると、何だか物足りなさを感じる。
先輩が来るようになるまでは、他人を気にせず食事できる開放感が気に入ってたんだけどな。
何だか先輩のことを思い出してしまう。3日前に来た時は定時で一緒に帰ってお好み焼きを作ったんだ。
先輩、さすが若様って感じだけどお好み焼き食べたことがなかったらしい。
じゃあ食べてみよう、と豚玉と餅チーズを作った。
初めてお好み焼きを食べた先輩の感想は、「ユウくんが好きそうな味で美味しい。」だった。
確かに中濃ソースはたっぷり掛けたけど。
あのお好み焼き美味しかったな、と思い出しながら野菜炒めを食べる。
同じソース味のキャベツなのに味は全然劣っているように思えるから不思議だ。
ささっとお腹を満たすためだけに食べて食器を片付ける。
その後は冷蔵庫の横に設置したロボット掃除機のダストケースに溜まったゴミを捨てた。
ロボット掃除機はすこぶる便利だった。
床掃除という家事から解放されるというのがこれほど楽だとは。
マップ学習機能付きで部屋を掃除すると内蔵AIが部屋の形状を把握して最適な進路で無駄なく掃除してくれる。
さらに玄関くらいの段差ならアームが伸びて上り下りするので隅々まで掃除が行き届くのだ。
その様子を出先から専用アプリで見守るのも中々楽しい。
もうこれのない生活には戻れない。
ふんふん鼻歌を歌いながら丸っこい機械を指先で撫でる。
先輩がこれを引き連れている姿も連鎖的に思い出してニヤけてしまった。
お風呂も入ってパジャマを着て、ショッピングアプリを眺めていたらインターホンが鳴った。
急いで通話ボタンを押すと、案の定先輩の姿が映ったのでオートロックを解除。
「ただいま。」
玄関まで辿り着いた先輩が僕に言う。
「おかえりなさい。」
僕が返すと、先輩が優しく笑った。
それだけのことなのに気分が高揚するのは何でだろう。
先輩が背広とズボンを脱いだところでパジャマと替えの下着を渡す。
洋服箪笥の一つは既に先輩の衣類専用になっていて、パジャマ以外にも部屋着や下着、Yシャツや靴下がいくつか揃っているので最近はコンビニに買いに行く事もない。
先輩がお風呂に入っている間に今脱いだのも洗濯槽に追加して洗濯機を回す。終わった後に2人でくだらないこと話しながら干すのも結構楽しかったり。
そうしてお風呂上がりの先輩と洗濯物を干した後、先輩が綺麗な包み紙の菓子折りを出して来た。
「わ、これ有名なバウムクーヘンじゃないですか!」
「手土産で貰ったんだ。食べよう?」
こんな時間に……でも、食べたい……。
誘惑に負けて袋を開けてしまった。
まんまるの、綺麗な層を描いたケーキ。
焦げた砂糖の甘くて香ばしい香りが漂ってくる。
「花邑さんどれくらい食べますか?」
ナイフを当てて後ろから覗き込んでくる先輩を振り返る。
「ユウくんの余りでいいよ。あと、こうやって切るんだよ。」
扇形に切ろうとした僕の手ごとナイフを掴んで、ケーキの断面に斜めに刃が入るように動かす。そのまま表面を薄く削ぐように切り取った。
少し不恰好な切り方だ。
「……な、何か違うんですか?」
「どうなんだろう。ドイツではこうやって食べてるから。」
ドイツでは。先輩以外が言えばくっそ鼻に付く発言だけど、握られた手を意識してしまってそれどころじゃない。
あったかい。大きい。ゴツゴツしてる。
僕ののっぺりした貧弱な手と全然違くて同じ男として情けなくなってくるほどだ。
「……ユウくんの手、綺麗だね。」
先輩が何を思ったかナイフを握った僕の指の股をすりすり指の腹で撫でだした。
その感触がくすぐったくてゾワっとする。
「わっ……危ないので、離してください。」
「ごめん。」
注意したら手はすっと離れていった。
1人で切ってる間も、先輩の指の感触が残って困った。
教えてもらった切り方で食べたバウムはめちゃめちゃ美味しかった。
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