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しおりを挟むもし気付かない細工がされていても、今裸でいるよりはマシだと思い渡された服を着用した。
着てみても特に違和感はない。
「首輪はもういいよ。俺は好きだったけど、兄さんは嫌みたいだし。」
着終わった所でトキノに声を掛けられた。
「首輪どころか、この状況全部気に入らないけどな。」
憮然として言えばトキノが近寄って来て腕を掴まれる。
「なっ、何だよ。当たり前だろ。」
「この部屋がどうなってるか、よく見て。」
そう言われて、ずっとトキノに向いていた意識を部屋に向ける。するとすぐにこの空間にとんでもない強度の結界が張り直されていることが分かった。今まで施されていたものの比ではない。
「え、えぐ……」
とんでもない状況に思わずつぶやく。
「2度と無理に破ろうとしないって約束して。」
トキノは平然と言い放った。
昨日死ぬのも構わないくらい全力で逃げ出そうとしていた相手にである。
「は?いや……もぉ、あのさぁ、僕の昨日の態度見て何も思わない?」
流石にアカオもあきれたように言った。
普通ここは反省して解放する流れじゃないか?
「昨日は少し反省した。だから首輪はいいよ。他に気になることがあったら言ってくれれば改善する。」
「ここから出たいんだけど。」
「それはダメ。俺から離れるのは許さない。ね、約束は?」
「しないよ。僕は出たいんだから。」
平行線のアカオと自分の言い分に、トキノは少し口を引き結んだ。
それからゆっくり口を開く。
「約束してくれなかったら、兄さんの意志を操って俺から離れないようにする。」
トキノの言葉はアカオには俄に信じられなかった。
まさか、人間を化かすならともかく術に対して能力差こそあれ耐性のある妖狐相手に意志を操る術を掛けるなんて聞いたことがない。
「見え透いたブラフ吐くなよ。」
「嘘じゃない。俺が当主になれたのは、父さんを操って遺言の指名を兄さんから俺に書き換えさせたからだよ。」
「は……?」
思わず間抜けな声が出てた。
普通の妖狐すら操れるなんて話聴いたことがないのに、ましてや高い実力を持つ一族の当主を操るなんて荒唐無稽な話に思える。
「信じるかは自由だけど、約束してくれないなら同じ術を兄さんにかける。」
トキノはいたって真剣な様子で話している。
本当か?それとも自分を言いくるめるための嘘か?
アカオは頭の中で思考を巡らせる。
時のほど稀代の実力の持ち主なら、そんなとんでもない事もやってのけられそうだ。
しかし何故トキノはさっさとその術をアカオに使わないでこんな大掛かりなやり方でアカオを捕らえているのか。
でももし、もしそれが本当なら……
「父さんは、僕を当主に選んでたのか?」
「……そうだよ。」
トキノの言葉には嘘がないようにアカオは思った。
「そっ……かぁ。」
体の力が抜けてアカオはその場にしゃがみ込む。
トキノのした事は重大だが、そもそも妖狐一族ではその類の反逆が起こりうるから完全な長子相続を避けているのだとも言える。
突出した実力が出てくればそれを当主に据え、そうでない時は争いを避け長子の世襲にする。
でも父はアカオを当主と認めていたのだ。
それはアカオに満足感をもたらした。
「兄さん、俺がした事怒ってる?」
トキノが静かに聞いてきた。
確かに当主を奪われたんだから激怒してもおかしくないが、不思議とそうした感情は起きなかった。
あぁ、自分は別に当主になりたかったんじゃなくて単にトキノより下である事実を受け入れたくなかっただけなんだな、とアカオはストンと憑き物が落ちたように思った。
本来アカオは憑き物の側なのだが。
「いや、トキノの方が妖狐としての実力はあるんだし、トキノが無理に変えなくても父さんはいつか書き換えていただろ。やべぇことしてたんだなとは思うけど。」
見上げて少し笑えばトキノは安心した顔をする。
「トキノ、僕さ、ずっとお前の存在がコンプレックスだったよ。何でも僕より上で。負けたくなくてずっと無理して自分を作ってた。」
アカオは初めてトキノに本心を告げた。
トキノがすっと腰を下ろしたので、アカオも改めて床に座り込んで話を続ける。
「でも昨日キレた時、こんな事でこの先も心を乱されてたら碌なことにならないなって思ったんだ。トキノが折れてくれなかったらあのままマジで死んでたと思うし。」
アカオは昨日の自分に少なからず驚いていた。
元来アカオは狡猾でずる賢い狐らしい狐である。
自分の不利益になるような振る舞いをするはずがなかった。
激昂して自暴自棄になるなんてもっての外である。
そして、その原因がトキノへのコンプレックスならもうそれで思い悩むのはやめたい、と思ったのだ。
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