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しおりを挟む自分より上位者の術を無理矢理に破ったため、体の消耗は凄まじかった。
しかし、激高したアカオはそんなことは一切かまい無くドアノブに手をかける。
そのまま立て続けにまた渾身の術を発動し、アカオの力では絶対に破れないはずの結界に力任せに術をぶつけた。
ビリビリという凄まじい反動が体に走るが、気にせずぶつけ続ける。
今のアカオは、自分の体の事など何も考えなかった。
妖力をぶつけるほど、扉に込められたトキノの術が襲ってくる。
眼の毛細血管が切れて白目が染まり、扉を押す指先は爪が浮いて剥がれかけ隙間に血がたまる。
内臓が引き絞られるように痛んだ。
「兄さん、止めて!死んじゃうから!」
トキノが扉の向こうから叫んでくるが一切反応せずに続けた。
別に死んだってかまわないとアカオは思った。
すると、ふっと結界が消えた。
ならばと物理的に外からなされた施錠を術で壊そうとすれば、それもトキノにカチャリと外される。
アカオは無言で扉を開けた。
情けない表情をしたトキノが立っている。
アカオはそれを見るなりトキノの頬を思い切り拳で殴りつけた。
ゴッと鈍い音がしてアカオの目の前の体が揺れる。
そのままよろりと数歩下がって、廊下の壁を背中で伝うようにへたりと座り込んだ。
それもやはり、アカオは無言で見下ろす。
「……殴り返して来いよ。おまえの方が俺より上なんだろ?初めての兄弟喧嘩しようぜ。」
アカオは低い声でトキノに告げた。
トキノは傷ついたような顔で、実際殴られた頬は赤く骨が掠ったところは擦り傷になっていたが、アカオを見上げる。
「出来ないよ。好きな人を殴るなんて、出来ない。」
震える声で言うトキノに、アカオは続ける。
「あっそ。レイプは出来るのにな。」
どうしようもなくトキノを傷つけたい気分のまま言えば、案の定トキノは泣きそうになった。
ふざけんな、とむしゃくしゃしながら玄関の方に体を向ける。
「行かないで……兄さん、本当に好きなんだ。ごめんなさい。お願い。」
涙声ですがってくるのを無視して玄関に歩いた。
アカオ自身も、大半の妖力と体力を絞り出していてふらふらだった。
もう玄関の結界を破るための余力なんて到底ない。
でも、死んだらそのときだと思って残りの術を注ぐため玄関の鉄扉に手を触れる。
その直後、すっと張ってあった結界が消えた。
戻せなかったキツネ耳も、人間の耳に変化できるようになっている。
術を解除した本人はうなだれたままだ。
「いかないで、兄さん……」
座り込んだままそう何度も呟いている。
知るか。術が解けたならここにいる理由なんかない。
そう思いドアノブに手をかけた。
ここから出て、とにかくトキノから逃げる。
それが一番自分にとってまともな選択のはずだ。
ここがどこだかは分からないが、とにかく出てから考えよう。
トキノはここから大学に行ったりしていたのだから元いた生活圏からそう遠くはないはずだ。
手ぶらで金もスマホも家の鍵もない状態でも、大学まで行けるなら知り合いに助けてもらえる。
歩けそうなら歩いて、無理なら今日は公園あたりで寝泊まりして体力が回復したらその辺の人間の意識を操って金を借りればいい。
疲労で思考力も落ちる中、それだけの見立てを立ててアカオはドアノブにてをかけた。
「兄さん、おいてかないで。」
去る直前、声が聞こえて、自分でも分からないままアカオは振り返ってトキノを見た。
さっき殴り倒した場所から動かずに、膝を抱えデカい体をちいさく丸めて蹲っている。
肩が微かに上下しているから、泣いているのかもしれない。
昔、遊びに行くときによく同じ言葉を掛けられた事を思い出した。
本当は、年下なのにかけっこも鉄棒もサッカーも自分より上手なトキノを見るのは嫌だった。
一緒に遊んでいたアカオの友達を、時折勝手に術で追い帰されたりしたのも気に入らなかった。
それでもトキノに強請られれば必ずアカオはトキノと一緒に遊んだ。
改めて思い返してみると、その理由はよく分からない。
ただ、アカオが構ってやるとその頃からあまり表情の変わらない子供だったトキノがくすぐったそうに笑うから、それはなんだか誇らしかった。
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