34 / 35
34,
しおりを挟む「兄さん、これ。」
トキノに激しく抱かれた後、アカオは全ての後片付けをトキノにしてもらい数時間ほど眠った。
そして空腹で目覚め、トキノの用意した食事をたらふく食べた。
その食後に、トキノが差し出してきたのはアカオのスマホだった。
受け取ってみれば充電がされていて、メッセージやSNSのアプリアイコンに3桁数の通知バッジが表示されている。
「スパイアプリ入れたりしてない?」
「まだしてない。兄さんが良いって言ったらしたいけど……」
トキノのおねだりを無視して、大量にメッセージが来ているアプリを開いた。
大学やバイト先、妖狐の友人らから安否を案ずるコメントばかりだった。
そのうちにアカオの不在がクチコミで広がったのか、小中高の友達からもポツポツメッセージが来ている。
「一応バイトやゼミには、しばらく出ないって連絡はしたんだけど。」
メッセージを読んでいるアカオに、不貞腐れたようにトキノが言う。
そうしている間にも、既読がついたことに気づいた数人から心配している旨の言葉が追加されている。
「え、これ、普通に返していいの?」
アカオは思わずトキノに確認した。
「嫌だけど、いいよ。それは兄さんに返したんだから。」
「あ、りがと。」
アカオが椅子に座ってスイスイと返信を始める。
中には通話をかけてくる者もいて焦ったが、なぜ連絡がつかなかったか適当に誤魔化したりした。
当たり障りない人付き合いしかしてないと思っていたが案外みんな心配してくれるものなんだな、と分かりなんだか嬉しかった。
その間トキノはベッドサイドに座り、その様子を邪魔するでもなくじっと見ていた。
「兄さんは、なんでも俺が兄さんより上だって言うけどそんな事ない。」
アカオが溜まった返信をこなしているとトキノが静かに言った。
手を止めてトキノを見れば、神妙な顔をしている。
「俺にはそんなに友達いないし、人望もない。」
どうやら、トキノはアカオのコンプレックスをフォローしようとしているようだった。
今更いいのに、と思いながらもトキノのその気持ちが微笑ましくて思わず笑ってしまう。
「兄さんを好きな奴はいっぱいいて、兄さんはこれからもそいつらに優しい。」
続いた言葉ななんだか自分に言い聞かせているようで、トキノは僅かに眉をひそめた。
「でも、兄さんのこと一番好きなのは俺だし、兄さんも俺が好き。でしょ?」
「あ、うん。」
まっすぐ目を見て言われて、考える前に答えていた。
「それならまぁ、いいか。」
立ち上がったトキノが扉まで歩いて行く。
板に触れると、すっと張られていた結界が消えたのが分かった。
「トキノ……」
「金曜、カレー食べに帰るんでしょ。」
トキノがチラリとこちらを伺ってくるので、アカオは笑顔で返した。
「ああ、一緒に行こうな。」
「ん。」
2人は一緒に住んでいたアパートに帰った。
次の日アカオはきちんと大学やバイト先に顔を出して色々とフォローを入れたので、次週からはまたいつも通りの日常が戻ってくるだろう。
そして金曜日、アパートで合流して2人は実家に向かった。
「母さん、俺、父さんを操って遺言書き換えさせて当主になったんだ。」
食後のリビングでトキノが話があると母親を呼び止めると、そんな暴露を始めたのでその場にいたアカオは驚きで固まった。
母親も目を見張っている。
「そう、なのね。何故そんなことをしたの?あなたあまり当主の座に興味があるようには見えなかったけど。」
母親は程なくして平静を取り戻した。
トキノの言い分を信じたのは、自分の夫が残した遺言に多少違和感があったからだ。
「兄さんが他の誰かと番になるのが嫌だったから。当主になれば別れさせたり、結婚を阻止したりできるし。」
アカオが口を開くのを、母親が目で制す。
今はまだトキノの主張を聞く気のようだ。
「そうなの。あなたアカオが大好きだものね……。なんで今更告白したの?」
「俺、兄さんと番になるから。兄さんの番として恥じない妖狐になる。」
飄々と言ってのけるトキノ。
10
お気に入りに追加
562
あなたにおすすめの小説




塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる