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しおりを挟むこの数日でトキノの態度も軟化した部分がある。
アカオの必死の誘導が実を結んだのか、まず下着とルームウェアを貰えた。
日中おもちゃやトキノに弄られている間は脱がなくてはいけないが、夜寝るときは着ていられる。
それから、首の鎖も閉じ込められている室内を歩き回れるくらいには長いものになった。
とはいえ部屋の扉と玄関の結界はアカオが逆立ちしたって張れない強力な代物で、首輪にも妖術により強化と検知の術が施されている。
アカオがこれらをムリに突破しようとすれば、どれか一つを破るだけでも力が枯渇するし直ぐに術の主であるトキノにばれるだろう。
アカオには自力での脱出は不可能に思えた。
週後半の夜、いつものように散々体を弄られて、トキノに奉仕もした後アカオは服を着ていた。
その時に、ベッドサイドの机に置かれたトキノのスマホが鳴る。
アカオがディスプレイをそれとなく見れば母親だった。
トキノが素早くコールを切っても、また直ぐに掛かってくる。
「出なよ。母さんに心配かけるな。」
そう促せば、トキノはしぶしぶとスマホを取り上げ部屋を出ていった。
流石にアカオの横で応答するほど油断はしていない。
だからアカオは出て行った後すぐさま扉に耳を当てた。
部屋の直ぐ近くで話し始めたのか、かすかにトキノの不機嫌そうな声が聞こえてくる。
アカオは慎重に術を発動し、聴力を強化した。
普通なら、トキノほど力の強い妖狐なら近くで術を使う同胞がいればその気配を察知してしまう。
しかし、アカオもこの数日何もせずにトキノに良いようにされていたわけではない。
あやかしが妖術を察知する能力にも死角のようなものがあるのだ。
その僅かな隙にでごく僅かずつ力を使っていくことで、小さな術なら使える。
アカオはトキノに触れあう中で巧妙にそれを探っていた。
もちろんトキノの隙は他の同胞に比べればないに等しいから、大きなことは出来ない。
せいぜい多少身体を強化するくらいだ。
でも、今は役に立った。
扉の向こうの2人の会話が聞こえるくらいまで聴力は向上している。
トキノはアカオが会話を盗み聞いてるとも知らず電話を続けた。
「だから、俺が全部世話してるから母さんは心配するなよ。」
「まだそんなに気落ちしてるの?お父さんが死んだときは、悲しんでいたけどちゃんとしてたじゃない。ねぇ、原因は本当にそれ?」
母親が電話してきたのは、アカオと連絡がつかなくなったからのようだ。
会話の様子から、既に何度か連絡がありトキノが嘘で誤魔化しているらしい。
「だから、重圧が無くなって後から来たんだろ。兄さんは皆が心配しないように無理してたんだよ。」
「そんなものかしらねぇ。」
「兄さんは優しくて、繊細なんだよ。」
「トキノねぇ、昔からお兄ちゃんをお姫様みたいに扱うけど、あの子案外図太いのよ?」
母親の少しあきれた声音に思わず共感する。
「そんなことないよ。兄さんは無理するところがあるから、誰かが見てきゃ。」
「本当にそうなら、ちゃんと専門家に診せましょ。あなたより正しく対処できるでしょ。」
これまでの会話を聞いて、どうにか母親にトキノの状況が伝われば何か事態が改善するかもしれないと思った。
もちろん母とて当主のトキノに強くは逆らえないだろう。
でも少なくとも、アカオの不在を不審に思っている。それは希望に思えた。
しかし、この後聞こえてきた二人の言葉はアカオに突き刺さった。
「大丈夫、信用して。今まで何だって兄さんより俺の方が上手くやってきたの知ってるだろ?」
「そうだけど、でもそれとこれとは……」
それを聞いたとたん、アカオの中で強い悔しさと怒りがこみ上げてきた。
一番恐れていた。
弟に自分が下の存在に思われる事を。
それに、周りの一族も同意することを。
どうかしてしまいそうなほどの屈辱感でアカオの頭に完全に血が上り、衝動のままに力任せに首輪を引きちぎった。
千切る時に首輪が擦れて首の皮が避け、血がにじむ。
「え?」
術が破られた感覚に、トキノが一瞬戸惑った声を上げた。
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