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しおりを挟む先輩と二人、床に座って沈黙が続く。
「あの、とりあえず僕シャワー浴びてきますね。それから朝ごはんでも……」
何とか空気話変えなければと話題を振った。
「朝食は俺が作る。」
「先輩にそんな……。」
遠慮すれば先輩が神妙な面持ちで食い下がってくる。
「作らせて欲しい。ユウくんは何もしなくていい。お願いします。」
土下座でもしそうな勢いについ了承してしまった。
好きにキッチン使ってください、と言って着替えを準備し風呂場に向かう。
まずはベッタリと精液が着いた下着を脱いで脱衣所にある洗面台で洗った。
ぬるぬるした体液をもみ洗いしていると嫌でもさっきの事を思い出してしまう。
正直に言えば、触られて戸惑ったけど全く嫌じゃなかった。
むしろ気持ち良すぎて癖になりそうなくらいだ。
痴漢に触られたときは悍ましさしか感じなかったのに。
触られた時の感覚を反芻するとまた反応してしまいそうだったので、そそくさと洗うのを切り上げた。
ざっと適当に洗って風呂場を出ると、キッチンに立つ先輩と目が合う。
「メインはモンティクリストにしようと思うんだけど、好きかな?」
「もん……すみません、知らなくて……」
そう告げれば簡単に説明してくれた。
ハムチーズサンドをフレンチトーストにした料理らしい。
何それ美味しそう。
既にボウル代わりの片手鍋の中には卵液に浸されたサンドイッチが見える。
「ユウくん、髪乾かさないと。」
「あ、IHとドライヤー同時だとブレーカー保たないんです。レンジもIHと一緒に使わないようにしてください。」
貧乏節約生活なので、契約アンペアはもちろん最低限。ちょっと格好悪いな。
「じゃあ先に髪乾かそう?風邪を引いたらいけないからね。」
先輩はそう言って僕を洗面所に誘導した。
鏡の前に立たされ、後ろにドライヤーを持った先輩が回り込む。
「自分でやりますっ」
断ったのにいいからいいからと流されて髪を乾かされてしまった。
先輩の手櫛、心地いいんだけど……
ふぁーっと堪能していたら、あっという間にブローが終わった。
スイッチが切れて手櫛が止んだので、細めていた目を開けて先輩を見る。
「ありがとうございました。」
目が合えば涼やかな目元の視線がキョロッと少し泳いだ。
「うん……こんなこと言ったら怒られそうだけど、ユウくんって隙が多いね。」
それ、こっちの台詞なんですけど……
僕の怪訝な表情を察したのか先輩が少し慌てる。
「あっ、でも安心して。俺は絶対我慢するから。」
我慢って……
髪を乾かし終わった先輩は洗面台で手を洗って僕を食事を並べるちゃぶ台に座らせると調理に戻ってしまった。
時折僕にキッチン用品の置き場所とかを聞きながらテキパキと準備する先輩によってどんどん卓上が賑やかになる。
メインの品以外にグリーンサラダと、ツナと枝豆のマリネがついていた。
キャベツとミックス野菜が浮かんだコンソメスープにはホコホコ湯気が立っている。
ううっ、なんだこのキチンとした朝ごはんは……
先輩が買ってたくれた食材たち、とりあえず醤油で炒めてたけどこうやって使うものなんだな。
これはSNSでいいね貰わないと、と思ってパシャパシャ写真を撮る。
「俺も写真撮りたいな。」
「どうぞどうぞ。花村さんが作ったんだし。」
承諾したら先輩も自分のスマホを持ち出して構えた。
けど角度的に、明らか僕がフレームインしてる。
「僕も入ってます?」
「うん。」
「部屋着姿だし、ちょっと……」
「俺しか見ないから。はい。」
仕方なく小さくピースしながらぎこちなく笑うと、撮影音がスマホから鳴った。
仕返しに僕も先輩にレンズを向ける。
すると先輩は自然にレンズに向かって微笑みながら構えた。
見た目の良さも合間って、写真スタジオの見本みたいだ。そういうフォーマルな写真撮られ慣れてそうな感じがする。
毎年写真館で家族写真撮ってますみたいな。
適当な写真ばかり並ぶカメラロールの最後に足された、先輩がお上品に笑う写真。
どこに出しても恥ずかしくない出来だけど、誰にも見せられないな、となんとなく感じた。
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