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12,
しおりを挟む「皇帝主催の酒宴?」
「ああ。出陣する武将の激励として行うと聞いた。リンも付き添いで来てくれ。」
セイ君の部下になって2週間。この生活にもだいぶ慣れてきた。
仕事の幅も広がり、今は机でセイ君の配下に置く兵士の装備について手配のため必要なものを整理している。
「うん。分かった。いつ?」
「今日の夜。」
「今日!?もっと早く言ってよ!」
「忘れてた。」
「もー!じゃあ私礼部に会の詳細聞いてくるから。」
出していた書類をバタバタと片付けた。
「適当に出ればいいだろ。」
「いいわけないよ。服装とか席順とか確認しなきゃ。皇帝陛下に失礼があったら……」
「あの人なら気にしないだろ。」
「ちょっと……陛下をそんな呼びかた!!」
さらっと言うセイ君に肝が冷える。
この2週間で分かったことだけど、セイ君はかなり武焔帝に気に入られてる。
皇帝からしょっちゅうちょっとした贈り物や手紙が届くもの。
平白が2人の仲を疑うのも正直無理ないと思うくらいだ。
しかし当のセイくんは冷めたもので、全く手紙の返事や贈り物のお礼を書かない。見かねて私が代筆すると言ったらやっとまずいと思ったのかしぶしぶ書き出した。
けど書面は見るからに適当でこっちがヒヤヒヤする。
今は気に入られてるからいいけど、武焔帝は見限った相手には容赦がない。ちゃんとさせないと、と意気込んで礼部に向かい色々聞いた。
そして夜。
見事に着飾ったセイ君は思わず見とれてしまう。
上衣は品のある黒絹の錦織で、前身頃に昇竜が浮き上がる柄が織られている。
大帯は白の羅織、上衣と同じ素材の蔽膝の下は青みがかった薄鼠色の裳を履き、腰に下げる玉佩は上質な翡翠だ。
これ全部、皇帝からの贈り物でもらったまま適当に物置に放り込まれてたからね。
「格好いい。凄く格好いい。」
私はしみじみ言った。
「そうか。ふぅん……。まぁ、あんたも悪くないんじゃないか。」
セイ君も面倒そうにしてた割にはまんざらでもなさそうだ。
私も一応出仕する時に親からもらった礼服を着ている。
「ありがとう。じゃあ、行こっか!」
2人で連れ立って会場に向かう。
移動中いたるところの物陰から女官たちが赤い顔でセイ君を盗み見ていて、何だか複雑な気持ちになった。
会場である広間で、セイ君は自分のお膳の前に座り、私は後ろの従者席に着く。
程なくして皇帝が玉座に現れ、宴会は始まった。
「爾晶、何だやっとその服着たのか。やはり似合うな!」
宴が始まって早々に、武焔帝が上座からセイ君に呼びかける。
武焔帝は如何にも精悍な壮年男性といった感じで、軍事にも統治にも優れた名君といわれるだけの貫禄がある。
そんな彼がセイ君を見て無邪気にはしゃいでいるのは少し不思議だ。
宴に同席しているほかの武人や文官がセイ君に疎ましそうな視線を投げる。
何だ。何か感じ悪い。
「はぁ。」
セイ君は手紙をもらった時と同じようなテンションだ。どうしたの、さっきは嬉しそうだったじゃん。皇帝の前だよ同じようにしよ?
心の中で訴えるけど届くはずもない。
「気に入ったか?余が選んだ柄だぞ?」
「別に。司馬少弁が薦めてくれたので着ました。」
「おお!噂の司馬ね。その後ろのカワウソみたいのがそうか?」
皇帝の言葉に私に視線が集まりクスクス笑いが起きる。
ま、まあ、よく言われるからな。
空気を読んで一緒にヘラっと笑った。
「私の部下に失礼なこと言わないでください。」
クスリともしないセイ君が言った。
それを聞いた皇帝がびっくりした顔をした後、新しいおもちゃを見つけた子供みたいにニンマリ笑う。
「そうだ!皆に相談があるんだ!」
笏をパンと打って皇帝が話し始める。
「実は、異母妹の莉(りー)を遥か西のユトレントの国に嫁がせようと思う。」
その言葉に場がざわつく。
莉姫は皇帝と随分歳の離れた先帝の末娘で、今年16歳になる。
ユトレントは確か数年前、宦官の曹融雪春(そう・ゆう・せつしゅん)が武焔帝の命で西へ航海に出てたどり着いた遥か遠くの国だ。
そこは青や緑の瞳と金や赤の髪を持つ人の国だという。
「そこで、晃の偉大さが西の蛮族どもに伝わるような嫁入り道具を持たせたい。何がいいと思う?つまらない提案はするなよ?」
皇帝の呼びかけに、場がシンと静まり返った。
大事な戦の前に不用意な発言をして自軍の処遇が悪くなっても嫌なのだろう。
「……」
「……何だ。誰も思いつかないのか。馬鹿者どもめ。」
武焔帝の機嫌がうっすら悪くなる。
その後ぱっとこちらを見た。
な、何か目が合ってない?
「カワウソ、お前はどうだ。許すから言うてみよ。」
皇帝の瞳が三日月型にたわむ。
「武焔様、いきなり仰られても……」
「はっ、完癒膏は如何でしょうか?」
セイ君が庇ってくれるのを無視して発言した。
「完癒膏?」
「塗れば全ての傷がたちまち癒えるという軟膏です。長旅で姫様にお怪我があっても安心でございましょう。」
私の言葉に、場がざわついた。そんな物あるのか、デタラメだ、なんて聞こえてくる。
「なるほど!それはいい。で、何処にあるんだ?」
「わかりません。」
私の発言にざわついた場がすぐにシンっと静まり返った。
「貴様、余をからかってるのか?」
帝の声が少し低くなる。
「滅相も無いことでございます。今はわかりませんが、手掛かりはあります。私に宮廷の全書庫の閲覧権限を頂けませんでしょうか。2週間で結構です。それで見つけてみせます。」
私は精一杯の啖呵を切った。
「そうか。まあ、いいだろう。1週間は好きに出入りしろ。その後兵団をつけてやるから探しに行け。必ず見つけてこいよ。」
何人かの将軍から笑いが漏れる。
あいつ死んだなって思われてるんだろう。
「武焔様、司馬少弁が旅立つ時は俺が同行してもよろしいですか?」
セイ君が割って入る。
「おまえは凱古との戦があるだろう?」
「姫様のお嫁入り道具に何かあっては大変ですから。凱古の方は俺一人いなくても大丈夫でしょう?よく他の奴らが武焔様に俺なんていらないって言ってるじゃないですか。」
セイ君がチラリと周りを一瞥する。その視線に明らかな敵意を向ける人が何人かいた。
「ははは!嫌われてるからってそう拗ねるな。余はそちが好きだぞ。まあ行きたいなら行ってこい。ニルカザの砦を落とすまでに帰って来なかったらお仕置きだがな。その代わり見つけて帰って来れたら何でも褒美をやる。」
「ありがとうございます。感謝します。」
「うむ、今日は素直だな。ほら、みなもっと飲め飲め!!」
セイくんに相手してもらってすっかり上機嫌な皇帝のおかげで、それからの宴は長々と続いた。
宴もたけなわとなったころ、やっとセイ君が帰るお許しが皇帝から出て2人広間を後にする。
「あの……セイ君、巻き込んでごめんね。」
「全くだ。なんであんなこと御前で言った。任に失敗すれば処されるぞ。そういう人だ。」
「うん。でもいずれ皇帝に報告しなきゃいけないことだったし、陽さんが探索を任されたら嫌だったから……」
「ネタ元は黄書庫で見つけた情報か。つまり、その薬のあてはあるんだな?」
「私が読める文献から大体。けど手に入る場所の特定に、私が入れない書庫の情報が必要なんだ。」
それも何とか許可を得た。1週間しか無いけど、どうにか目処をつけよう。
「そうか。では、出発まで副官の仕事はいい。そちらに集中しろ。」
「ありがとうセイ君。不眠不休で頑張る!」
セイ君は石畳を行く途中に月明かりの中振り返って私に近づいた。
正面から顎を取って上向かせ、上体をかがめて押し付けるようにキスをしてくる。
しばらく熱い舌が口の中を暴れまわった後、唇が顎をたどってうなじにぢゅっ、と強く吸い付いた。
「んっ……ぁ、セイ君……」
それだけでカッと体が熱くなって煽られてしまう。
離れた顔を見つめ返すと、綺麗な顔でニヤっと笑った。
「また暫くお預けか。酷い兄さんだ。」
そのまま離れてスタスタまた歩き始める。
私はと言えばその妖艶さに見惚れるばかりだ。
も、もー!小悪魔!小悪魔ですよー!
確かに、部下になってから何度かセイ君のお誘いを受けてるけど全部躱している。
だって、セイ君を抱くまで(覚えてないけど)マトモに女性とも付き合って来なかったのだ。
それがこんなに男としても立派なセイ君をカワウソの私が抱くんだよ。
緊張で勃たなかったらどうしようとか、下手くそで幻滅されたらとか、なかなか勇気が出ない。
酔った私本当どんだけ無謀だったんだ。
けど、いつまでも待たせてるのも情けないからな。
よし、無事に任務を果たしたら今度こそセイ君をこの手に抱くぞ。
そう心に誓って拳を作った。
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