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35, 終
しおりを挟むアカオは顎が落ちそうなほど驚いてトキノを凝視した。
そんなアカオの手を、隣に座るトキノが握った。
「いつのまにそんな事に……。」
絶句する母親に、アカオが慌てて口を開く。
「ほらっ、ここ最近僕が落ち込んでる時にトキノが慰めてくれただろ?それで、いいやつだなーって、それで……」
「違うよ母さん、俺が……むぐっ」
「トキノが告白してくれたんだよな!ウレシカッタナー」
口を塞ぎ、目配せでトキノにそれ以上話すなと合図すればトキノは引き下がった。
こいつ何考えてんだ、実の母親に、兄を監禁して手籠にしましたって言うつもりか。
……言うつもりだったんだろうな……。
アカオは頭を抱えたが、この場でもっと頭を抱えたいのは目の前の母親だ。
「トキノ……あなた、いつかやるかもとはうすうす思ってたけど……」
母親は呆れた様子でトキノを見た。詳細は分からずとも、トキノがアカオに強引に迫った事は察しがついているようだった。
「アカオ、これはちゃんとあなたの本意なの?」
母親がアカオに確認する。
アカオも誠実に答えなければと口を開いた。
「母さん、僕もトキノのこと、好きだよ。兄弟だし、男同士だけど、大事にしたいと思ってる。」
握りしめてくるトキノの力が少し強くなった。
「兄弟で番はまあ……私たちにはあることだし……普通はどちらかは雌だけど……。」
母親が必死に現実を受け止めようとしている。
「俺の力なら兄さんを孕ませられるよ。」
「トキノ!お前もう黙れ!」
「そう、そうなの……。はぁ……あなたたちの言い分はわかった。ちょっと、時間貰える?大事なことだから。当主のことも、これは一族合議がいるでしょう。」
母親は長年妖狐一族の当主の伴侶として太刀振舞っていただけあり、衝撃の告白にも務めて平静を保っていた。
そして今日は帰るように促し、2人を玄関まで見送った。
「トキノ、お前何考えてんだよ、いきなり母さんに言うなんて……」
駅に向かいながらアカオがトキノを責める。
「いつかは一族に言わなきゃいけないことでしょ。こそこそしたくないし、必要もない。それに、父さんがいないんだからもう母さんしか一番に言う相手いないよ。」
「そうだけどさぁ……。」
何も交際3日目で親に言うことなくない?とアカオは内心文句を垂れた。
「あっ、兄さん、ちょっと寄ってこ。」
トキノが足を止めたのは、よく一緒に遊んだ小さな公園だった。
言われた通り中に入り、一番遊んでいたブランコに立ち乗りする。
「兄さんそれ好きだよね。」
足の間にトキノを座らせて代わりに漕いでやるのがアカオは結構好きだった。
「お前、目を離すとすぐ力使ってありえない角度で漕いじゃうから見張ってたの。」
「だってそうすると兄さんが一緒に乗ってくれるから。」
「はー?そういうことだったの?」
もう足の間に座れるサイズじゃないトキノは、目線が高くなったアカオを正面から抱きしめた。
「だって、ずっと好きなんだ、兄さんが。」
懐いてくるトキノの頭を軽く撫でてやる。
「色々強引なことしてごめん。でも、俺今すごい嬉しい。」
トキノが小さい声で言った。
本当にとんでもないことをされたが、今は怒る気にならないのだから仕方がない。
「もう暴走するなよ。反省しなさい。」
「うん……反省するから、もう一個いい?」
「ん?」
トキノが背伸びして、アカオに監禁部屋の隠しカメラについて白状した。
「消せ!帰ったら絶対消せよ!」
「嫌だよ。大事なコレクションだから。」
「コレっ……まて、他にも何かあるの!?」
アカオが粘りに粘った交渉によりようやくトキノに隠し撮り動画を消させた頃、2人は母親に呼び出された。
次期当主が発表された時と同じ実家の広間で、母親の他に分家の家長たちが並んでいる。
揃った所で母親が話し始める。
「トキノ、あなたが先日白状した新当主の操作について一族で協議した結果、不正を理由に当主権限を半分剥奪する事にしました。」
「半分?」
トキノが怪訝そうに言う。
「ええ。前当主にそれだけの術が施せる者に太刀打ちできるものは今の一族にはほぼいないでしょう。つまり、不正を侵したとはいえあなたは当主としての器が十分あります。もう半分は、アカオ、お前が継ぎなさい。」
前半はアカオが思った通りの裁定だった。選出に疑義があっても、トキノが一族でいちばんの実力者である事実は変わらない。しかし後半は予想外だった。
「それは、2人で当主をやるってことですか?」
アカオが母親に尋ねる。
「そういう事です。アカオ、お前の方が一族の人望はありますからね、これからはトキノの手綱を上手く取って一族をまとめなさい。」
「は、はい……。」
合議で決まったということは、一族みんながアカオを2人目の当主として認めたということだ。
アカオはそれが嬉しかった。
「母さん、2人で当主やっても番にはなれる?」
「ちょっ、トキノっ!」
せっかく喜んでいたところを親バレに続いて親戚バレされ、アカオはトキノを制止した。
しかし、すでに母親から話を聞いていたのか家長たちからは小さな笑いが漏れるだけだった。
本来子孫繁栄のためにあまり同性愛を好まない妖狐一族だが、強い妖狐の間で子が成せるとなれば別という狐らしい功利的な判断をしていた。
「トキノ、それは相手次第です。ちゃんと求婚しなさい。お父さんは私に必死になってしましたよ。」
周りからはっきりした笑いとヤジが飛ぶ。
「母さん!」
アカオは恥ずかしさに額を押さえた。
「だって兄さん、俺と結婚してくれる?」
トキノがズイズイ迫ってくる。
「馬鹿!まだ付き合って1週間くらいだぞ!親にも勝手にバラして!親戚にも笑われたじゃないか!もう知らない!」
アカオはそう怒ると立ち上がって部屋を去った。
それを慌ててトキノが追う。
「待って兄さん、ごめん、謝るからっ。」
その後は結婚を迫るトキノとそれを煙に撒こうとするアカオの攻防が繰り広げられているが、妖狐一族の中ではアカオが根負けするのも時間の問題ともっぱら見立てられている。
おわり
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完結ありがとうございまっす!!
終始ドキハラしながら読んでいましたが、ラストは納得行くハピエンでした(*´ω`*)
いやね、もう何度もトキノ君の理不尽(とアタシは感じましたw)な強引さにですね、グギギギしてはアカオお兄ちゃんに感情移入してたのでww
こんなんで弟に惚れるかー!て内心思いながら読んでました。
けどさすが僕らのナイトウ先生ですねっ!
2人して嵌る所にピタっとおさまった感じが読んでいて気持ちよかったです。
今回も素敵な作品をありがとうございました。
いつもと雰囲気の違う作風でありながら、所々に散らばってるアタシの知ってるナイトウさんを見つけるのも楽しかったです!
総括の感想ありがとうございます!
私も最後は妖術かな、と思ってましたけど、承認欲求が鬼強な受けをいちばん承認してるのが攻めなので、まあコンプレックスを受け入れたら反転アンチならぬ反転推しで好きになるのはありか、と思いあんな感じになりました。
元々シリアスをやりたくて始め、没にしていた作品が日の目を見てよかったなーと思います。
ふざけ癖は封印しきれませんでした😅
また折あれば作風変えるのは挑戦したいですね✨
こんにちは。
完結おめでとうございます✨
コンプレックスを取り除いたら、すっかり絆されてお兄ちゃんですね〜トキノくんの粘り勝ち😂
体、だいぶしこまれちゃってましたね…んふふ…
でもこれからもいっぱい怒られることばかりしそう😂
狐さん一族、現金でいいですね〜
ミキさんここまでたくさん感想いただきありがとうございました🙇♀️🙇♀️🙇♀️
本当に励みになりました💪
内心良く思わない親戚もいるでしょうが、それを出すとトキノに精神操作されると計算して黙ってるんです。
狡猾でずる賢いキツネ🦊たちなので!
この2人は基本ずっとこんな感じでしょう…😧
おはようございます
アカオくん絆されてますね😌
計算なしに思うままのほうがトキノくんを操れている気がします。でも計算高くしちゃうのも本能ですかね。
トキノくんはもうずっと我慢してましたからね〜暴走する?😂
感想ありがとうございます!
絆される以外は妖術くらいしか惚れる理由が無いので😂
ほんそれ。
つい狡猾な狐ムーブをしてしまい墓穴を掘る、というのが2人のパターンとしていいかもしれないですね🤔