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しおりを挟むいつにも増して集中して仕事をしていたら、上司に呼び出されたので執務室に向かった。
「いやぁ、司馬主事。いつもご苦労様。」
なんだかやたらニコニコしているな。何だろう。
「はい。ご用件は何でしょう。」
「異動だよ異動。しかも昇進だ。従五品、少弁だよ。すっごいねぇ。」
「は?どこに?何故?」
「兵部にだね。袁将軍の補佐官に、明日から。」
「……は!?どういう事ですか?」
「どうもこうも、武焔帝直々の差配だよ。よほど袁将軍に見込まれたのか?私までよく育てたと経理長官に褒められちゃった。もっと将軍に私のこと良く言っておいてよ。」
うふふ、と丸くて血色のいい顔を輝かせて上司が言う。
だから上機嫌なのか……にしても、明日からセイ君の部下って。
「とりあえず、大変でごめんだけど今日中に引き継ぎよろしくね。」
「は、はぁ。」
皇帝の指示なら是非もない。
頭の中で引き継ぎ事項を整理しながら戻ると、執務室がザワザワしていた。
何だろうと思いながら自分の机に向かい、セイ君を見つける。
「セッ、袁将軍!」
「リン、迎えにきた。」
セイ君が寄ってきて私の腰を抱いて連れ出そうとしてくる。
あ、明日からでは?
「で、でもまだ片付けが……」
「あとで人をやって運ばせる。」
「いやでも、引き継ぎが……」
「後任決まってからでいいだろ。」
「いやいやでも……」
言い合う私たちを訝しそうに同僚たちが見ている。うう、いたたまれない。
「霖潤!」
遠巻きにしている同僚の中から、平白が呼びかけてきた。
「あ、平白。」
「どういうことだ?迎えって……」
訝しげにセイ君を見ながらこちらに進み出てくる。
「さっき言われたんだけど、袁将軍の補佐官に異動になったんだ。」
「はぁ?経理から兵部なんて、そんな配置替え聞いたことないぞ。」
「無くても、そう決まった。」
セイ君が低い声で平白に告げた。
「袁将軍、失礼ですが私は今司馬主事と話しています。」
セイ君をにらみながら返す平白。
「俺の部下と勝手に話すな。ふん。」
腕を組んで平白を一瞥するセイ君。
いや言う事無茶苦茶だよ……
「は……?意味がわからないけど。」
ほらぁ……不味いな平白が苛立ち始めたぞ。
「へ、平白!そういうことだから、またちゃんと挨拶しにくるね。皆さんお世話になりましたぁ!」
「あっ、霖潤まっ……」
とにかく今はセイ君を平白から離すほうがいい。
そう判断して彼の制止を振り切り、セイ君の腕を引っ張ってそそくさと官舎を出た。
その後、兵部の官舎内でセイ君に案内され彼の執務室まで向かう。
入るとスッキリした室内にセイ君の大きな机と私のだろうそれより小さい机があった。
「何で私がいきなりセイ君の補佐官に……」
「昨日凱古との戦が正式に決まり、俺にも出陣命令が出た。」
「え、昨日……?」
「ああ。出兵は1ヶ月後だ。今日から俺の騎馬部隊も準備にはいる。それで、リンに碧麟の世話を任せたい。」
「ええ!いや、私は単に本に書いてある通りにしただけでそんな技量は……」
「それだけで碧麟があんなに懐くわけない。アイツ、俺とあんた以外の人間は近づいただけで噛み付くから。」
そうなの?私、ヘキ様に好かれてるの?ふへ、ふへへ。
そうか。この仕事なら堂々とヘキ様のお世話ができるのか。
それは……最高だな。戦場を勇敢に駆け巡るヘキ様……はぁ……。素晴らしいんだろうな……。
うっとりしていたらセイ君に頬をぎゅむっと摘まれた。
「ふぐっ!にゃ、にゃに!?」
「ふん。何となく腹が立った。」
むっとした顔でぷいっとそっぽを向く。
そうだよな。遊びじゃないんだ。きっと大きな戦になる。ヘキ様にも、セイ君にも命の危険があるんだから、浮かれてちゃダメだ。
彼らのために私が力になれる事は何でもしよう。
「ひょれが碧麟様のたえなら承りました!」
「なあ、あんたは碧麟と俺、どっちが好きなんだ。」
頬を掴まれたまま顔を寄せられる。
そんなの、セイ君無くしてヘキ様無し。逆もまた然りだ。
「ひょ、ひょんな……」
「……ちっ、一度分からせる必要があるみたいだな。」
な、何の話!?ちょっ、近い近い!
ぐんぐん迫ってくるセイ君。
こんなのキスしたくなっちゃうよ。まだ仕事中なのに!
「じゃあ私調馬関連の資料を漁ってくるよ!セイ君、明日からよろしくね。」
慌ててセイ君から距離をとって部屋から立ち去る。
危ない危ない。公私の区別を忘れてケダモノと化すとこだった。
とりあえず今日は黒書庫で色々調べよう。それが終わったら陽さんのとこで完癒膏の文献調査だ。
……そうか。セイくん戦に行くんだ。
無事帰ってこれるのかな……
そこまで考えて思考を振り払うためぶんぶん頭を振った。
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