上 下
1 / 20

1, タツマ視点

しおりを挟む

特になんの取り柄もない俺が、唯一毎年の通信簿に書いてもらえた褒め言葉は辛抱強いだった。

今では俺自身つくづくそれを実感している。
何故ならイオリと同居し始めてはや6年、一度も彼に襲いかかった事がないからだ。

イオリは一言で言えば魔性の男で、関わる人間みんな老若男女虜にしてしまうと言うなんとも業が深い人間なのだ。

実際、イオリはCGかと思うほどイケメンだ。単に格好いいと言う程度じゃなく、見た人間の全員がため息をつくか息を呑むほどの美貌を持っている。
加えてふるいつきたくなるくらいのオーラというか、色気を発している。

そんな感じなら女もよりどりみどりでさぞ楽な人生かと思いきや、まさに過ぎたるは及ばざるがごとし。
この本人の意図しない魔性パワーの所為でイオリの人生は苦労の連続だった。

まず、両親が離婚した。
イオリが3歳の頃、どちらがイオリを独占して育てるかで泥沼の夫婦喧嘩になり、最後は裁判で母親が親権を勝ち取った。負けた父親は恨みから母親を殺そうとして放火殺人未遂で捕まり服役中らしい。
未遂だったからか有期刑らしいが一生出てこなくていいと思う。

その後母親に半ば監禁に近い状態で育てられたが、どうにかイオリが自分で説得して小学校には行かせてもらえたという。
イオリはとてつもない環境で育ったにも関わらず、非常に頭が良くてまともだ。
だから学校にはどうしても行きたかったんだろう。

しかし、念願の学校でもイオリの魅力はトラブルの素だった。
同級生の女子どころか男子までイオリを巡って争ってしまいクラスは学級崩壊。仲裁に入った教師たちすら次々勝手に魅了されて児童猥褻未遂を起こす始末。

諦めたイオリは毎年教科書だけもらって自宅で自習をし、中学生になった。
そんな努力家のイオリに更に悪い事が起きたのが14歳の時。
成長したイオリは実の母親に襲われそうになったそうだ。
もう聞いているだけで胸糞の悪くなる話だと思う。

流石に耐えかねて、一縷の望みを懸けイオリは母親が迫ってくる様子を録画し児童相談所に通報した。
結果として母親とは引き離されたが、児童相談所や養護施設ではイオリが心配していた通りのことが起きた。
小学校の時とほぼ同じで関わる人間が次々イオリに欲情してしまい、イオリは平穏に保護されていることが難しい状況になった。

そこで施設を逃げ出したイオリは自宅に忍び込んでクレジットカードを持ち出し、それからはキャッシングで最低限の現金を引き出しながらホームレス生活を送ってきたらしい。

そんなイオリに出会ったのは公園だった。
俺がたまたま通りかかった時イオリはゴミ箱から俺がいつも読んでる漫画雑誌の先週号を拾っていた。

イオリはパーカーのフードで顔の半分を隠していたけど、ふと目に入った顔立ちが俺の歳と変わらないくらいに見えたのが凄い気になった。
大学生になって上京してきたばかりの俺は、自分の訛りを気にするあまりに人と喋れず大学デビューに失敗してぼっちだった。だから余計に独りのイオリが気になった。

普段はホームレスを見ても話しかけないのに、その時はイオリの薄汚れた緑のパーカーに向かって雑誌の続きを読むかと話しかけていた。
イオリはガン無視。
でも俺は何だか同情してしまって次の日の朝に続きの雑誌をゴミ箱の脇に置いた。

置いた雑誌は夕方バイトから帰ったら無くなっていて、それが何だか嬉しくてそれからは毎週読み終わった雑誌を置いた。

イオリが俺に話しかけたのはそれから3ヶ月後だ。

「公園に持ち込んだゴミを放置するな。」

俺がいつものように雑誌を置くと後ろから美声に注意された。

「すっすまねっ」

慌てて振り返ったらイオリがいた。

パーカーのフードを目深にかぶって、髪や髭はボサボサで顔のほとんどを隠している。
それでも声や垣間見える肌はやっぱり俺と同世代くらい。

「こさなに……」

「?僕とセックスしたいの?」

いきなりの言葉に面食らった。こんな汚いホームレスとセックスしたいやつがいる訳ないと思ったから、頭がおかしいやつだと判断した。

「なも」

「?」

イオリは咄嗟に発した訛りだらけの俺の言葉が分からないみたいだった。
それに顔がカッと熱くなる。
ホームレスごときに訛りを馬鹿にされたというくだらない思い込みが怒りを産んだ。

その時、公園に少し強い風が吹いて顔の半分が隠れるくらいゆったりしたイオリのフードが飛ばされた。
そこから見えたイオリの素顔に、俺は怒りを忘れて魅入ってしまった。
汚いのに、ボウボウでボサボサなのに、イオリがとてつもなく美しい人間な事はすぐにわかった。

見惚れた直後、はっとする。
俺はこいつに一言言ってやるんだ。
魅力的な瞳に見つめられて怒りがぐらつくのをグッと堪え、俺はイオリを睨みつけた。

「わさあじゃぐるな!」

言われたイオリは呆然としていた。
通じたのか?いや、絶対通じてない。

「いまのはばかにすんなって……」

「目を見て怒鳴られたのは初めてだ……。」

意味を説明していたら、イオリがポツリと言った。

「ん?」

「失礼なこと言ってすみませんでした。あの、もしお聞きいただけるなら貴方に一つお願いがあります。お金は払いますので。」

「あ?」

イオリは風呂を貸して欲しいと言った。
理不尽に怒鳴ってしまった負い目から俺は承諾した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる

KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。 ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。 ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。 性欲悪魔(8人攻め)×人間 エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

美形でヤンデレなケモミミ男に求婚されて困ってる話

月夜の晩に
BL
ペットショップで買ったキツネが大人になったら美形ヤンデレケモミミ男になってしまい・・?

僕のお兄様がヤンデレなんて聞いてない

ふわりんしず。
BL
『僕…攻略対象者の弟だ』 気付いた時には犯されていました。 あなたはこの世界を攻略 ▷する  しない hotランキング 8/17→63位!!!から48位獲得!! 8/18→41位!!→33位から28位! 8/19→26位 人気ランキング 8/17→157位!!!から141位獲得しました! 8/18→127位!!!から117位獲得

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

【R18】【Bl】王子様白雪姫を回収してください!白雪姫の"小人"の俺は執着王子から逃げたい 姫と王子の恋を応援します

ペーパーナイフ
BL
主人公キイロは森に住む小人である。ある日ここが絵本の白雪姫の世界だと気づいた。 原作とは違い、7色の小人の家に突如やってきた白雪姫はとても傲慢でワガママだった。 はやく王子様この姫を回収しにきてくれ!そう思っていたところ王子が森に迷い込んできて… あれ?この王子どっかで見覚えが…。 これは『【R18】王子様白雪姫を回収してください!白雪姫の"小人"の私は執着王子から逃げたい 姫と王子の恋を応援します』をBlにリメイクしたものです。 内容はそんなに変わりません。 【注意】 ガッツリエロです 睡姦、無理やり表現あり 本番ありR18 王子以外との本番あり 外でしたり、侮辱、自慰何でもありな人向け リバはなし 主人公ずっと受け メリバかもしれないです

男とラブホに入ろうとしてるのがわんこ属性の親友に見つかった件

水瀬かずか
BL
一夜限りの相手とホテルに入ろうとしていたら、後からきた男女がケンカを始め、その場でその男はふられた。 殴られてこっち向いた男と、うっかりそれをじっと見ていた俺の目が合った。 それは、ずっと好きだけど、忘れなきゃと思っていた親友だった。 俺は親友に、ゲイだと、バレてしまった。 イラストは、すぎちよさまからいただきました。

【報告】こちらサイコパスで狂った天使に犯され続けているので休暇申請を提出する!

しろみ
BL
西暦8031年、天使と人間が共存する世界。飛行指導官として働く男がいた。彼の見た目は普通だ。どちらかといえばブサ...いや、なんでもない。彼は不器用ながらも優しい男だ。そんな男は大輪の花が咲くような麗しい天使にえらく気に入られている。今日も今日とて、其の美しい天使に攫われた。なにやらお熱くやってるらしい。私は眉間に手を当てながら報告書を読んで[承認]の印を押した。 ※天使×人間。嫉妬深い天使に病まれたり求愛されたり、イチャイチャする話。

処理中です...